Mac OS X における音声読み上げ (VoiceOver)

Mac OS X には、VoiceOver(ボイスオーバー)という音声読み上げ機能(スクリーンリーダー)が搭載されています。エクストラなコストをかけてスクリーンリーダーソフトを別途購入しなくてもよいということもあり、Webアクセシビリティ関係者の間では注目を集めています。たとえば、当サイトの記事「スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2009年10月実施の WebAIM 調査より」でも触れましたが、2010年3月に開催されたCSUN(アクセシビリティに関する国際会議)において、WebAIM(Web アクセシビリティ向上活動をしている米国の NPO)による研究発表があり、VoiceOver を含む無料のスクリーンリーダーのユーザーが急増しているというレポートもあります。

今回の記事では、VoiceOver による音声読み上げの具体的な操作方法について解説したいと思います。Web サイトを実際に制作している方は、Mac をメインのコンピュータとしてお使いのケースが多いと思いますが、そうした方にも、制作物の品質チェックに「音声読み上げがきちんとできるか」を盛り込んでいただくきっかけになれば嬉しいです。

事前準備

VoiceOver を使って日本語による音声読み上げをするには、日本語音声を設定する必要があります。次の手順で設定します。

  1. 「システム環境設定」の「ユニバーサルアクセス」を開く。
  2. 「VoiceOver ユーティリティ」を開き、メニューから「スピーチ」を選択する。
  3. 「声」のプルダウンから、音声の種類を選ぶ。
VoiceOver ユーティリティ「スピーチ」設定の「声」の選択

Mac OS X 10.7 (Lion) 以降では、日本語音声 (Kyoko) を無料で使うことができます。デフォルトでプレインストールされているのは「Kyoko」のお試し版「Kyoko Compact」なので、これを機会に「Kyoko」を入手しておくとよいでしょう (上記の手順 3. のプルダウンで「カスタマイズ」を選ぶと、「Kyoko」をダウンロード/インストールできます)。

なお、Mac OS X 10.6.x (Snow Leopard) 以前をお使いの場合は、無料の日本語音声 (Kyoko) はプレインストールされていないので、別途、日本語音声合成エンジンを入手します。クリエートシステム開発株式会社さんの「ドキュメントトーカ日本語音声合成エンジン for Mac」が、ベクターからダウンロード購入できます。インストールすると、上記の手順 3. のプルダウンメニューで「Keiko (女性の声)」「Takashi (男性の声)」を選択できます。Mac OS X 10.7 (Lion) 以降をお使いで、「Kyoko」よりも高音質な日本語音声が欲しい、という方にもおすすめです。

VoiceOverの使いかた

この記事では主に、Web サイト閲覧に関係の深い操作方法に絞って、ご紹介したいと思います。なお、VoiceOver 全般に関する詳細な公式情報については、アップル社の VoiceOver Getting Started を併せてご覧いただければと思います。

VoiceOverの起動

「システム環境設定」の「ユニバーサルアクセス」で、VoiceOver を「入」にします。または、[コマンド]+[F5]キーを押すことで、VoiceOver を起動することもできます。

基本操作

VoiceOver キー(VO キー)

VoiceOver を使うには、大半のケースで、「VoiceOver キーを押しながら xx キーを押す」という操作になります。VoiceOver キーとは、[control]キーと[option]キーを同時に押すことなので、覚えておきましょう。以下の説明では、「VoiceOver キー」は「VO」と表現します。

ちなみに、操作するたびにVoiceOver キーを押すのが面倒な方のために、VoiceOver キーをロックする機能も用意されています。VoiceOver キーのロックおよびロック解除は、[VO]+[;]を押します。VoiceOver キーをロックすると、[control]キーと[option]キーの同時押下を省略できるので操作が楽になる反面、VoiceOver キーを伴わない操作をする際に影響が出る(意図した通りに機能しない)ことがあるので、注意が必要です。

音声の速度、ピッチ(高さ)、音量などの変更

[VO]+[コマンド]+[矢印キー]
左右矢印で、速度、ピッチ、音量、抑揚、声の種類、のメニューを開くことができます。上下矢印キーで値の選択をします。

その他の細かな諸設定は、「VoiceOver ユーティリティ」で可能です。「VoiceOver ユーティリティ」は、[VO]+[F8]で開くこともできますし、「システム環境設定」の「ユニバーサルアクセス」から開くこともできます。

OS 全般に関する操作

[VO]+[M]
Mac OS のメニューバーを、読み上げ対象としてフォーカスします。このキー操作を繰り返すと、フォーカス位置が、ステータスメニューアイコンの部分、Spotlight の検索ボックス、...という具合に移動します。フォーカスされた位置からメニュー項目を選択するには、以下の操作をします。
  • メニュー項目を左右に移動:左右矢印キー
  • メニュー項目の中を下に移動:下矢印キー
  • メニュー項目の中を上に移動:上矢印キー
  • サブメニューへの移動/戻り:右矢印/左矢印キー
  • メニュー項目のフォーカスされている項目を選択:[VO]+[スペース]
  • メニューバーからの離脱:[esc]
[コマンド]+[tab]
開いているアプリケーションのうち、どれをアクティブにするかを切り替えることができます。

