2025年のウェブアクセシビリティの振り返り
この記事は、アクセシビリティ Advent Calendar 2025 の19日目の記事です。
私は普段、海外 (英語圏) を含むウェブアクセシビリティ関連の記事を RSS などで拾って読むことをルーティンにしています。読んだ記事は SNS で共有していますが、今年から、読んだ記事の記録を Obsidian のデイリーノートにも蓄積しています。日々 Obsidian に蓄積された情報は AI (Cursor) でまとめて分析できるということで、この一年間で私が読んだ記事をもとに、今年のウェブアクセシビリティの傾向を抽出してみました。
以下は、AI が出力した傾向分析をもとに編集を加えたものです。2025年のウェブアクセシビリティの振り返りのひとつとして、「そんなこともあったな」という感じでお読みいただけたら幸いです。
欧州で EAA (European Accessibility Act) が発効
今年のもっとも大きなトピックは、EAA (European Accessibility Act) が2025年6月28日に発効したことでしょう。特に上半期は、EAA の概要説明や、EAA 発効までにどんな準備をしなければならないかといった記事が、TPGi、Deque、TetraLogical などから多く発信されました。以下はその例です。
- What’s the Difference Between WCAG, the EAA, and EN 301 549? - TPGi
- EAA 2025: Top Questions Answered Ahead of the Deadline - UsableNet
- The EAA Is Here! - TPGi
- The EAA and the new era of digital accessibility - Deque
- European Accessibility Act (EAA): Top 20 key questions answered - Deque
- European Accessibility Act (EAA) FAQ - TetraLogical
EAA は日本語で「欧州アクセシビリティ法」と訳されることが多いですが、厳密には法律 (law) ではなく EU の司令 (directive) であり、法律は EU 加盟各国の国内法として整備される形になります。なお、EAA 自体は具体的なアクセシビリティ要件を含んでおらず、ウェブアクセシビリティに関しては欧州規格 EN 301 549 (Accessibility requirements for ICT products and services) に要件 (WCAG 2.1 レベル AA を満たす旨) が記されていて、それを EAA が参照するという建て付けになっています。
ちなみに EAA 発効後の状況ですが、11月の AbilityNet の記事「Digital accessibility progress since EAA: What the 2025 data shows」によると、企業側のウェブアクセシビリティに対する取り組みの変化は現時点で限定的のようです。法的リスクが企業の行動変容の最大の動機とされる中、判例を通じた実例が十分に積み上がっていないことが動きの遅さにつながっているようだという分析がなされています。EAA がウェブアクセシビリティの「ブリュッセル効果」をもたらすことになるのか、来年に注目といったところでしょうか。
米国における ADA 関連訴訟の増加傾向
一方で米国では、今年も引き続き、ADA (Americans with Disabilities Act : 障害のあるアメリカ人法) に基づいたウェブアクセシビリティの不備を訴える訴訟が盛んです。UsableNet の記事「2025 Midyear Accessibility Lawsuit Report: Key Legal Trends」によると、今年上半期終了時点の米国での訴訟状況として、昨年より20%増のペースだそうです。
今年一年間の訴訟件数の実態が明らかになるのは年が明けてからになると思いますが、月次の状況は UsableNet の「ADA Accessibility Lawsuit Tracker」というページで随時見ることができます。2025年11月の訴訟件数は403件ということで、「昨年より20%増のペース」は衰えていないと見てよさそうです。
ちなみに、アクセシビリティオーバーレイを採用したサイトは、月に100件ほど訴えられているというデータもあります。これは訴訟件数全体の1/4にのぼる規模感です。法的リスク回避のために、さしあたっての対処療法としてアクセシビリティオーバーレイを採用する判断に至ることもあるかと思いますが、それが効果的かと言うと、そうでもないことが改めてわかります。
WCAG 2.2 が ISO/IEC 国際規格として承認
今年は、WCAG 2.2 (日本語訳) が ISO/IEC 40500:2025 として承認された年でもあります。以下は、W3C WAI (Web Accessibility Initiative) の10月21日付のアナウンスです。
WCAG 2.2 が ISO/IEC の承認規格になることで、より多くの国が WCAG 2.2 を正式に採用できるようになりました。日本においても、JIS X8341-3 が ISO/IEC 40500 との一致規格という建て付けになっていることから、JIS X8341-3 を改正し、WCAG 2.2 (つまり ISO/IEC 40500:2025) と同内容にする道筋が正式に整った形になります。これと連動する形で現在、ウェブアクセシビリティ基盤委員会 (WAIC) で JIS X8341-3 の改正に向けての作業が進行中です。
WCAG に関連するその他の今年の動きとしては、5月に「Guidance on Applying WCAG 2.2 to Mobile Applications (WCAG2Mobile)」が W3C ドラフトノートとして公開されたり、また、8月に「Guidance on Applying WCAG 2 to Non-Web Information and Communications Technologies (WCAG2ICT)」が欧州規格 EN 301 549 (Accessibility requirements for ICT products and services) と整合性をとる形でアップデートされたりしています。ウェブだけでなく、デジタルアクセシビリティ全般において、WCAG 相当のアクセシビリティ要件を適用させてゆこうという流れが少しずつ具現化しているように思います。
AI とウェブアクセシビリティ
今年は AI とウェブアクセシビリティに関する記事も、いろいろありました。
