動画や音声の自動再生
動画 (ビデオ) や音声 (オーディオ) をウェブページに埋め込むことは、今や珍しいことではありません。その際、ページの読み込みと同時に動画や音声を自動的に再生させたい…という考えもあるかもしれませんが、アクセシビリティおよびユーザビリティの観点で問題があるので、慎重に考えたいところです。
アクセシビリティの問題
アクセシビリティの観点で考えると、動画や音声の自動再生には、以下の問題があります。
- 視覚障害を持つユーザーがスクリーンリーダーを併用している場合、動画や音声コンテンツから発せられる音が邪魔になって、スクリーンリーダーの読み上げを聞き取ることができなくなる。
- ユーザーが (動画や音声コンテンツ以外の) コンテンツを閲覧しようとする際、動きや音が邪魔になって、理解の妨げにつながる。特に認知障害や学習障害を持つユーザーに対して深刻な影響を与える。
こうした問題への対応として、WCAG 2.0 / JIS X8341-3:2010 には以下の達成基準があります。
ウェブページ上にある音声が自動的に再生され、その音声が3秒より長く続く場合、その音声を一時停止若しくは停止するメカニズム、又はシステム全体の音量レベルに影響を与えずに音量レベルを調整できるメカニズムを提供しなければならない。
出典 : JIS-X8341-3:2010「7.1.4.2 音声制御に関する達成基準 (等級A)」
動きのある、点滅している、スクロールする、又は自動更新する情報に対しては、次のすべての事項を満たしていなければならない。
- a) 動き、点滅及びスクロール 動きのある、点滅している、又はスクロールしている情報が、自動的に開始し、5秒よりも長く継続し、かつ、その他のコンテンツと並行して提示される場合、利用者がそれらを一時停止、停止又は非表示にすることのできるメカニズムがある。ただし、その動き、点滅又はスクロールが必要不可欠な動作の一部である場合は除く。
- (以下略)
出典 : JIS-X8341-3:2010「7.2.2.2 一時停止、停止及び非表示に関する達成基準 (等級A)」
上記の達成基準を読むと、動画や音声を自動再生させても、ユーザーが任意で停止操作できるユーザーインターフェース (UI) さえ用意しておけばよい、という解釈ができそうです。ただ、任意に停止するという行為を完遂できるまで、ユーザーに少なからず負荷を与え続けることになりますので、デフォルト (ページ読み込み時) では停止状態にしておいて、ユーザーの任意で再生するようにしておくほうがベターであると思います。
ユーザビリティの問題
ユーザビリティの観点で考えると、ユーザーのアクションに対するシステム (ウェブサイト) からのリアクション (フィードバック) は、ユーザーの期待に沿ったものであることが求められます。そして動画や音声の自動再生は、大半のウェブページにおいてユーザーの期待に反する恐れがあることに注意する必要があります。
期待に反したことが起こると、ユーザーは混乱し、怒りを覚え、どうしたらよいかわからずパニックに陥ることすらあります。特に他人の目がある「公共の場」で、自分のデバイスから不意に音が出てしまったりすると、ユーザーにかかる心的プレッシャーは相当なものになるでしょう。
かつて、ウェブ利用が可能な「公共の場」は、インターネットにつながった PC のあるオフィスなどに限られていました。ところが、モバイルデバイス (スマートフォンなど) の普及によって、現在ではウェブ利用が可能な「公共の場」は格段に広がっています (電車やバスの車内、駅、空港やホテルのラウンジ、レストランやカフェ、店舗、図書館、博物館や美術館、病院の待合室、旅先のドミトリー、などなど…)。このため、ウェブサイトから不意に音が出ないようにする配慮の重要性はますます高まっており、音を出すかどうかのコントロール権は全面的にユーザーに委ねるべき時代になっていると言えます。
YouTube を例に自動再生を是とする意見もあるが…
自動再生の是非について議論をしていると、「YouTube はページの読み込みと同時に自動再生をさせているではないか」という意見を聞くことがあります。確かにその通りですが、YouTube の各動画ページの場合、「ある特定の動画を再生すること」自体が主目的である (YouTube の各動画ページを開くことは即ちその動画を再生することである、と言い切れる) ことに留意する必要があると思います。
YouTube の各動画ページへの動線には以下のように様々な経路がありますが :
- YouTube サイト (またはアプリ) 内の検索結果から、再生したい動画をクリック (タップ) する。
- 検索エンジンの検索結果から、探し求めていた YouTube 動画へのリンクを見つけてクリック (タップ) する。
- SNS でシェアされて自分のタイムラインに流れてきた YouTube 動画へのリンクが、面白そうなのでクリック (タップ) する。
- ブラウザのブックマークに登録してある YouTube 動画へのリンクを、改めて視聴したいと思ってクリック (タップ) する。
…上記のいずれに動線においても、YouTube の各動画ページを開くためのクリック (タップ) 行為が、ほぼイコールで「その特定の動画を再生するという意思表示」であると言えそうです。このため YouTube では動画の自動再生が許容される (実際、自動再生されてもユーザーは特にフラストレーションを感じることがない) のではないかと思いますが、これは動画専用サイトならではの特例と言えるでしょう。
埋め込まれた単一の動画または音声コンテンツの再生それ自体が、ページの主たる (ほぼ唯一の) 機能である場合に限っては、自動再生をしてもよいかもしれませんが、そうではない (世のほとんどの) ウェブページにおいては、デフォルト (ページ読み込み時) では動画や音声は停止状態にしておいて、ユーザーの任意ではじめて再生するようにしておくのが基本かなと思います。