パソボラ(パソコンボランティア)活動を始めました
ご縁あって、数ヶ月前から、地元で開催されている障害者向けパソコン講習会に、ボランティアとして参加しています。いわゆる「パソボラ」というやつですね。
視覚障害者を対象に「音声パソコン講習会」と銘打って開催されているもので、月一回の頻度で、一回につき3時間ほどの枠で実施されています。全盲、ロービジョン(弱視)の方を中心に、老若男女、パソコン/インターネット経験の多寡を問わず、様々な人たちが受講しています。
講師さんは私と同世代の、全盲の人です。晴眼者が講師役を務めるよりも、パソコンやインターネットに精通した視覚障害者がいれば、そのほうが生徒さんに対してスムーズに意思疎通をしたり教えたりすることができるので、私自身は主にサポート役に回っています。
このようなボランティアを始めようと思ったのは、私自身がWebアクセシビリティに関するノウハウを蓄積して当サイトで発信し続けるにあたって、「現場感覚」と乖離することを恐れるためです。自分が理解し咀嚼して発信するアクセシビリティの情報が、頭でっかちな机上の空論に陥ることを避けるには、実際のユーザー(今回は視覚障害者という、その1セグメントに過ぎませんが)がパソコンなどの情報機器にどう触れていて、どんな課題に直面しているかを、実体験として見ることが、地道ながらも近道だと考えたのです。また、これを機会に障害者とのネットワークを広げて、たとえば、視覚障害者を対象にしたユーザビリティテストを実施する取っ掛かりを築くことができたらいいな、といった想いもあります。
新しい発見
さて、実際に「音声パソコン講習会」に参加するようになってから、毎回様々な発見があって興味深いです。
たとえば、講師さんが私物で愛用している点字入力/音声出力PDA(ボイスセンス:オプションのGPSアンテナを無線でつなげることができるので、外出先で位置情報を確認したり、周辺の施設を検索したりすることも可能)や、点字ディスプレイ(ブレイルメモ)、音声で都度時刻を読み上げてくれる腕時計など、視覚障害者が実生活の中で使用している様々なデバイスを見たり触れたりする機会があったりします。こうしたデバイスを実際に手にすると、障害者が生活の中でどう情報を取得し活用しているかを、リアルに垣間見ることができます。
ちなみに私自身は、上記の「ボイスセンス」や「ブレイルメモ」を目にして初めて、「6点入力」という概念を知りました。これは、点字一文字(縦2列と横3列の6つの点で構成されています)を左右に開き(ちょうど両手の人差し指、中指、薬指の位置に対応するように)、ピアノで和音を押さえるように6つのキーのうちいくつかを任意で押すことで、点字入力をするという仕組みです(面白いですね!)。
また、講習サポートをしながら、視覚障害者のWeb閲覧の様子を横から観察したり、といったこともさせていただいています。アクセシビリティに配慮していないサイトでユーザーつまづく様子を直接目の当たりにすることになるので、アクセシビリティの大切さをひしひしと実感できます。
さらに、自分の知らなかった支援技術を知るきっかけにもなります。たとえば、「サーチエイド」というインターネット検索補助ツールがあります。ある生徒さん(普段「サーチエイド」を愛用されているそうです)が個人所有のパソコンを持ち込んで講習を受けていたので、操作する様子を見せていただいたのですが、シンプルなユーザーインターフェース(UI)で、様々なブックマークのようなものがあらかじめ組み込まれていて、Googleや各種辞書、Amazonや楽天などの商品検索、路線探索、クックパッド、ウィキペディア、YouTubeなど、様々なサイトのコンテンツを簡単に探すことができます。もちろん、音声読み上げにも対応しています(下図は、「サーチエイド」の画面例です)。
障害者とのコミュニケーション
パソボラ経験はまだ浅いのですが、そんな中で感じているのは、障害者との意思疎通は(誤解を恐れずに言うならば)外国人とのコミュニケーションに似ているかもしれない、ということです。海外旅行に気軽に出かける人が多い昨今、異文化間コミュニケーションを身近なものとして感じている人はとても多いと思いますが、そのくらいの気軽さというか、当たり前な感覚として、気構えずやってみればいいのかな、という感じです。
障害者は、情報を受けたり出したりする際に特定の器官が機能していないため、当然、いわゆる健常者とは生活様式が異なってきます(文化が異なる、と言い換えてもよいかもしれません)。たとえば視覚障害者に対しては、きちんと言葉にして自己主張(speak out)しないと、自分の存在すら気づいてもらえません。ノンバーバルなコミュニケーションが通用しにくいという意味では、欧米人とのコミュニケーションと共通しているのでは、と考えた次第です(いささか乱暴な説だと思いますが、そのくらい身近に考えよう、くらいのニュアンスが伝わればいいなと思います)。実際に障害者とコミュニケートする際には、そういった異なる生活様式なり文化を、互いに尊重し合うことが大事なのだろうと思います。
また、講習会の後、障害者の皆さんを最寄のバス停や駅まで送ったり、肩を貸して市街地の中を一緒に歩いたり、たまに一緒にお茶をしたり、といった機会もあります。その過程で、視覚障害者は白杖をどのように駆使して周囲の状況をつかんでいるのか、街中や人ごみの中を歩くということはどういうことなのか、お店などで過ごすときにはどんな困難や問題があるのか、といったことを絶えず考えることになり、得がたい経験をさせていただいていると思います。これは、幅広い意味で「ユーザー行動観察」をしていると考えることもでき、ユーザーエクスペリエンス的な観点も含めてWebアクセシビリティ向上を考える上で、とても大きな糧になってくれるものと考えています。
今後も、このボランティア活動を通じて、色々な知見が得られることと思いますが、そこで得られたノウハウや気づきについては、随時、当サイトでもご紹介していこうと思っています。