改正JIS X8341-3のベース「WCAG 2.0」とは?
前回のコラム記事「JIS X8341-3 改正:パブリックコメント受け付け」で触れたように、2009年9月に新しく改正される予定のJIS X8341-3「高齢者・障害者等配慮設計指針 − 情報通信における機器・ソフトウェア・サービス − 第3部:ウェブコンテンツ」は、W3C(World Wide Web Consortium)において2008年の12月に「勧告」(Recommendation)されたWCAG 2.0(Web Content Accessibility Guidelines 2.0)という指針がベースになっています。前バージョンのWCAG 1.0が勧告されたのが1999年5月なので、WCAG 2.0は、アクセシビリティのW3C指針として、実に9年ぶりのバージョンアップということになります。
WCAG 2.0は、以下のような構成になっています。
- 4つの「原則」
- 各原則の下に制定された計12の「ガイドライン」
- 各ガイドラインの「具体的な達成基準」(必要性や実現難易度に応じて、A、AA、AAAの3段階でレベルわけ)
ここでは、WCAG 2.0の掲げる「4つの原則」と「12のガイドライン」を引用してご紹介します。
原則1:Perceivable(認知できること)
Information and user interface components must be presentable to users in ways they can perceive.(情報およびユーザーインターフェースの構成要素は、ユーザーが知覚できる方法でユーザーに提示可能でなければならない。)
- 1.1 Text Alternatives(代替テキスト)
- Provide text alternatives for any non-text content so that it can be changed into other forms people need, such as large print, braille, speech, symbols or simpler language.(すべての非テキスト要素には代替テキストを提供して、拡大印刷、点字、音声、シンボル、平易な言葉などのような、ユーザーが必要とする形式に変換できるようにする。)
- 1.2 Time-based Media(時間に伴って変化するメディア)
- Provide alternatives for time-based media.(時間に伴って変化するメディアには代替コンテンツを提供する。)
- 1.3 Adaptable(適応可能)
- Create content that can be presented in different ways (for example simpler layout) without losing information or structure.(情報あるいは構造を損なうことなく、さまざまな方法(たとえば、よりシンプルなレイアウト)で提供できるように、コンテンツを制作する。)
- 1.4 Distinguishable(識別可能)
- Make it easier for users to see and hear content including separating foreground from background.(ユーザーが、コンテンツを見やすくしたり、聞きやすくしたりする。これには、前景と背景を区別することも含む。)
原則2:Operable(操作できること)
User interface components and navigation must be operable.(ユーザーインターフェースの構成要素およびナビゲーションは操作可能でなければならない。)
- 2.1 Keyboard Accessible(キーボード操作可能)
- Make all functionality available from a keyboard.(すべての機能をキーボードから利用できるようにする。)
- 2.2 Enough Time(十分な時間)
- Provide users enough time to read and use content.(ユーザーがコンテンツを読んだり使用したりするのに十分な時間を提供する。)
- 2.3 Seizures(てんかん)
- Do not design content in a way that is known to cause seizures.(てんかんの発作を引き起こす恐れのあるようにコンテンツを設計しない。)
- 2.4 Navigable(ナビゲーション可能)
- Provide ways to help users navigate, find content, and determine where they are.(ユーザーがコンテンツをナビゲートしたり、探し出したり、現在位置を確認するのを手助けする手段を提供する。)
原則3:Understandable(理解できること)
Information and the operation of user interface must be understandable.(情報およびユーザーインターフェースの操作は理解可能でなければならない。)
- 3.1 Readable(読みやすさ)
- Make text content readable and understandable.(テキストのコンテンツを読みやすく理解可能にする。)
- 3.2 Predictable(予測可能)
- Make Web pages appear and operate in predictable ways.(Webページの表示や動作を予測可能にする。)
- 3.3 Input Assistance(入力補助)
- Help users avoid and correct mistakes.(ユーザーが間違えないようにしたり、間違いを修正したりするのを手助けする。)
原則4:Robust(堅牢であること)
Content must be robust enough that it can be interpreted reliably by a wide variety of user agents, including assistive technologies.(コンテンツは、支援技術を含む幅広い様々なユーザーエージェントが確実に解釈できるように十分に堅牢でなければならない。)
- 4.1 Compatible(互換性)
- Maximize compatibility with current and future user agents, including assistive technologies.(現在および将来の支援技術を含むユーザーエージェントとの互換性を最大化する。)
上記の「原則」と「ガイドライン」を読み込むと、アクセシビリティに配慮したサイトを作る上での留意点を、普遍的な形で表現している印象を受けます。実際、旧来のWCAG 1.0はHTMLに偏りすぎていて、それ以外の新しい技術に対応しきれていなかったという反省があったようです。WCAG 2.0は、特定の技術に偏よらない、長期的に使えるアクセシビリティ指針を目指していると言えるでしょう。
なお、WCAG 2.0では、「普遍的な」指針に対する補足として、複数の補足文書が存在するという構成になっています(参照:「WCAG 2.0」の読みかた)。今後、新しいWeb技術が出現しても、WCAGの指針本体は基本的に変更せずとも、補足文書をアップデートしてゆけばよい、という具合に、時代と共に柔軟な運用が可能になっているわけですね。
これをベースに、日本のJIS X8341-3も改訂されるわけですが、Webサイト(ホームページ)の制作/運用に関わる皆さんにとっては、正直のところ、WCAGを読み込むのは相応の労力がかかるので、新しい指針に基づいた検証ツールが出てくると助かりますよね。実際、WCAG 2.0のキーコンセプトのひとつは「Testability(客観的に検証できること)」です。ちなみに私は、富士通さんが公開しているWeb Inspectorを使って、現行のJIS X8341-3に適合していることを確認していますが、こうしたツールのバージョンアップを大いに期待したいところです(少し先になるでしょうが...)。
なお、WCAGの指針は、Web Accessibility Initiative(WAI)というワーキンググループが検討して作成したものですが、WAIでは他にも、以下のようなプロジェクトも立ち上がっています。
- WAI-AGE
- 高齢者対応の指針を策定するプロジェクト
- WAI-ARIA
- 動的コンテンツ(Rich Internet Application)向けの指針を策定するプロジェクト
こうした動きを見ていると、今後益々、アクセシビリティ指針はカバー範囲がより広くなり、様々な局面において具体的になってゆくと思われます。これに伴い、チェックツールなど制作支援環境も進化することでしょう。こうした環境が整い、アクセシビリティに優れたサイトが作りやすくなるのは、とても歓迎すべきことだと思います。