ユーザビリティテストの観察時の指針

以前に当サイトの記事「ユーザビリティテストの基本はあくまでも仮説検証ベースの行動観察」でも触れましたが、ユーザビリティテストで大切なのは、ユーザーの(意見ではなく)行動を観察することです。

では、実際にどう観察すればよいの?という質問が出そうですが、ひとことで言ってしまうと「テスター(タスクを実行してもらうユーザー役の人)の言動を注意深く観察することと、その行動、発話内容、表情などを記録する(メモをとる)こと」に尽きます。

もう少し具体的な行動指針が欲しい、という方は、以下が参考になるでしょう。Steve Krug(スティーブ・クルーグ)著「ウェブユーザビリティの法則」(原題「Don't Make Me Think」)の第1版に、「映画版:ユーザビリティテスティング」という章があり、その中に下記の記述があります。残念ながらこの章は、第2版以降では削除されてしまっており、現在入手できる同書では見ることができませんが、とても参考になる内容なので、ここに引用させていただきたいと思います。

以下に見学しているときに、心にとめておいてほしいポイントを挙げる。

自分を守ること
テスティングを行なうとおそらく、被験者のリアクションにガッカリさせられるだろう。中には見せられたものを、どうしても理解しない被験者もいる。好意を持ってくれない人もいる。理由もなしに、どうしていいかわからなくなり、混乱し始める人もいる。自分が精魂込めて作った何かに対して、否定的なリアクションを示すのを見るのは精神的な拷問になり得る。だから頭の中で呪文のように、「うまくいっていない!あれがうまくいかないなんて」と繰り返すのはやめて、「あれを修正するにはどうしたらいいかな」と唱えるようにしよう。
パニックを起こさないこと
少なくとも2人、できれば3人の被験者を見るまでは、結論に飛びついてはいけない。その衝動を抑える努力をすること。
おとなしくしていること
サイトの利用中にトラブルに見舞われたとき、隣接した部屋から、笑い声(あるいはうめき声)が聞こえてくるほど、ユーザビリティテストの協力者を居心地悪くさせるものはない。
さまざまなレベルのユーザーを対象にしていることを忘れてはならない
インターネットを1日に2時間使っているテスト協力者が、URLの入力方法を知らなかったとしよう。「まじかよ。ばっかじゃねーの」などと考えてはいけない。次のように考えるべきだ。「こういうインターネットユーザーはどのくらいいるんだろう。それだけのウェブ利用者を失うことになっても大丈夫なのだろうか」
自分たちが今見ているユーザーの行動は、通常よりも高いレベルのものであることを肝に銘じること
テストを観察する際には、ユーザーは実生活よりテストを行なっている状況でのほうが、じっくりとウェブページを読んでくれるし、ずっとねばり強く何かを理解してくれようとしている、ということを肝に銘じる必要がある。被験者には時間の制約がないのだし、理解することで謝礼がもらえる。また、最も重要なのは、テスト中の彼らには頭が悪いと思われたくない、という気持ちが働いている。だから、被験者が何かを理解できない場合、一般の人たちがするよりもずっと一所懸命に解明しようと努力しており、それなのにまだ理解できないということになる。
被験者の意見よりも行動や説明のほうにより注意を払うこと
ユーザーテストの間に述べられている意見が信頼できないことといったら、もう、折り紙つきである。しばしば被験者は、自分の意見(肯定的であれ否定的であれ)を大げさに言いがちだ。

スティーブ・クルーグ著/中野恵美子訳「ウェブユーザビリティの法則」(第1版)、第10章「映画版:ユーザビリティテスティング」、P.184 - P.186「見学する場合には何をすべきか」より引用)

上記の指針は、ユーザビリティテストにおける観察者(記録係)がとるべきスタンスであるばかりでなく、テストを見学する人(たとえばサイトのデザイナーや、ウェブマスター、営業担当者、管理職、その他ステークホルダー)に対しても言えることだと思います。実施するユーザビリティテストに見学者がいる場合は、上記の指針をあらかじめ読んでいただき、理解していただくことで、ユーザビリティテストがより効果的なものになると思います。