ブラウザ(Safari)での読み上げ操作

ウェブページ全体の読み上げ
VoiceOver ユーティリティ(「システム環境設定」の「ユニバーサルアクセス」から開くか、[VO]+[F8]で直接開く)の「Web」の設定で、「Web ページを自動的に読み上げる」にチェックが入っていれば、ブラウザにページが表示され次第、自動的にページ全体を読み上げます。うまくいかない場合は、ページをリロードしてみるとよいでしょう。
[control]
音声読み上げを一旦停止します。
[VO]+[矢印キー]
VoiceOver カーソル(黒い囲みで表示される、VoiceOver の読み上げ対象箇所)を動かすことができます。
VoiceOver ユーティリティ(「システム環境設定」の「ユニバーサルアクセス」から開くか、[VO]+[F8]で直接開く)の「Web」の設定を見ると、通常は、Webページのナビゲート方法が「DOMの順序」に指定されていると思いますが、その場合、上下の矢印キーは使えず、左右の矢印キーのみで、読み上げ位置を移動させます。
[VO]+[A]
VoiceOver カーソルが置かれている場所の内容を一通り読み上げます。読み上げ終わったら、自動的に次の位置に VoiceOver カーソルが動いて、読み上げを継続します。
[VO]+[S]
VoiceOver カーソルが置かれている場所で、センテンス(文)を読み上げます。
[VO]+[P]
VoiceOver カーソルが置かれている場所で、段落を読み上げます。
[VO]+[コマンド]+[H]
見出しナビゲーション操作ができます(<h1>から<h6>でマークアップされた見出し要素にジャンプして、行き来できます)。
[VO]+[スペース]
フォーカス位置(リンク箇所)に対して、マウスクリックに相当する操作をします。ボタンのクリックや、チェックボックス/ラジオボタンの選択といったフォームコントロールの操作も含みます。
マウスクリックに相当する操作は、単独で[enter]キーを押すことによっても可能です。ただし、うっかり[VO]キーがロックされている場合は[enter]キーを押しても効かないので(コンピューター側が、[VO]+[enter]を押したと解釈してしまう)、VoiceOver を使うにあたっては、[enter]ではなく、[VO]+[スペース]を使うことを習慣づけるのがよいと思います。
[VO]+[shift]+[U]
フォーカス位置(リンク箇所)のURLを読み上げます。
[VO]+[shift]+[M]
いわゆる右クリック(Mac の場合、[control]キーを押しながらクリックですね)に相当する操作をします。
[VO]+[home](MacBook などノート型の場合は、[fn]キーも同時に押す)
ページの先頭(<body>要素が開始される場所)までジャンプします。
[VO]+[end](MacBook などノート型の場合は、[fn]キーも同時に押す)
ページの最後(<body>要素が閉じられる直前の位置)までジャンプします。
[VO]+[shift]+[W]
VoiceOver カーソルが Safari のアプリケーションウィンドウ側に移動します。左上の「閉じる」「しまう」「拡大/縮小」ボタンから順に読み上げを開始し、アドレスバーや検索窓、ブックマーク、タブを経て、Web コンテンツの読み上げに進みます。
[コマンド]+[L]
VoiceOver カーソルが Safari のアドレスバーに移動し、URLを読み上げます。
前へ戻る/次へ進む
コマンドキーを押しながら、" [ " キーを押すと、ブラウザの表示履歴に残っている「前のページ」へ戻ります。コマンドキーを押しながら、" ] " キーを押すと、ブラウザの表示履歴に残っている「次のページ」へ進みます。
タブの切り替え
複数のタブが開いている場合、コマンドキーを押しながら、" { " または " } " キーを押すと、アクティブなタブを切り替えることができます。ただし、VO キーがロックされている状態でこの操作をすると、「Webスポットの解除/設定」(下記参照)になる場合があるので注意が必要です。
データテーブルの読み上げ
[VO]+[矢印キー]で、データテーブル上を上下左右に移動することによって、セルの内容を読み上げることができます。左右方向に(列をまたいで)移動した場合は、今いるセルが何列あるうちの何列目かを、また、上下方向に(行をまたいで)移動した場合は、今いるセルが何行あるうちの何行目かを、併せて読み上げてくれます。
テーブルヘッダー(<th>)が適切にマークアップされていれば、左右に(列をまたいで)移動してセルを読み上げる際、当該セルの列の見出しも同時に読み上げてくれます(同様の機能が、行についてもあるとよいのですが、残念ながら無いようです)。また、[VO]+[C]を押すたびに、今いるセルの列の見出しを読み上げます。
フォームの読み上げ
<label>要素によって、適切にフォームコントロールとラベルが関連づけられている場合、[tab]キーを使ってフォームコントロール(チェックボックスやラジオボタン、テキストボックスなど)だけにフォーカスを当てても、関連づけられているラベル記述が読み上げられます。<fieldset>要素でフォームコントロール群が括られている場合は、各フォームコントロールにフォーカスが当たる都度、フィールドセット名が読み上げられます。
VoiceOver カーソル内部の拡大/縮小表示
主にロービジョン(弱視)のユーザーにとって有効な機能だと思いますが、VoiceOver カーソルの内容を、拡大/縮小表示させることができます。[VO]キーを押しながら " } " を押すと拡大、[VO]キーを押しながら " { " を押すと縮小になります。

