ほんとに使える「ユーザビリティ」
「ほんとに使える「ユーザビリティ」 — より良いデザインへのシンプルなアプローチ」 を読みました。(2013年発行の書籍なので、遅まきながら、ではありますが...)
主にウェブ (サイトやアプリケーション) のユーザビリティに焦点を当てた入門書、と言えそうですが、ケーススタディとして引き合いに出される例にはリアルワールドのプロダクトやサービスも多く挙げられていて、より広い視点でユーザビリティを捉え直すことができる良書だと思います。語り口も軽妙 (ときに皮肉交じり) で、また、誌面の中には (ユーザビリティ問題の実例を示すための) カラー写真も豊富に使われているので、面白く読み進めることができます。
この記事では、本書を読んで得た学びや感じたことを 、メモとして (引用というよりは私自身の解釈が混じった形ですが) 箇条書きにまとめます。
- ユーザビリティには、「使いやすさ (ease of use)」と「優美さと明快さ (elegance and clarity)」の2つの要素がある。
- 「使いやすさ (ease of use)」の構成要素
- 機能性 (functional)
- 反応性 (responsive)
- 人間工学性 (ergonomic)
- 利便性 (convenient)
- 万人保証性 (foolproof)
- 「機能性 (functional)」とは、ちゃんと機能 (動作) するか、ということ。
- 「反応性 (responsive)」とは、トランジションやフィードバックが明快であること。不十分だと FUD (fear 恐れ、uncertainty 不安、doubt 疑い) につながる。
- 「人間工学性 (ergonomic)」とは、身体的な負荷なく、見やすかったり操作しやすかったりすること。
- 「利便性 (convenient)」とは、必要なものごとが、必要なところにちゃんとあること。コンテキストも含めた配慮が大事。
- 「万人保証性 (foolproof)」とは、デザインのせいでユーザーがミスをしたり壊したりしなくても済むこと。RAF (remind 備忘、alert 警告、force 強制) を意識することが大事。
- 「優美さと明快さ (elegance and clarity)」の構成要素
- 可視性 (visible)
- 理解可能性 (understandable)
- 論理性 (logical)
- 一貫性 (consistent)
- 予測可能性 (predictable)
- 「可視性 (visible)」とは、ちゃんと目に見えて、かつ伝わること。「あればよい」というものではない。情報ノイズやバナーブラインドネスに注意。
- 「理解可能性 (understandable)」とは、ユーザーが何を見ていて、それがどう機能するか、わかること。「共有参照 (shared reference)」、つまり作る側 (デザイナー) と使う側 (ユーザー) が同じ基本的理解を共有していることが大事。
- 「論理性 (logical)」とは、見ているものとその意味付けがかみあっていること。不十分だと「デザイン的不協和」を起こす。演繹法や帰納法による理解に加えて、遡行的推論 (過去の経験で形成されたメンタルモデルを類似した状況に応用すること) も、特に「一貫性」と「予測可能性」(後述) に大きく関わる点で重視したい。
- 「一貫性 (consistent)」とは、何かをしたときにどうなるか、という決まりごと (ルール) に変更がないこと。メニュー (選択肢) の提示、ボタンに割り当てられた機能、アイコンの意味、など。標準化によって促進される。
- 「予測可能性 (predictable)」とは、何かをしようとしたときに、その結果として次に何が起こるかが容易にわかること。
なお本書の終章では、上記 (本編の内容) を踏まえ、どうユーザビリティを改善してゆくかについての言及があります。
- あらゆるモノにユーザビリティの問題がある
- 問題を修正するためのリソースが足りることはない
...という現実を受け入れたうえで、「ゲリラ形式ユーザビリティ」のすすめを説いています。ヒューリスティクスや簡易ユーザビリティテストによって問題を見つけたら :
- ミッションクリティカルな変更 (コンバージョンに大きな影響がありそうなもの)
- 小さな勝利、手軽な修理 (修正に大きな手間や時間がかからず小刻みな改善をもたらすもの)
...からまずは優先的に着手してみよう、というものです。実際問題として、ユーザビリティ改善の活動は、限られたリソースの制約によって頓挫することが多いものですが、「それでも、やれる範囲で、少しずつ実践してみよう」という著者のアドバイスは、とても地に足の着いたものだと言えるでしょう。