ロービジョンのユーザーの Web 利用の様子 : 2013年2月〜3月実施の WebAIM 調査より
Web アクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体「WebAIM (Web Accessibility in Mind)」が、2013年2月から3月にかけて、ロービジョンのユーザーを対象にした Web 利用に関する調査を実施しました。
この調査結果の日本語訳は、インフォアクシアさんが運営する Web アクセシビリティ専門の情報提供サイト「エー イレブン ワイ」で公開される予定とのことなので、詳細は後日改めて、そちらをご覧いただければと思いますが、この記事では、取り急ぎ WebAIM が2013年4月30日に発表した調査結果 (原文) を読んで感じたことを、まとめてみたいと思います。
調査結果から見えるロービジョンユーザーの Web 利用の様子
今回の調査結果をひととおり読むと、ロービジョンユーザーの Web 利用の様子として、以下、うかがい知ることができます。
- 使われている支援技術が多岐にわたる (スクリーンリーダー、画面拡大ソフト、ブラウザの画面拡大機能、ブラウザのテキスト拡大機能、ハイコントラストモード、カスタムのスタイルシート)。複数の支援技術を組み合わせて使う人が多く (69%)、特に、スクリーンリーダーと画面拡大ソフトを併用する人は23%にのぼる。
- PC (デスクトップ/ラップトップ) をメインの Web 閲覧デバイスとしている人がほとんどで、モバイル機器をメインとしている人は1割程度である。ただ若い世代ではモバイル機器が広まっており、40歳以下でモバイル機器をメインとする人の数は、41歳以上のそれの2倍にのぼる。
- 使われているモバイル機器のプラットフォームは、iOS デバイス (iPad、iPhone、iPod touch) のシェアがもっとも高く (43%)、2位の Android (18%) を大きく引き離している。
- ほとんどすべてのユーザー (99.5%) が、JavaScript を有効にしている。
- キーボード操作を用いて Web ページをナビゲーションするユーザーが多い (「Always」「Often」「Sometimes」を合わせると76.5%にのぼる)。
- 全般的に Web サイトの文字サイズを「小さすぎる」と感じる人がほとんどである (93%)。
- 画面拡大機能を使用する際の拡大率は、人によって好みがそれぞれである (「200%未満」「200%」「300%」「400%以上」という選択肢があるが、ほぼ均等にばらけている)。
- 文字色と背景色のコントラストを重要だと考えている人がほとんどである (「Very important」と「Somewhat important」を合わせると、91%にのぼる)。
調査結果を踏まえた Web デザインの留意点
ロービジョンユーザーが抱える「見えにくさ」は多種多様で、実際に Web サイトを制作するにあたっては、どうデザインに落とし込めばよいか、難しく感じる制作者の方も少なくないかもしれません。今回の WebAIM の調査結果を踏まえて、Web デザインの留意点を挙げるとすれば、以下のことが言えると思います。
- 多種多様なユーザーエージェント (ブラウザや支援技術) で利用できるように、Web 標準に則ったマークアップで制作する。
- キーボード操作でも (マウスを使用しなくても) 利用可能にする。
- 文字サイズや行間を適切に設定すると同時に、ユーザーが任意で文字サイズを変更できるようにしておく (特別な理由がない限り、画像文字を使ったり、フォントサイズを固定することは極力避ける)。
- 文字色と背景色のコントラストを適切に設定する。
- ユーザーが独自にカスタマイズしたスタイルシートを使うことを妨げないようにしておく (CSS でむやみに「!important」宣言をしない)。
- JavaScript を使用してインタラクション (ふるまい) を付加する際には、キーボード操作やスクリーンリーダーによる音声読み上げなど、基本的なアクセシビリティを担保する。
なお、今回の調査では、「あなたにとって問題となっていること (problematic items) は何か?」という選択式の設問があります。その結果、以下の順で「問題である」という結果が出ているので (上位であるほど、問題であると回答している人が多い)、このあたりも Web サイトをデザインするうえで参考にしたいところです。
- Complex page layouts (ページレイアウトが複雑である。)
- Content that becomes unreadable when enlarged (拡大すると、レイアウトが崩れてコンテンツが読めなくなる。)
- Poor contrast (文字色と背景色のコントラストが不十分である。)
- CAPTCHA - images presenting text used to verify that you are a human user (アクセスしているのが人間かどうかを識別するための CAPTCHA があって、行く手を阻まれる。)
- Pop-up windows or dialog boxes (ウィンドウやダイアログボックスがポップアップで表示される。)
- Complex or difficult forms (フォームが複雑だったり難しかったりする。)
- Too many links or navigation items (リンクやナビゲーション項目がたくさんありすぎる。)
- Missing or improper headings (見出しが無かったり、不適切な見出しだったりする。)
- Poor keyboard accessibility (キーボード操作で利用できない。)
- Complex data tables (データテーブルが複雑である。)
- Lack of skip to main content links (メインのコンテンツにスムーズに飛べない。)
その機能は Web サイト (Web ページ) 側で備えるべきものなのか?
今回の調査結果を読んで、気になったのが、「文字サイズを変更する機能 (text resizing widzets)」「スタイルを任意に切り替える機能 (user controls)」「ナビゲーションをスキップして本文に飛べるリンク (skip links)」の有用性について、ユーザーに印象を聞いている設問です。
いずれの機能も、ユーザーからは「便利である」という回答が寄せられているので (「Very Useful」と「Somewhat Useful」を合わせると7割から7割5分程度にのぼる)、であればこれらの機能は Web サイトに実装すべき...ということになりそうですが、これらについては、もう少し慎重に検討してもよいかな、と思います。
私自身は、Web サイト (あるいは Web ページ) においてはコンテンツが認知/理解/利用しやすいことが何よりも重要であって、(コンテンツではない) 補助的な機能は、極力ユーザーエージェント側 (ブラウザや支援技術、あるいは OS やデバイス) で担保すべきだろうと考えています。文字サイズの変更やスタイルの切り替えは各ブラウザで標準機能 (または拡張機能) として用意されていますし、ナビゲーションをスキップするリンクは「見出しナビゲーション機能」の形で多くのスクリーンリーダーで利用可能になっています。いずれも、ユーザーが学習すれば使えるものなので、これらの機能を Web サイト (Web ページ) 側に持たせてコンテンツを煩雑にするのは、できるだけ避けたいと思っています。
ユーザーの「意見」を鵜呑みにせず、よりスマートにユーザビリティ/アクセシビリティに優れたデザインをするためには、「その機能は Web サイト (Web ページ) 側で備えるべきものなのか?」...と自問してみると、よいかもしれません。
今回の WebAIM によるロービジョンユーザーの調査は、定点観測的に、今後も続くと思いますので、引き続きウォッチしたいと思います。