スクロールに気づかない

Webページを閲覧する際、スクロールが使えることは「当たり前」ですよね。恐らく「スクロールをしたことが無い」というWebユーザーはいないでしょう。しかし、その「当たり前」に意外な落とし穴があること、ご存知でしょうか?

とあるプロジェクトで、ユーザビリティテストを実施したときのことです。一般的な画面解像度(1,076×768ピクセル)のディスプレイに開発中サイトのプロトタイプを表示する形で、数名のテスターさん(テストの協力者)に操作していただいたのですが、以下のようなケースが立て続けに観察されました。

  1. (ある目的を達成しようとして)ページを開く
  2. そのページを数秒見る
  3. 「(目的が達成できるページは)ここじゃないや」と立ち去る

原因は、当該ページを開いたときの表示にありました。ブラウザ画面の一番下の位置で、(偶然にも)ちょうど表示内容が「切りの良い」状態になっていたのです。肝心な情報は少しスクロールすれば見つかったはずなのですが、ブラウザ画面で一瞥できる範囲内で(そのページの内容が)終わっているように見えてしまい、結局ユーザー(テスター)はスクロールせずに立ち去ってしまった、というわけです。Webを使いこなしている方でしたら「ブラウザウィンドウの右側(スクロールバー)を見れば、そのページの内容が(見えない下の部分にまで)続いているか、わかるはずだろうに」とお思いでしょうが、意外と、そうではないケースが多いのです。

このような、スクロールせずに閲覧できる範囲のことをWebの業界では、「above the fold(折り返しの上の部分という意)」または「first view」と呼んだりしますが、スクロールしないと見えない情報は、above the foldに比べて、極端に露出が低下することがわかっています。私自身のユーザビリティ検証の経験でも、above the foldより下にある情報への到達度は、3割くらいではないかと感じています。

だからと言って、「すべてのページをスクロールが出ないようにする」というのは現実的ではないでしょう。ページで扱うテーマによって盛り込むべき情報量は千差万別でしょうし、そもそもWebは、ユーザーによって閲覧環境が異なるものなので(たとえばパソコンの画面解像度やブラウザの種類など)、作り手側がページの見えかたをコントロールしようにも、限度があります。では、どうすればよいのでしょうか?

解決策としては、大きく2つの方法があると思います。

  • 重要な情報(そのページでもっとも伝えたいこと)はなるべく上部に出す
  • 下にスクロールがあることが一見してわかるようデザインを工夫する

「重要な情報をなるべく上部に出す」というのは、ユーザビリティの面ではもちろんのこと、SEO(検索エンジン対策)においても有効な考えかたです。「下にスクロールがあることがわかるデザイン」については、場合によっては試行錯誤が必要になるかもしれません(こうすれば正解、というのはサイトによって異なるでしょうから)。ただ、上述のようなabove the foldの見えかたがユーザー行動に影響するという現実を理解して受け入れ、ターゲットユーザーが使っていそうなWeb閲覧環境で検証してみることで、具体的な策は見えてくると思います。ぜひ、スクロールしてくれるのが「当たり前」などと油断せずに、ご自分のサイトを見直してみていただければと思います。