モバイルファースト/コンテンツファーストとアクセシビリティ
先に公開した記事で、モバイルファースト (Mobile First)/コンテンツファースト (Content First) という考えかたをご紹介しました。そのときは特に触れませんでしたが、モバイルファースト/コンテンツファーストの実践は、Web アクセシビリティの向上という面でも、とても意義のあることだと思っています。今回は、モバイルファースト/コンテンツファーストとアクセシビリティの関係について、考えてみたいと思います。
ユーザーエージェント非依存
モバイルファースト/コンテンツファーストを実践するということは、ユーザーの閲覧環境を選ばない (どのユーザーエージェントを使っていても、コンテンツを閲覧し利用することができる) ということを意味します。
ブラウザを介さなくても (Web ページとしてデザインされた体裁でなくても) コンテンツが利用可能になっているので (コンテンツだけを切り出して、RSS リーダーや「Instapaper」「Readability」といったサービスでも閲覧できる)、自ずと、スクリーンリーダーをはじめとする各種支援技術にとっても親和性が高いと言えます。
情報のリニアライズ (線形化)
モバイルファースト/コンテンツファーストに則ってスマートフォン向けに Web サイトを設計すると、ディスプレイサイズの制約から、基本的に情報配置はワンカラム (一列) で構成されることでしょう。「above the fold (スクロールせずに閲覧できる領域)」に収まりきらない場合は縦方向にのみスワイプさせることが多いと思います。
これはすなわち、情報 (コンテンツやナビゲーション) の構造がリニアライズ (線形化) されることを意味します。リニアライズされた形でも情報がうまく伝わるということは、情報をシリアルに (逐次的に) 受け取る視覚障害者 (スクリーンリーダーユーザー) にとっても、理解しやすくなっていると言えます。
情報のシンプル化 (認知負荷の軽減)
モバイルファースト/コンテンツファーストに則ってサイトを設計すると、ユーザーインターフェース (UI) やコンテンツを極限まで (本当に必要不可欠なレベルまで) 削ぎ落とすことにあるので、結果、情報がシンプルになり、認知負荷の軽減につながります。
一言で「シンプル」と言っても、障害の種類によって個々のコンテンツに求められるシンプルさの形は異なるかもしれません (文字情報中心でシンプルにするのがよいのか、文字をできるだけ使わずビジュアル主体でシンプルにするのがよいのか、など...) が、サイト全体の構造やナビゲーションを含め情報アーキテクチャが総体的にシンプルになると少なくとも言えるので、肝心なコンテンツに集中しやすくなるという点で、幅広いユーザーにメリットがあると思います。
データサイズの軽減
モバイルファースト/コンテンツファーストに則ったサイト設計では、閲覧環境 (通信速度やデバイス性能) が劣る場合も当然想定することになりますので、データサイズの軽減もスコープに入ってきます。
上記「情報のシンプル化」とも関係しますが、データサイズを軽くするということは、不必要にリッチな演出 (無駄な画像やアニメーションなど) を盛り込む余地が無いということでもあるので、コンテンツがアクセシブルな形になりやすいと言えるでしょう。
もちろん、モバイルファースト/コンテンツファーストの実践が、すなわちアクセシブルな Web サイトの実現と必ずしもイコールなわけではありません。ですが、PC 画面で閲覧すること (だけ) を想定してデザインされた旧来の複雑な (情報が盛りだくさんの) サイト設計に比べると、モバイルファースト/コンテンツファーストという考えかたは、アクセシビリティと親和性が高そうです。そんな視点からも、モバイルファースト/コンテンツファーストの広まりに注目してゆきたいと思います。