標準的なキーボード操作で Web コンテンツを閲覧できない場合

Web アクセシビリティの一環として、キーボード操作だけでも Web サイトを閲覧できることは大切です。JIS X8341-3:2010 にも、「7.2.1.1 キーボード操作に関する達成基準 (A)」「7.2.1.3 キーボード操作に関する例外のない達成基準 (等級 AAA)」という規定が設けられています。

標準的なキーボード操作としては、[Tab] キーによる操作 (リンク箇所の拾い読み) や、スクリーンリーダーなど支援技術で指定されたキーコマンド (見出しの拾い読み、読み上げフォーカス位置の移動、など) が挙げられます。Web 標準仕様に則って適切なマークアップをしていれば、特に問題は無いでしょう。可能であれば WAI-ARIA ランドマークも適宜埋め込んでおくと、ユーザーの利便性をより高めることにつながります。

しかし現実には、標準的なキーボード操作ではアクセスできない/利用できないユーザーインターフェース (UI) があります。 たとえば、下記のようなものです。

今回は、こうした標準的なキーボード操作で利用できない Web コンテンツがあった場合、それでもアクセスするためにはどういった補助手段があるのか、簡単にご紹介します。

ブラウザの機能拡張 (アドオン)

Firefox の機能拡張ソフト (アドオン) に、「Mouseless Browsing」というものがあります。クリック可能な場所に自動的に番号が割り振られるので、その番号をキーボードで叩くと、あたかもそこをクリックしたのと同じアクションを実行できます。

Mouseless Browsing の表示例

幸い、この Mouseless Browsing を使うと、標準的なキーボード操作ではアクセスできない、Facebook の「いいね!」ボタンや Google の「+1」ボタンも、押すことができます。

Mouseless Browsing を使うと、Facebook の「いいね!」ボタンや Google の「+1」ボタンもキーボードで「押す」ことが可能。

表示される数字は、デフォルト (初期状態) では小さくて見にくいですが、サイズや配色 (文字色/背景色) を適宜設定画面で変更できるので、ロービジョンのユーザーにも役に立ちそうです。

Mouseless Browsing の設定画面で表示スタイルを変更。

また、Windows パソコンでスクリーンリーダー (NVDA) を使って試したところ、Mouseless Browsing によって割り振られている番号も一応は読み上げられました (下記は NVDA のスピーチビューワをキャプチャしたものです)。

NVDA を使うと、Mouseless Browsing によって割り振られた番号も音声で読み上げることができる。

この Mouseless Browsing に似たアドオンは、Google Chrome にもいくつか用意されています (「Keyboard Navigation」「KeyboardNavigation」など)。ただ、これら Google Chrome 用アドオンは、標準的なキーボード操作でアクセス可能なリンク箇所にしか番号が割り振られなかったりなど、現状では Mouseless Browsing ほど機能が充実していないようです。

マウスキー

もうひとつ、OS に標準搭載の「マウスキー」という機能があります。これは、マウスポインターを上下左右に動かしたり、クリック (マウスボタンを押す) やドラッグ (マウスボタンを押したままにして動かす) に相当するアクションを、キーボード操作によって可能にするものです。

標準的なキーボード操作でフォーカスを当てることができないコンテンツや、ドラッグ操作が必要な UI は、このマウスキーを使うことで、利用することが可能になります。主に、目が見える (スクリーンリーダーを使わない) 人で、上肢障害や手の怪我などによってマウスを使うことができないユーザーにとっては、役に立つ機能と言えるでしょう。

それでもやっぱり標準的なキーボード操作をサポートしよう

今回、ブラウザの機能拡張 (Mouseless Browsing) とマウスキーのふたつをご紹介しましたが、実際に使ってみると、決してベストな解決策ではなく、どこかまどろっこしさを感じることがあるではないかと思います。実際に何人かの障害者ユーザーに聞いてみたところ、これらの機能を知っていても、標準的なキーボード操作を好む人が少なくありませんでした (そのほうが当人にとってはスピーディにコンテンツを閲覧/操作できるので)。

ここにご紹介した機能は、あくまでも補助的な手段であると理解するのがよさそうです。Web サイトを制作する立場としては、標準的なキーボード操作でも十分に必要な情報を伝えることができる/十分にサービスを利用することができる、そんなサイト作りを心掛けたいものです。