iPhone や iPad の音声読み上げ機能 (VoiceOver)

iPhone や iPad などの iOS 機器には、VoiceOver (ボイスオーバー) という音声読み上げ機能 (スクリーンリーダー) が搭載されています。「Mac OS X における音声読み上げ (VoiceOver)」でご紹介したものと同様ですが、パソコンで音声読み上げをする場合は様々なキーボード操作 (キーの組み合わせ) を覚える必要があるのに対し、iOS 機器の場合、タッチスクリーン上でのジェスチャによって音声読み上げをコントロールします。

iOS 機器には、あらかじめ日本語音声合成エンジンもインストールされているので、別途音声合成エンジンを購入する必要はありません。iPhone や iPad が手元にあれば、即座に音声読み上げが可能なので、Web サイトのアクセシビリティ検証ツールとしても気軽に使うことができます。

VoiceOver の起動

VoiceOver を起動するには、まず iPhone / iPad の「設定」で「一般」を選び、その中の「アクセシビリティ」を選びます。

iPhone の「設定」画面で「アクセシビリティ」を選択

「アクセシビリティ」の設定画面で、「VoiceOver」のオン/オフを選択できるので、オンに切り替えます。

iPhone の「アクセシビリティ」設定画面で「VoiceOver」を選択 VoiceOver をオンに切り替え

これで VoiceOver が起動し、音声読み上げが可能になります。

VoiceOver がオン (起動状態) のときのジェスチャ

VoiceOver がオフのときとオンのときとでは、iOS の操作で必要となるジェスチャが異なります。基本的に、VoiceOver がオフ (非起動状態) のときシングルタップで済んでいた操作は、VoiceOver がオン (起動状態) になっている場合、ダブルタップが必要になります。

視覚障害を持つ (特に全盲の) ユーザーは、iOS 上でタップ操作をしようにも、その対象 (オブジェクト) を一目見て確認することができないため、まずは操作対象を手探りで見つける/確認する必要があります。オブジェクトをシングルタップすると選択状態になり、それが何であるかを、音声読み上げによって理解することができます。オブジェクトが選択/確認された状態で、画面上をダブルタップすることで、初めてその対象オブジェクトが反応する...という流れになります。なお、ダブルタップ操作の代わりに、オブジェクトを選択して指を離さない (押したままの) 状態で、別の指でスクリーン上をタップすることによっても、オブジェクトを操作することが可能です。

また、画面をスクロールさせる操作も、VoiceOver がオフのときとオンのときとでは異なります。VoiceOver がオフ (非起動状態) のときは1本指のスワイプ/フリックで済んでいたところ、VoiceOver がオン (起動状態) のときは、3本指でフリックする必要があります。

Web サイトの閲覧操作

この記事では、VoiceOver の使いかたについて、主に、Web サイト閲覧に関係の深い操作方法に絞って、ご紹介したいと思います。

まずはブラウザ (Safari) の起動です。iPhone / iPad のホーム画面から、Safari を探します。1本指でタッチスクリーン上を滑らすと (任意の位置をタッチしてみても可)、指が置かれた位置にあるアイコンが選択され、読み上げられます。「サファリ」と読み上げられたら、そこでダブルタップすると、Safari が起動します。

Safari の起動後は、読みたいコンテンツの位置に指を置くと、その位置の内容が読み上げられるので、リンク箇所など必要に応じてダブルタップすれば基本的なブラウジングは可能です。ただし、それだけだとあまりにも「手探り」状態で、視覚障害ユーザーにとって認知/記憶の負荷が大きくなってしまうので、下記のようなコントロールも用意されています。VoiceOver を使いこなすうえで、ぜひ知っておきたいジェスチャです。

ページ全体を読み上げる
2本指で、上方向にフリックします。
読み上げを停止する
2本指で、タップします。
現在位置から読み上げを開始する
2本指で、下方向にフリックします。
読み上げ対象箇所を前後移動する
左または右にフリックします。見出し、段落、リンク、箇条書き、といった情報の「まとまり」単位で、読み上げ対象箇所を前後に移動することができます。
一時的に消音する
3本指で、ダブルタップします。もういちど、3本指でダブルタップすると、消音状態が解除されます。
スクリーンカーテンを有効にする (画面を真っ暗にする)
3本指で、トリプルタップします。もういちど、3本指でトリプルタップすると、画面が表示されます。

上記に加え iOS の VoiceOver には、「ローター」という便利機能が用意されています。VoiceOver がオン (起動状態) になっているときに、Safari の Web コンテンツ表示エリアで、2本指でひねるジェスチャ (つまみを回すような感じで) をすると、ローターが表示されます。

ローターの表示

ローターが表示されている状態で、続けて2本指でつまみを回すジェスチャをすると、「見出し」「リンク」「フォームコントロール」「表」「ランドマーク」「読み上げ速度」「文字」「単語」「行」...といった具合に機能を切り替えることができます。切り替え選択された機能は、1本指で上下方向にフリックすることによって、コントロールすることができます。たとえば「読み上げ速度」を選択して上下にフリックすると、音声読み上げスピードを速くしたり遅くしたりすることができます。それ以外の機能、たとえば「見出し」や「ランドマーク」を選択して上下にフリックすると、前後の見出しやランドマークにジャンプすることができます。ちなみにここで言う「ランドマーク」とは、WAI-ARIA の Landmark Roles のことです。

文字の入力 (タッチ入力モード)

上述したとおり、VoiceOver がオフ (非起動状態) のときにシングルタップでできる操作は、VoiceOver がオン (起動状態) のときは基本的にダブルタップが求められます。アドレスバーや検索窓、フォームなどに文字入力する際も例外ではなく、ソフトウェアキーボードの各キーは、ダブルタップしないと実際には文字を入力することができません (シングルタップだと、押したキーが何であるかという情報が音声で読み上げられるだけです)。

特に日本語での文字入力においては「かな漢字変換」というエクストラな操作が付随することもあり、この「ダブルタップによる文字入力」は、単語ひとつ入力するだけでもすごく時間がかかる作業になります (ユーザーの記憶負荷も高くなります)。iOS4 以降ではこの問題を軽減するために、一回のタッチで音声読み上げと文字入力が同時にできるオプションが用意されています。

ソフトウェアキーボードを開き、あるキーをタップした状態 (テキストボックスやテキストエリアの中にフォーカスが当たっている状態) でローターを表示させて、「入力モード」を選択します。

ソフトウェアキーボードを開いて、ローターで「入力モード」を表示

この状態で、指1本で上下方向にフリックすると、「タッチ入力モード」「標準入力モード」の切り替えができまるので、前者 (タッチ入力モード) を選択します。ソフトウェアキーボード上で、あるキーを選択して指を離さない (押したまま) 状態をキープし、キーの内容が音声読み上げされたところで、キーから指を離すと、選択していたキーの文字が入力されます。


このように VoiceOver は手軽に使うことができるスクリーンリーダーです。日々のアクセシビリティチェックに、ぜひ活用してみてください。