モバイル Web への対応 (アプリは作るべきか?)
- 公開日 : 2012年2月17日 (2012年2月23日 更新)
- カテゴリー : ユーザーエクスペリエンス (UX)
スマートフォンの普及によって、モバイル環境で Web を利用することも珍しくなくなってきました。これに伴い、「スマートフォン用のアプリをうちでも作りたいんだけど...」という話も多くなっています。モバイル Web への対応として、モバイルアプリ (スマートフォン用のアプリ) を作ることは、もはや必須なのでしょうか。
まずは本質の検討を
大事なのは、「モバイルアプリを作ることありき」ではなく、まずは本質的な問いかけとして、下記について熟考することだろうと思います。
- 目的およびゴール。モバイルを使ってどんなビジネスゴールを達成したいのか。
- ターゲットユーザー像。およびそのユーザーの利用コンテキストや利用シナリオ。
- 提供したいユーザーエクスペリエンス (UX)。モバイルを使ってユーザーにどういう体験をしてもらいたいのか。また、どういう感情/印象/評価を持って欲しいのか。
現実的には、上記に加えて、開発や運営に割けるリソース (コストやマンパワー) も含めて総合的に判断することになります。
基本はモバイル Web サイト
多くの企業においてモバイル対応は、(無理にアプリを作らなくても) 基本的にモバイル Web サイトで十分可能なのではないか?と考えています。このように書くとなんだか消極的な印象を持たれてしまいそうですが、「モバイルアプリを作ることありき」な話が案外多いので、上記の「まずは本質の検討を」に立ち返る意味で、少なくとも初めはこのくらい慎重でもよいのかな、と思います。
「基本はモバイル Web サイト」と考えるのは、下記のメリットがあるからです。
- モバイル Web サイトは、インターネット上に公開することによって、検索エンジンにインデックスされたり、ソーシャルメディアなどから直接被リンクを受けたり、といったことが期待できます。Web エコシステムから独立した形で存在するモバイルアプリよりも、集客がしやすい (多くのユーザーに使ってもらいやすい) と言えます。
- モバイル Web サイトは、アプリと違ってインストールが不要なので、ユーザーの手間を減らすことができます。また、アップデート (バージョンアップ) もユーザーの手を煩わせずに済ませることができます。
- モバイル Web サイトは、ブラウザという標準的な (多くのユーザーが慣れ親しんでいる) アプリの中で展開されます。基本的なユーザーインターフェース (UI) やインタラクションはブラウザ側に既に用意されている状態なので、コンテンツのデザイン (設計) に集中することができます。
- モバイル Web サイトは、Web 標準仕様に則って適切に制作されたものをひとつ用意しておけば、様々な OS やデバイスに汎用的に対応させることができます。一方、モバイルアプリは OS ごとにネイティブアプリケーションとして開発する必要があります (対応する OS の数だけ、アプリを開発しバージョンアップ対応することになります)。
- Web サイト制作の汎用的なフロントエンド技術 (HTML5、CSS、JavaScript) でも、リッチなインタラクションを作り込むことが可能になってきています。
- モバイルの強みのひとつと言える位置情報の活用についても、リンクによって別途地図アプリを起動し、ユーザーの現在位置から目的地へのルートを案内する程度であれば、わざわざアプリを作らなくてもモバイル Web サイトで可能です。また、ブラウザも OS 標準のものであれば位置情報サービスに対応しているので、現在位置を自動取得して情報を送信させるといった程度のインタラクションであれば、モバイル Web サイト内で可能です。
モバイルアプリを作るほうがよいケース
「基本はモバイル Web サイト」であるにせよ、上記「まずは本質の検討を」で挙げた観点で熟考した結果、やはりモバイルアプリを作ったほうがよい、という判断に至るケースも当然あることでしょう。下記に該当する場合は、モバイルアプリを作ることも一考です。
- GPS やカメラなど、モバイル機器ならではの機能を、シームレスにアプリ内で提供する必要がある。
- ブラウザ内で標準的に用意されている UI が「足かせ」になる。たとえば、ブラウザのツールバー (「戻る」「進む」「ブックマーク」「新規ウィンドウ」などのボタンが並ぶバー) では機能的に不十分/不適切で別途オリジナルのツールバーが欲しい、使用中の「没入感」が重要なのにブラウザのツールバーが邪魔である、など。
- ブラウザでは不可能なインタラクションを盛り込む必要がある。
- プッシュ通知が必要である。
- インターネット接続が無いときの使用 (いわゆる「ローカル」での使用) を想定している。
- 有料課金したい。
- ...など。
モバイル Web サイトとモバイルアプリの境目が曖昧に
「モバイル Web サイト」vs「モバイルアプリ」のような構図で話をしましたが、今後は、サイトとアプリの境目は、下記のように次第に曖昧になってゆくと予想されます。
- モバイル Web サイトは、よりスムーズなインタラクションや豊かなユーザーエクスペリエンスの提供が求められ、次第に「アプリ化」してゆくことでしょう。
- モバイルアプリは、従来のネイティブアプリケーション開発技術 (OS 指定のプログラム言語+SDK) だけでなく、より汎用性の高い Web 制作技術 (HTML5 + CSS + JavaScript/jQuery Mobile など) が使われるようになってゆくと思います (PhoneGap のように、標準的な Web 制作技術で作られたものをネイティブアプリケーションとしてオーサリングできるツールも出てきています)。
モバイル Web サイトとモバイルアプリの境目の曖昧化という意味で象徴的だなと思うのは、Facebook のモバイルアプリです。以前は、iPhone のホーム画面 (アプリのアイコンが縦横に整然と並んでいる) のごとく、Facebook 内の各機能がアイコン化されダッシュボード表示されていたのですが、現行バージョンでは、画面左側からメニューをスライドさせて開く UI になっています (これは、Facebook のモバイル Web サイトと同じです)。トレンドになりつつあるデザインパターンかもしれませんが (「Gmail」「Path」など、このようにメニューをスライドさせて開く UI を採用するアプリが増えています)、多様な OS/デバイスで共通の UI を提供できるメリットを重視した結果、とも言えそうです。


ちなみに、「Facebook におけるモバイル機器からの投稿数は、モバイル Web サイト (m.facebook.com) がもっとも多い (Android、iPhone、その他のモバイルアプリからの投稿数トータルよりも多い)」というレポート (2011年5月) があります。また、「Financial Times (英国の一流経済紙) は、モバイルアプリよりモバイル Web サイトのほうが多く閲覧されている」というレポート (2011年9月) もあります。上記の「まずは本質の検討を」の観点に立ち、「なぜ、敢えてモバイルアプリを作るのか?」という問いに対して明確な理由を持つことが、モバイルアプリの開発/運用において今後より一層重要になってくることでしょう。