axe-con 2022

Deque Systems, Inc. が主催する、デジタル領域のアクセシビリティをテーマにした「axe-con」というカンファレンスがあります。2021年3月に第1回が開催され、今回、2022年3月に第2回が開催されました。同時期 (毎年3月) には世界最大級のアクセシビリティのカンファレンス「CSUN Assistive Technology Conference」も開催されていますが、こちらの「axe-con」は後発イベントでありながら、完全オンライン形式で、無料で参加登録できる (アーカイブも視聴可能) ということもあり、日本にいながらでも気軽に参加することができます。

時差の関係でリアルタイム参加は難しかったのですが、今回、いくつか興味深いセッションをアーカイブで視聴しましたので、備忘録として、書き残しておきたいと思います。以下、セッション詳細ページへのリンクがありますが、「Register (参加登録)」することで、セッション動画、トランスクリプト (書き起こし)、スライドを見ることができますので、興味のある方はぜひ登録してみてください。

The Future of the Web and Accessibility

World Wide Web の考案者で、「The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.」という言葉が有名な、Tim Berners-Lee 氏による基調講演です。歴史的な話から始まり、WoT、XR、メタバースを含む新たなウェブ体験のアクセシビリティの重要性 (WCAG 3.0 への言及もあり)、ウェブを介したコミュニケーションのより一層の国際化 (多言語化など、ユーザーの文化的多様性の尊重) への期待、Solid について (データプライバシーの主体としてのユーザーの尊重) など、幅広く、力強く語っているのが印象的でした。

The State of Accessibility Report Findings

GAAD (Global Accessibility Awareness Day) のきっかけを作ったことでも有名な Joe Devon 氏による、「SOAR (The State of Accessibility Report)」の紹介です。2019年から年次で実施されているアクセシビリティ調査で、Alexa Top 100 のウェブサイトや代表的なモバイルアプリ (有償、無償、各20ずつ) を対象に、アクセシビリティの傾向をまとめています。最新の調査 (2021年12月) のレポートはこちらで見ることができます (PDF)

Removing Bias with Wizard of Oz Screen Reader Usability Testing

米国の金融機関 Ally Financial のアクセシビリティ向上の取り組みとして、スクリーンリーダーでの利用を想定したウェブサイトのプロトタイピングで「オズの魔法使い」を実施した事例紹介です。「オズの魔法使い」とは、ローファイなプロトタイプを用いたユーザビリティテストで、ユーザー (テスター) の操作/インプットに合わせて「システム役」の人がその場でアウトプットを生成し、あたかもシステムが動いてるかのように見せて検証するテスト手法です。ペーパープロトタイピングで用いられることが多いですが、この事例では、それを発話を介して行っており (たとえばユーザーが「次の見出し」と指示するとシステム役の人が「見出しレベル2、口座開設について」という具合にスクリーンリーダーのように返す)、斬新で面白かったです。実際にこれをやるには、プロトタイピングの初期から UI のセマンティクスをシビアに意識する必要がありますが、本来それこそがウェブの情報設計のあるべき姿であり、プロジェクト関係者のマインドセットを否応なくそのあるべき姿にする手段として有効かもと思いました。

Scoring the Accessibility of Websites

米国の非営利団体 WebAIM (Web Accessibility in Mind) が、アクセンチュアと共同で開発した、ウェブアクセシビリティのスコア化手法「AIM (Accessibility IMpact)」の紹介です。AIM (Accessibility IMpact) では、WAVE API を用いた自動テストによるスコアリングに加えて、手動テスト (訓練されたテスターによる所定のヒューリスティック評価) によるスコアリングも併せることで、アクセシビリティ問題の全体的なインパクトをより正確に評価に反映させることを可能としているようです。アクセシビリティを定量的にスコア化することの意義についてはセッションの中であまり語られていませんでしたが、継続的、反復的にアクセシビリティを改善するにあたっての、進捗を示す相対的な指標として活用するということであれば、このようなスコア化は合理的と言えるかもしれません。(特に大企業では、このような数値の提示が何かと求められそうな気がします。)

Making Content Usable for People with Cognitive and Learning Disabilities

W3C の COGA Task Force の共同ファシリテーターを務める Rain Michaels 氏による、認知および学習に障害を持つ人々にとって使いやすいウェブコンテンツの作りかたについてのレクチャーです。COGA (cognitive accessibility) の重要性を定量的な根拠で示しつつ (米国の総人口の12%が認知的な障害を持っている世界の総人口の1/6が2050年までに65歳を超える10〜20%の人がディスレクシアの兆候を示す100人に1人以上が自閉症児である)、COGA のスコープとなる機能的なニーズ (注意障害、言語障害、学習障害、記憶障害、実行機能障害) を整理し、具体的な留意事項を W3C Working Group Note「Making Content Usable for People with Cognitive and Learning Disabilities」を通して俯瞰してゆく、という内容です。この Working Group Note については 当サイトでも記事としてまとめていますが、そのエッセンスがわかりやすく網羅されたセッションでした。


上記の他にも多くのセッションが行われていますので、ご興味に合わせてピックアップして視聴してみるとよいでしょう。セッション動画は Chrome のライブキャプション機能を有効にして再生すると割と精度高く字幕化される印象だったので、併用してみるとよいかなと思います。