個人的「WAI-ARIA 元年」に感じたこと

この記事は、「Web Accessibility Advent Calendar 2014」の12日目のエントリーです。

今年もいくつかのウェブサイト設計案件で、アクセシビリティの改善に関わることができました。特に今年は、実際のプロジェクトで WAI-ARIA を採り入れる機会があり、個人的に「WAI-ARIA 元年」だったな…と思います。

WAI-ARIA とは、Web Accessibility Initiative (W3C の中で、Web アクセシビリティに関する仕様を検討する部会) が策定した、Accessible (アクセシブル) な Rich Internet Applications (リッチインターネットアプリケーション : RIA) に関する仕様です。この仕様で定められた記述をソースコードに加えることによって、JavaScript などでインタラクティブに動くユーザーインターフェース (UI) であっても、その状況の変化を、マシンリーダブルな形で支援技術 (スクリーンリーダーなど) に伝達することができます。

奇しくも、WAI-ARIA 1.0 が W3C の勧告 (Recommendation) になったのも今年 (3月) のことであり、その意味でも、今年は「WAI-ARIA 元年」と言えるかもしれませんね。

チャレンジングで面白い WAI-ARIA

実際に WAI-ARIA をプロジェクトに採り入れてみて感じたのは、サイトの作り手側から見て、WAI-ARIA の実装はチャレンジングで面白い、ということです。たとえば :

...といったページ遷移を伴わないインタラクションであってもスクリーンリーダーで利用可能にすることができますし、また、同一ページ内に複数の類似したブロック (たとえば複数のナビゲーションメニュー) があっても各々の役割の違い (たとえばグローバルナビゲーションとローカルナビゲーション) がスクリーンリーダー経由で伝わるようラベリングすることもできます。つまり、従来スクリーンリーダーで不可能だったことや不便だったことが、WAI-ARIA によって解決できるのです。実際にスクリーンリーダーを使って動作検証してみると「感動的」ですらあります。

この「感動的」というのが少々曲者で、WAI-ARIA をいろいろと試しているうちに、ついつい「アクセシビリティはこれでバッチリ」という錯覚に陥りやすい、ということも実感しました。実際のプロジェクトでは、限られたリソースの中でトレードオフを伴ったデザイン上の決断をする場面が多いわけですが、その際「WAI-ARIA でスクリーンリーダー対策はできているし、OK でしょう」となりやすいのです。そのこと自体は悪くないですし、現実的な解ではあるのですが、実は「アクセシビリティはこれでバッチリ」でないかもしれないことは、きちんと意識する必要があるのかな、と思っています。

WAI-ARIA は支援技術サポートでしかない

あくまでも WAI-ARIA は、スクリーンリーダーなど支援技術をサポートするものです。つまり、WAI-ARIA の恩恵を受けるのは、支援技術ユーザーである障害者 (大雑把に言ってしまうと、スクリーンリーダーや点字ディスプレイを利用する視覚障害者ならびに視聴覚障害者) に限定される、と言えます。

ウェブアクセシビリティがカバーすべき範囲は障害者だけでなく、高齢者や、多種多様な利用環境 (異なるデバイス、ブラウザ、場所や時間、など) のユーザーも含まれるべきですが、そう考えると「アクセシビリティ対応」イコール「WAI-ARIA の実装 (支援技術サポート)」とならないことは明らかでしょう。また、障害 (使用している支援技術) の種類によっては WAI-ARIA の恩恵を受けないユーザーもいることに留意する必要があります。

あるサイトでアイコンの実装を検討したときのことです。「アイコンフォントを採用するものの、デザインの兼ね合いでアイコンの隣にラベルを表示することができない、でも aria-label 属性を使ってアイコンの代替テキストを記述すればスクリーンリーダーで読み上げることができるよね。」— 落とし所として申し分ないと思ったのですが、正直その瞬間は、音声認識ソフトを使っているユーザーにとっては使いにくいことまでは考えが及びませんでした。幸い Twitter での議論を通じて気づきをいただくことができ、それがきっかけで「アイコンとラベルの併記」という記事を書いたりしましたが、WAI-ARIA の挙動に感動して夢中になってしまうことの危うさ、という意味で貴重な教訓だったと思います。

このあたりのバランスを、もっともっと意識しなければならないな…と改めて考えさせられた、2014年でした。