悩ましい PDF まわりのアクセシビリティ

ウェブコンテンツとして、PDF 形式で情報が提供されることがあります。印刷利用を想定した資料や各種書式のほか、プレスリリースや緊急情報が PDF で発信されるケースもあります。

情報提供の手段として PDF が採用される理由は、ひとえに作業効率であると言えるでしょう。紙用に体裁を整えた電子ファイルをそのまま手間をかけずに流用したいというもので、スピーディにコストをかけずに情報発信するという意味では合理的です。しかし PDF の元データ (紙用に体裁を整えた電子ファイル) の多くは紙面として見た印象だけでレイアウトされており、ウェブの多様な利用文脈を想定した情報構造になっていないので、そのまま PDF 化してウェブに公開するとアクセシビリティが不十分になります。

ウェブコンテンツとして提供される以上、HTML で制作されたページと同様に PDF もまたアクセシブルであるべきです。技術的なノウハウは既にある程度語られており、W3C Working Group Note としてまとめられています。(参照 : PDF Techniques for WCAG 2.0 / 日本語訳 : PDFの達成方法)

しかし HTML と異なり、アクセシブルな PDF ファイルをオーサリングできるツール (およびそのツールを熟知し使いこなせる人的リソース) は比較的限られていることもあり、サイト運営に関わる人 (コンテンツ更新に携わる人) が多くなるほど、PDF のアクセシビリティ担保は難しいチャレンジになるなという実感があります。そもそも HTML + CSS + JavaScript のアクセシビリティすら課題なのに PDF のアクセシビリティ担保までは手が回らない...というのが多くの組織の実情ではないでしょうか。

アクセシブルな PDF 制作を徹底できれば理想的で、リソース的に可能であれば是非とも (できれば継続的に) 取り組みたいところですが、もしそれが難しい場合はどうしたらよいのでしょうか。

...というのが現実的な落としどころになるのかな、と私は経験上考えます。PDF コンテンツはあくまでも例外という建て付けにして、制作が楽だからという理由だけで安易にコンテンツを PDF 展開しないよう、組織内の共通認識を育むことが大切です。主要なターゲットユーザー (たとえばプライマリーペルソナやセカンダリーペルソナ) 向けには HTML で十分アクセシビリティが担保されたコンテンツを提示し、ごく限られた特殊なユーザー (たとえばターシャリーなペルソナ) 向けには特定用途として PDF コンテンツを提示する、といった具合にユーザー中心設計の観点からロジカルに切り分ける、というのもありかと思います。