ウェブコンテンツを視線 (または頭や顔の動き) で操作する
ウェブコンテンツは、ユーザーの視線、または頭や顔の動きを用いて操作することができます。上肢に障害がある (腕や手指を動かせない / 動かしにくい) など、マウス操作、タッチ操作、キーボード操作が困難な状況において、有用なコントロール手段となります。
こうした操作を行なうためのツールとして代表的なのは、アイトラッキング (eye tracking) 機器です。もともとアイトラッキングの技術は「ユーザーが画面上のどこを見ているか」を追跡して記録するもので、ユーザビリティテストやユーザーリサーチで活用されているものですが、現在ではユーザーが自身のソフトウェアを操作する手段としても応用されています。たとえばゲームのコントローラーとして Tobii Eye Tracker 5 のような製品がありますし、また障害者向けの支援技術として Tobii Dynavox PCEye のような製品があります。
こうしたアイトラッキングの機器を実際に購入するのももちろんよいですが、実は macOS や iOS には、ウェブコンテンツを視線、または頭や顔の動きで操作できる機能が標準で備わっています。この記事では、こうした操作を体験いただける、各 OS の標準機能をご紹介します。
macOS の「ヘッドポインタ」
macOS には「ヘッドポインタ」という機能があります。これは厳密には視線による操作ではなく、頭や顔の動きによる操作になります。とはいえ操作感としては、自分の目でマウスポインタの位置を見ながら頭 (または顔) を動かす形になるので、擬似的なアイトラッキングと言えるかと思います。
設定 > アクセシビリティ > ポインタコントロール、と進み「ヘッドポインタ」をオンにします。
併せて「代替ポインタアクション」をオンにすると、顔の表情でポインタに関連するアクションを実行することができます。たとえば、目をまばたく、舌を出す、口を開ける、笑う、などによって、左クリック、右クリック、ドラッグ&ドロップといった操作ができるようになります (顔の表情の変わりに、物理スイッチをアサインすることも可能です)。
スクロールは、物理キー (矢印キー) を使うのが基本になりますが、キーボード操作が困難な場合は、画面上で「アクセシビリティキーボード」を起動して「滞留アクション」を用いるというオプションもあります。
設定 > アクセシビリティ > キーボード、と進んで「アクセシビリティキーボード」をオンにします。起動した「アクセシビリティキーボード」の右上にある三点リーダーのボタンをクリックして、「滞留」メニューのオプションから「滞留アクションツールバーをパネルで使用可能にする」を選択すると、アクセシビリティキーボードに滞留アクションのツールバーが表示されます。
滞留アクションのツールバーの「スクロールメニュー」ボタンをクリックして、ポインタをスクロールしたい対象 (たとえばブラウザのコンテンツ表示領域) まで動かすと、スクロール方向を示すボタンがオーバーレイ表示されます。下向き矢じりボタンにポインタを当てると下方向に、上向き矢じりボタンにポインタを当てると上方向に、スクロールすることができます。滞留アクションではこのほかに、左クリック、右クリック、ダブルクリック、ドラッグ&ドロップ、といった操作も可能です。
iOS の「ヘッドトラッキング」
iOS では (本記事執筆時点の最新のバージョンである) 26で、「ヘッドトラッキング」という機能が追加されました。上述の macOS の「ヘッドポインタ」と同様の機能です。
設定 > アクセシビリティ > ヘッドトラッキング、と進み「ヘッドトラッキング」をオンにします。
併せて、ヘッドトラッキングの設定画面の「アクション」でオプションを選択することによって、顔の表情でポインタに関連するアクションを実行することができます。たとえば、眉を上げる、口を開ける、笑う、舌を出す、目をまばたく、などによって、タップやスクロールをはじめ、様々な操作ができるようになります。
また、ヘッドトラッキングの設定画面で「滞留コントロール」をオンにすると、ポインタを一定時間、操作可能な対象 (リンクやボタンなど) に当てたまま動かさずにいるとタップする、といった操作ができるようになります。
iOS の「視線トラッキング」
上述のヘッドトラッキングは iOS 26 以降の機能ですが、それ以前の iOS には「視線トラッキング」という機能がありました。この機能は引き続き iOS 26 にも備わっていますが、こちらは頭や顔の動きによる操作ではなく、視線の動き (アイトラッキング) による操作になります。
設定 > アクセシビリティ > 視線トラッキング、と進み「視線トラッキング」をオンにします。キャリブレーション (ユーザーの視線の動きの測定) が実行され、視線の動きでポインタを動かすことができるようになります。
ちなみにヘッドトラッキングではデバイスのカメラが頭 (顔) 全体をモニターするため、顔の表情でポインタに関連するアクション (タップやスクロール) ができるのですが、視線トラッキングはあくまでも視線の動きのみをモニターするものなので、顔の表情の変化 (目をまばたく、など) は検知されません。そのため、タップやスクロールを行なうには「滞留コントロール」を用いる必要があります。
視線トラッキングの設定画面で「滞留コントロール」をオンにすると、ポインタを一定時間、操作可能な対象 (リンクやボタンなど) に当てたまま動かさずにいるとタップする、といった操作ができます。スクロール操作をする場合は、AssistiveTouch のメニューにあらかじめ「スクロール」を登録しておき、視線の動きと滞留コントロールで AssistiveTouch を起動し、スクロールの方向を選択する、という形になります。
以上、ウェブコンテンツを視線 (または頭や顔の動き) で操作できる、macOS および iOS の標準機能をご紹介しました。
実際に体験してみると、ポインタの動きを精緻にコントロールするのは、思いのほか難しいということが実感いただけるかと思います。滞留コントロールを用いたスクロールなど、操作によってはモードの切り替えが発生することでまどろっこしく感じることもあるでしょう。また上記では特に触れませんでしたが、フォームのテキスト入力時にはオンスクリーンのキーパッド (macOS の場合は「アクセシビリティキーボード」) にポインタを当ててキーを押下する操作を視線 (または頭や顔の動き) を用いて繰り返す形になるので、ユーザーの負荷は相当なものになるでしょう。
ウェブコンテンツの作り手としては、こうした操作に依存せざるを得ないユーザーでもなるべくストレスなく使えるように、シングルクリック (タップ) 操作だけですべての情報にアクセスできる導線設計にすること、操作可能なオブジェクト (リンクやボタン) のサイズや間隔を十分に確保すること、リンクやボタンの入れ子を避けること、などを意識したいものです。たとえば 「ターゲットのサイズ (最低限)」に抵触しやすい箇所 という記事で指摘したようなケースは、ウェブコンテンツを視線 (または頭や顔の動き) で操作するユーザーにとっても障壁になる可能性が高いことに留意しましょう。