使いこなすと便利な機能

ページの構成要素の一覧表示
[VO]+[U] で、見出し一覧(ヘッダ)などをメニュー表示します。この状態で右矢印キー(または左矢印キー)を押すと、ヘッダ、リンク、自動 Web スポット、フォームコントロール、Web スポット、訪問済みリンク、未訪問リンク、表、フレーム、イメージ...と切り替えることができるので、ユーザーは瞬時に、アクセスしたい箇所にジャンプすることができます。
ちなみに「自動 Web スポット」とは、Web ページ上で(情報構造ではなくビジュアル的な観点で)重要であると Mac が自動的に判断した箇所に付与される目印のようなものです。
Webスポットの解除/設定
「自動 Web スポット」は、ユーザーが変更することはできませんが、代わりに、ユーザーが任意で設定できる「Web スポット」という機能もあります(この、任意の「Web スポット」も、上記「ページの構成要素の一覧表示」のメニューの中にも含まれています)。VoiceOver カーソルが当たっている箇所で、[VO]+[コマンド]を押しながら、" } " を押すと、当該箇所を Web スポットとして設定します。[VO]+[コマンド]を押しながら " {" を押すと、Web スポット設定を解除します。
検索メニュー
[VO]+[shift]+[F]で、「検索」というメニューを開くことができます。ページ内の様々な要素にアクセスすることができる機能です。

Webページを閲覧するためのモード選択

話が前後しますが、VoiceOver で Web ページを閲覧するには2つのモードがあります。どちらのモードで閲覧するかは「VoiceOver ユーティリティ」で選択することができます。手順は以下の通りです。

  1. VoiceOver 起動時に、[VO]+[F8]で、「VoiceOver ユーティリティ」を開きます。「システム環境設定」の「ユニバーサルアクセス」から開くこともできます。
  2. メニューから「Web」を選択します。
  3. 「Web ページのナビゲート方法」として、「DOM の順序」または「項目をグループ化」を選択します。

以下、各モードについて簡単にご説明します。

「DOM の順序」モード
VoiceOver カーソルを、リニアに、ソースコードの記述順に動かすモードです。読み上げ順序が、開発者が制作したソースコードの記述に依存する、オーソドックスなモードと言えるでしょう。ページ内に情報がたくさんある場合、目的の情報に辿り着くまでに時間がかかる可能性はありますが、基本的に Web サイトは、この「DOM の順序」モードでストレス無く回遊できることを目指すべきだと思います。
「項目をグループ化」モード
これは、VoiceOver を使い慣れたユーザーが、より効率的にナビゲートしたい場合に使うモードと言えます。ページ内に情報がたくさんあっても、このモードを使いこなせば、目的の情報により素早く辿り着けるでしょう。ただし、オーソドックスな方法ではないため、Web アクセシビリティ(とりわけ、音声で読み上げた場合の妥当性)の検証には向かないと思います。一般的には、「DOMの順序」モードにしておくのが無難でしょう。

スクリーンカーテン

スクリーンカーテンとは、VoiceOver 使用時に、Mac のディスプレイ表示を見えなくする(真っ暗にしてしまう)機能です。視覚による手がかりがまったく得られなくなるので、Web ページが音声読み上げだけでアクセシブルなものになっているかどうか、より厳密に検証することができます。[VO]+[shift]+[F11]で、スクリーンカーテン機能のオン/オフができます。

リファレンス

その他、VoiceOver には、リファレンスとしていくつかの機能が用意されています。必要に応じてご活用ください。

[VO]+[コマンド]+[F8]
「QuickStart(VoiceOver の基本操作のチュートリアル)」を起動します。各種操作の平易な解説に加えて、練習問題も(!)用意されているので、初めて VoiceOver に触れる人がじっくりと基礎を学びたい場合に、便利です。
[VO]+[H]
ヘルプのメニューを開きます。
[VO]+[shift]+[?]
VoiceOver のオンラインヘルプを開きます。

効率的な音声読み上げコントロール (「クイックナビ」と「トラックパッドコマンダー」)

VoiceOver には、より効率的に音声読み上げをコントロールできる便利な操作方法として「クイックナビ」「トラックパッドコマンダー」という機能が用意されています。詳しくは、記事「Mac OS X における音声読み上げ (VoiceOver) (その2) : 「クイックナビ」と「トラックパッドコマンダー」」をご覧ください。