肢体不自由 (Motor Disability) のユーザーの Web 利用の様子 : 2013年2月〜3月実施の WebAIM 調査より
Web アクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体「WebAIM (Web Accessibility in Mind)」が、2013年2月から3月にかけて、肢体不自由 (Motor Disability) のユーザーを対象にした Web 利用に関する調査を実施しました。先にご紹介した「ロービジョンのユーザーに関する調査」と併せて行われたものです。
この記事では、WebAIM が2013年5月31日に発表した調査結果 (原文) を読んで感じたことを、まとめてみたいと思います。
調査結果から見える肢体不自由ユーザーの Web 利用の様子
WebAIM の調査結果レポートの冒頭を見ると、「disclaimers and notices (免責および注意事項)」として、今回の調査結果はサンプル数が極めて少なく (有効回答数はわずか46)、肢体不自由ユーザー全般の姿を表わしていると捉えるべきではない旨、書かれています。
それを踏まえたうえでですが、調査結果をひととおり読むと、肢体不自由ユーザーの Web 利用の様子として、以下、うかがい知ることができます。
- Web ページを閲覧する際の操作手段として、ポインティングデバイス (マウス、トラックボール、アイトラッキング、など) を使うユーザーがもっとも多い (5割強) ものの、キーボードや音声認識で操作するユーザーも、一定数いる (それぞれ3割強と1割強)。
- 多くのユーザーが、何らかの OS 設定をしている。たとえば、マウスの挙動に関する設定 (ポインターの移動速度やダブルクリックの速さなど)、マウスキー (テンキーを使ってポインターを上下左右に動かす機能) の使用、スティッキ―・キ― (装飾キーを押し続けなくても、複数キーの同時押しと同等の操作が可能になる機能) の使用、などが含まれる。
- 様々な支援技術が使われている。たとえば、特殊なキーボード、手/腕や足/脚で使えるポインティングデバイス (トラックボール、タッチパッド、ジョイスティックなど)、口や頭に装着する棒、息を吸ったり吐いたりすることで ON/OFF ができるスイッチ、アイトラッキング/ヘッドトラッキング、音声認識、テキスト入力支援ソフト (入力/変換予測など)、バーチャル (オンスクリーン) キーボード、スクリーンリーダー、などが含まれる。
- 可読性や操作性を高めるため、多くのユーザー (75%) が、Web ページのコンテンツを拡大表示している。
- 多くの (今回の調査結果のサンプルではすべての) ユーザーが、JavaScript を有効にしている。
- モバイル機器を使っている人は多く (6割弱)、そのほとんど (9割強) は障害者向け (disability-specific) ではない、一般的な (mainstream) デバイスを使っている。
- フォームの入力要素でラベルが適切にマークアップされている (たとえば、ラベルをクリック/タップすることでチェックボックスにチェックを入れたりできる) と、使いやすいと感じるユーザーが多い (6割)。ただ、それを知らないユーザーも結構いる (3割)。
- アクセシビリティに配慮した実装は喜ばれるが、とりわけ、適切な見出し、明確なリンクテキスト、見やすい配色 (コントラスト)、文字サイズが拡大できること、に恩恵を感じている。
調査結果を踏まえた Web デザインの留意点
今回の調査結果を踏まえつつ、Web サイトをどうデザインすべきかを考えると、以下のような留意点が挙げられると思います。
- マウスだけでなく、キーボードでも操作できるようにする。
- マウスポインターを精緻に移動できなくても操作できるように、クリック/タップできるエリアを大きめに確保する (フォーム入力要素のラベルを <label> 要素でマークアップすることを含む)。
- ユーザーが任意でコンテンツ (文字など) を拡大することを妨げないようにする。モバイル機器の閲覧においては、ピンチ&ズームができるようにする (user-scalable=no などと設定しない)。
- JavaScript を使用してインタラクション (ふるまい) を付加する際には、キーボード操作やスクリーンリーダーによる音声読み上げなど、基本的なアクセシビリティを担保する。
- 「認知/理解 → 操作」という流れにおいて、肢体不自由のユーザーは「操作」に手間がかかる (「操作」が完了するまで「認知/理解」を短期記憶に維持し続けなければならず、その負荷は大きい) ことに配慮する。適切な見出し、識別しやすいリンク、明確なラベル、適切な文字サイズ、見やすい配色、その他ユーザビリティに配慮したデザインを施すことで、認知負荷を減らす。
上記はいずれもユーザビリティ/アクセシビリティの基本として以前から言われていることですが、こういったことを着実にデザインに盛り込むことで、肢体不自由ユーザーにとっても利便性の高い Web サイトにすることができると思います。
今回の WebAIM による肢体不自由ユーザーの調査は、定点観測的に、今後も続くと思いますので、引き続きウォッチしたいと思います。