書籍「新版 アフォーダンス」

新版 アフォーダンス (岩波科学ライブラリー)」を読みました。

新版 アフォーダンス (岩波科学ライブラリー)

「アフォーダンス(affordance)」とは、「〜を与える / 提供する / もたらす」という意味の英語「afford」の名詞形ですが、ウェブサイトやアプリケーションの UI デザインという文脈では、モノの属性(UI の配置、形状、材質感、色など)がヒト(ユーザー)に対して「どう取り扱えば良いか」という情報を発している、という考えかたと捉えている方が多いと思います。

認知心理学者のD.A.ノーマン博士による「誰のためのデザイン」で、このアフォーダンスという言葉に初めて触れたという方も多いと思いますが、もともとは知覚心理学者のJ.ギブソン博士が提唱した概念で、しかもノーマン博士はこのアフォーダンスという言葉を独自解釈 (誤用) してしまっていた (†)、というややこしい話になっています。

† ノーマン博士が「アフォーダンス」と呼んでいた概念は、現在では「知覚されたアフォーダンス (perceived affordance)」または「シグニファイア (signifier)」という用語に訂正されています。

このような背景もあり、そもそもアフォーダンスというのはどういうものなのか、を改めて知りたいと思い、入門書として有名な本書を読んでみました。以下、個人的に興味深かった内容を、大きく分けて「アフォーダンス」とそれを人や動物が知覚する「知覚システム」という2つの観点から、メモとしてまとめます。

アフォーダンス

知覚システム


アフォーダンスとは何ぞや? (ノーマン博士がアフォーダンスと称してたものとの違いは?) を概念的に捉えようとすると理解が難しい気がしますが、アフォーダンスを知覚システムと一対のものとして捉え、そもそも人は周囲のものごと (環境) をどう知覚し、どう情報を得ているのか?という観点で素直に読んでみることで、ギブソン博士のアフォーダンス理論にいくらかでも馴染むことができるのかな、と感じました。

その意味では、本来アフォーダンスとは GUI のビジュアルやふるまいのデザインに限った話ではなく、より広く情報設計 (IA) や、さらには (各知覚システムが獲得する情報の「等価性」や「冗長性」といった点に着目すると) 情報アクセシビリティとも関連が深い話なのかな、と思い至っているところです。もちろん、今後ますます盛んになりそうな AI (‡) や XR のユーザー体験設計においても重視されることでしょう。

‡ 本書のエピローグでは、このアフォーダンスおよび知覚システムの考えかたが、AI ロボット (掃除ロボットのルンバなど) の開発にも応用されている事例が紹介されていて興味深いです。周囲の環境に関する内部モデル (地図) をあらかじめ持つのではなく、行為はロボットが実際に環境に出会うことで「創発」する、というものです。あるひとつの「知覚と行為」だけを実行する単位 (たとえば「障害物を知覚し避ける」「目標物を知覚しそこに向けて動く」など) を層として数多く備え、それぞれが独立してはたらき、場合によっては競合し、折り合いをつけ、目標までの行為が遂行される、という具合です。