中でも物議を醸したのは、Jacob Nielsen 氏の記事「Hello AI Agents: Goodbye UI Design, RIP Accessibility」でしょう。やがて AI エージェントが人間に代わってウェブから情報を取得するようになるのだから、障害者向けに UI をアクセシブルにする必要は早晩なくなるだろう、というものです。
私自身は、ユーザーは将来にわたっても AI エージェント経由のみでウェブを利用するわけではなかろうと (どちらかと言うと、ウェブの利用手段が AI エージェントも含めて多様化するものと) 思っています。そもそも AI エージェントを介した情報取得が主流になれば、その情報の正確性や信頼性がますます問われ、AI エージェントで得られた情報が100パーセント信頼できるならまだしも、そのような確信がなければユーザー自ら公式情報またはそれに近いソースにアクセスする流れもある程度は想定されるでしょう。結局のところ、AI エージェントが当たり前に用いられるようになっても、ウェブアクセシビリティの重要性はこれまでと同様に変わらないのでは、と思います。
AI とウェブアクセシビリティの関連で、もうひとつ個人的に目を惹いた話題は、画像の代替テキストを AI で生成することについてです。
AFB (American Foundation for the Blind : アメリカ盲人財団) は記事「Beyond Alt Text: Rethinking Visual Description in the Age of AI」の中で、生成 AI による画像説明の可能性に期待を示しつつも、それはあくまでも補足的な役割であると位置づけ、優先されるべきは人間のコンテンツ制作者による代替テキストであると主張しています。こうしたスタンスが多く見られる一方で、コンテンツ制作者が生成 AI を画像の代替テキスト作成ツールとして扱い、コンテンツ内で画像が用いられている文脈や、その文脈において画像が伝えたい意図をプロンプトに含めることによって、より的を得た代替テキストを作成しようという試みもいくつか見られ、興味深かったです。
- Can generative AI write contextual text descriptions? - TetraLogical
- Writing alt text with AI | Jared Cunha
そして来年以降も、AI の進化はウェブアクセシビリティに大きな影響を与え続けるでしょう。Karl Groves 氏は記事「AI is the future of accessibility」で、アクセシビリティ推進者に向けたメッセージとして、AI を脅威として排除するのではなく、AI をアクセシビリティ強化の可能性として受け入れ、議論に加わることを説いています。
組織とウェブアクセシビリティ
今年はまた、ウェブアクセシビリティに取り組むうえでの組織の課題について触れた記事も多く見られた印象です。
個人的には、TetraLogical の「Sustainable accessibility in complex organisations (複雑な組織における持続可能なアクセシビリティ)」シリーズはご一読をおすすめしたいと思います。大規模組織でウェブアクセシビリティの取り組みを継続するための着眼点が、網羅的にまとまっています。
- strategic foundations 編 ... 戦略的な基盤として、アクセシビリティ推進のリーダーシップをどの部署が担うか。中央のデジタルテクノロジー部門、DEI 推進部門、中央のアクセシビリティ専門チーム、法務部門、経営幹部、など。それぞれが担う場合のメリットとデメリット。
- organisational realities 編 ... 組織の現実との向き合いかた。組織のカルチャーとアクセシビリティの価値の紐づけ、部署間の政治的なかけひき、チームのサイロ化、予算、社外へのアウトソーシング、など。
- external factors 編 ... 外部要因との向き合いかた。事業を展開する国の法規制、アクセシビリティ標準 (WCAG など) のアップデート、景気後退や予算削減、組織再編への対応、など。
また、Sheri Byrne-Haber 氏のニュースレター「Access * Ability」でも、組織とウェブアクセシビリティに関する興味深い記事が投稿されています。
- When Accessibility Progress Plateaus: How to Regain Momentum ... 組織の中でアクセシビリティの取り組みが停滞する兆候が見られたら「フィードバック」と捉え、シフトレフト、評価指標の見直し、経営陣の再巻き込み、組織内のトレーニングなどを通じて、組織力を強化する。
- Why training alone is never the solution to ableist behavior ... 組織内のエイブリズムを解決するには従業員のトレーニングだけでは不十分で、行動変容の動機づけを、評価制度を含む仕組みとして整える必要がある。
- How to Avoid Boiling the Accessibility Ocean ... アクセシビリティ推進の責任を、(すべてを少数のアクセシビリティ専門家に負わせる代わりに) デザイナー、開発者、プロダクトマネージャー、品質保証担当者などにも適切に分散することで、アクセシビリティの取り組みをより持続可能なものにすることができる。
組織とウェブアクセシビリティの観点でもうひとつ興味深かったのは、企業 (ウェブサイトの運営主体) が公開する accessibility statement (アクセシビリティの取り組みついての声明) に対する批判的な記事がいくつか見られたことです。実態が伴っていない「やっている感」を出すだけの声明になっていないか、どちらかと言うと規制当局に向けてのエクスキューズになっていてユーザーにとって有益な情報になっていないのではないか、という主張は WCAG (または JIS X8341-3) をベースにウェブアクセシビリティを推進する立場として、改めて考えさせられます。
- We need to talk about your accessibility statement – Bogdan on Digital Accessibility (A11y)
- The 'Accessibility' link is a Lie: My Adventures in Weaponizing Corporate Virtue Signaling, Sightless Scribbles
以上、私自身が読んだ記事の傾向をもとに振り返ってみましたが、皆さんは今年のアクセシビリティを、どのように振り返りますでしょうか?
引き続き、アクセシビリティ Advent Calendar 2025 をお楽しみください。メリークリスマス。