遠隔ユーザビリティテスト
ここ数年、英語圏を中心に、遠隔ユーザビリティテスト (remote usability testing) という手法がユーザビリティ検証に使われるケースが増えています。文字通り、ユーザビリティテストを遠隔で実施するものですが、大きく2つの種類があります。
- モデレーター (テストの進行役) が介在するテスト
- テスター (ユーザー役のテスト参加者) とモデレーターとをインターネット回線でつなぎ、ウェブカム (Web カメラ) などを使ってユーザー行動を観察する。ライブ (リアルタイム) で実施する従来からあるユーザビリティテストを、そのまま遠隔で実施する。
- モデレーター (テストの進行役) が介在しないテスト
- テスター (ユーザー役のテスト参加者) に対して、あらかじめ決めておいたタスクを Web を介して依頼し、そのタスクが達成できたかなどを計測する。ライブ (リアルタイム) で一人ひとりのユーザー行動を観察するわけではないが、その代わり同時に多くのテストを実施できる。
実際には、遠隔であることの利点を活かしつつ「より効率的に」テストを実施して結果をまとめることができる、後者 (モデレーターが介在しないタイプのテスト) がポピュラーになってきています。
今回の記事では、(主にモデレーターが介在しないタイプを中心に) 遠隔ユーザビリティテストについて、いろいろと考えてみたいと思います。
遠隔ユーザビリティテストのメリットとデメリット
遠隔ユーザビリティテストには、下記のようなメリットがあります。
- 地理的な制約が低い。テスターを募集する際に「テスト実施会場に近い人」といった条件を無くすことができる。また、全国各地や外国など遠隔地にターゲットユーザーがいる場合は、積極的に遠隔地在住者をテストに巻き込むことができる。
- 特にモデレーターが介在しないテストの場合、時間的な制約が低い。テスターの都合のよい日時に協力してもらうことができる。
- ユーザー (テスター) が普段慣れ親しんでいる環境で、つまり Web サイトの実際の利用シーンに近いシチュエーションで、テストすることができる。
- モデレーターが介在しないテストの場合、従来からあるユーザビリティテストが苦手とする、定量的な調査ができる。
その一方で、遠隔ユーザビリティテストには、下記のデメリットもあります。
- ユーザー (テスター) の様子や画面を直接見ることができない。リアルなユーザー行動観察を通して「何をやっている/やろうとしている/考えている」を汲み取ることが難しい。
- モデレーターが介在しないテストの場合、ユーザー (テスター) の様子を見ながらテスト進行を変えること (ユーザー行動の背景をさらに深掘りしたり、テストの流れを適切に軌道修正したり、など) ができない。
今後への期待
地理的な/時間的な制約が低く、ユーザーが慣れ親しんでいる環境を使えるという利点をうまく活かす形で、遠隔ユーザビリティテストが広く実施されるようになれば、面白いと思います。実際、私もあるプロジェクトで遠隔ユーザビリティテストを実施してみたことがありますが、テスターが think aloud (思考発話法) を継続的に実践できれば、いろいろな発見 (サイトの課題を抽出したり新たな知見を得たり、など) が十分可能であることを実感しています。
ちなみに海外 (英語圏) では、すでに遠隔ユーザビリティテストのサービスが数多く存在しています。たとえば「Loop11」や「UserTesting」などが有名です。日本語でも気軽に実施できる (日本人のテスターを簡単にリクルーティングできる) サービスが出てくれば、これまで地理的な制約やコストの面でユーザビリティテストの実施を見合わせていた地方企業や中小企業の間でも、Web ユーザビリティに対する理解や改善の機運が高まるのではないか (そのきっかけになるのではないか)、という期待を抱いています。
なお、遠隔ユーザビリティテストを (その長所や短所を理解しつつ) 適切に実施するためには、従来からのユーザビリティテストをきちんと理解していて、かつ実践経験があることがることが望ましいと思います。実際に遠隔ユーザビリティテストの管理画面を見て感じたのですが、テスト設計 (タスク設定) においてユーザーの「意見」を聞いてしまう設問を置くことも簡単にできてしまうからです。遠隔であろうと、ユーザビリティテストの基本は「意見聴取」ではなく「行動観察」であることを肝に銘じることが大切です。