ロービジョンのユーザーのウェブ利用の様子 : 2018年9月実施の WebAIM 調査より
ウェブアクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体「WebAIM (Web Accessibility in Mind)」が、2018年9月に、ロービジョンのユーザーを対象にしたウェブ利用に関する調査を実施しました。2013年2月から3月にかけて実施された第1回に続く、第2回目となる調査です。
英語のレポートになりますが、WebAIM サイトの「Survey of Users with Low Vision #2 Results」で詳細をご覧いただくことができます。この記事では WebAIM 発表の調査結果の中から、私自身が興味深く感じた事項をピックアップします。
回答者のデモグラフィック
- 有効回答数は248。(英語を理解する人の全世界からの回答を受け入れているが、回答者の国や地域の内訳は不明。)
- ロービジョンの度合い : Very Poor Vision (コンピュータの使用において支援技術が必須な人) が44.7%、Poor Vision (コンピュータの使用にロービジョンであることが少なからず影響している人) が29.9%、Moderate Vision (眼鏡やコンタクトレンズの矯正で十分な人) が25.4%。
- ロービジョンの種類 : 多岐にわたる。Visual acuity (視力) が75%、Light and glare sensitivity (光とグレアの感度) が61.3%、Contrast sensitivity (コントラスト感度) が46.8%、Limited field of vision (限られた視野) が48.8%、Color vision/color-blindness (色覚/色盲) が19.8%、その他が18.1%。
- インターネット習熟度 : 中上級がほとんど。Advanced (上級) が69.8%、Intermediate (中級) が28.6%、Beginner (初級) が1.6%。
調査結果から見えるロービジョンユーザーのウェブ利用の様子
- メインで使用するデバイスの種類 : パソコンが圧倒的 (82.3%)。逆にモバイル端末はごく少数 (4.8%)。大きな画面サイズが好まれる傾向。
- 支援技術 : 画面拡大機能とスクリーンリーダーが半数近くのユーザーに使用されている。次いで、ハイコントラスト設定やブラウザの文字サイズ設定の使用が3割強。ブラウザの配色変更機能やスタイルのカスタマイズも1割ほどいる。
- ハイコントラスト設定を使用している人の多く (7割) は、暗い背景色+明るい文字色の組み合わせを使用。
- スタイルのカスタマイズでは、フォントサイズを変更する人がもっとも多い (36.7%)。フォントファミリー、フォントウェイトを変更する人は1割ほど。行間や文字間隔、段落や見出しの間隔を調整する人も比率は低いが (1割未満) いることに留意したい。
- ブラウザの文字サイズはデフォルトのままの人がほとんど (90.5%)。他のツール (OS の画面拡大機能) を使っているためか。また、Limited field of vision (限られた視野) の人と思われるが、文字サイズを縮小しているユーザーもいる。
- フォントの好みは、サンセリフ系がやや優勢 (53.5%)。セリフ系を明確に好む人は少ない (12%)。
- 画面拡大のレベルは様々。ウェブコンテンツが400%の拡大に対応できていれば8割以上のユーザーをカバーできるが、それ以上の拡大率を用いるユーザーも一定数いることに留意したい。
- 画面拡大ツールは、OS 標準のものを使っている人が多い (45.1%)。次いで、ZoomText (19.3%)。
- スクリーンリーダーは、JAWS (21.2%) が多く、次いで NVDA (14.1%)、VoiceOver (11.2%)、ZoomText (8.7%)。Windows ユーザーが多いにもかかわらず、Narrator を使用している人はごくわずか (0.8%)。
- モバイルプラットフォームは iOS が多く (64.3%)、Android (23.8%) を大きく引き離している。ただ、スマートフォンの使用は画面サイズの制約で少ないと思われるので、iPad を使う人が多いと推測される。
- モバイルプラットフォームのアクセシビリティ設定 (文字サイズの拡大や反転表示など) は、ほとんどの人が使っている (82.4%)。
- 音声アシスタント (Siri、Amazon Alexa、Google Home、など) は、結構使われている印象。Very frequently (頻繁に使う) と Somewhat frequently (まあまあ頻繁に使う) を合わせると5割強にのぼる。
- キーボード操作を用いる人は多い。Always (常に)、Often (ちょくちょく)、Sometimes (時々) を合わせて8割近く。
以上の調査結果を踏まえ、ロービジョンユーザーの抱える多種多様な「見えにくさ」をサポートすることを改めて考えると、以下に挙げるウェブアクセシビリティの基本はしっかり押さえておきたいところです。
- スタイルのカスタマイズを妨げないこと (文字サイズ、フォントの種類、配色、行間、文字間隔、など)。
- スクリーンリーダーなど支援技術を介した利用を妨げないこと。
- 画面表示を大幅に拡大しても情報の取得や利用に支障がないこと。
- キーボード操作だけでも利用可能なこと。
- コンテンツのセマンティクスを適切に保つこと (音声アシスタントを介した情報取得という側面も含めて)。