Jesse James Garrett "16 Lessons" (UX Days Tokyo 2016)
- 公開日 : 2016年3月27日 (2021年1月31日 更新)
- カテゴリー : 情報設計 (IA), ユーザーエクスペリエンス (UX)
2016年3月18日に開催された UX Days Tokyo 2016 カンファレンス で、Jesse James Garrett さんによる講演がありました。
Jesse James Garrett さんは、UX デザインのコンサルティング会社 Adaptive Path の創設者として、また書籍「Elements of User Experience, The: User-Centered Design for the Web (Voices That Matter)」(日本語訳は「ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」―5つの段階で考えるユーザー中心デザイン (Web designing books)」) の著者として有名です (というか、レジェンドですね)。「Ajax」という用語の生みの親でもあります。細身の体にレザージャケットと黒縁眼鏡というトレードマークはそのままに、当日は髪の一部をさりげなく紫色に染めていて、お洒落でした。
以下、講演のノートです。
講演者のスライドと発話を筆者がメモしたものをベースに、当記事用に (筆者なりの理解や解釈を加味する形で) 若干編集を加えております。そのため、講演内容を正確に再現しているものではないこと、ご承知おきください。イントロダクション
- もともとデザインの勉強をしていたわけではない。ジャーナリスト、ライター、といった仕事を経て、デザイン業界へ。
- サンフランシスコで勤めていたデザインエージェンシーが倒産し、UX コンサルティングの会社 (Adaptive Path) を創設した。
- どうしたらよいデザインができるか、経験からたくさんの学びを得ることができた。特にチームワーク、コラボレーションの重要性。
16 のレッスン
1. Go broad (幅広く取り組む)
- 様々な業界のクライアントと仕事をすることを通じて、幅広い知見を得られたことがデザイナーとしてよい経験だった。
- ある業界での仕事 (デザインによる課題解決) で学んだことは、他の業界での仕事にも活かすことができる。
- デザインによって課題を解決するという手法は、広範に適用することができる。
2. Go deep (深く取り組む)
- コンテキスト (ビジネスの文脈、ユーザーの利用文脈) に没頭し、問題や課題を深く理解する。
- クライアントの市場に対する理解、クライアントの意思決定プロセスや社内文化 (社風) に対する理解、創業者に対する理解 (ひいては企業理念) に対する理解。
- デザイナーが、問題に没頭できることが大事。
3. Go for a walk (散歩する)
- のめり込みすぎず、時には少し引いて見ることで、問題や課題を新鮮な視点で捉える。
- いつもと少し見かたを変える、考える場所を変える、といったちょっとしたことが効果的なことも。
4. Go farther than you think you should (やるべきことを広げてみる)
- 仕事の範囲 (役割) を決めつけない。リミットを忘れてみるのもよい。
- 未知の経験は怖いかもしれないが、イノベーションを生むには、やり慣れたことのさらに先を模索することも大事。
- もともとの問題や課題の定義を超えて、敢えて非合理的に考えてみる。(デザインの対象が堅苦しいものであっても、そこに「楽しさ」を採り入れてみる、など。)
5. Put away your notes (ノートを脇に置く)
- クライアントへのインタビューやユーザーリサーチなどで自分が録ったノートは、一旦忘れてみる。
- インタビューやリサーチで得られた細かい知見に気を取られすぎないこと。
- 頭のなかをまっさらにして、直感的に、ユーザーにとって重要なことは何かを考えてみる。(そのうえでノートを照らし合わせてみる。)
6. Learn to spot your assumptions (思い込みを見抜けるようにする)
- 頭の中に構築されたモデルは、必ずしも真実ではないことを理解する。
- 口に出して「なぜ」を問うてみることを通じて、思い込みであったことに気づくことがある。
7. Stay Curious (好奇心を持ち続ける)
- 既成概念との対峙。解決したと思われる問題であっても、もう一度 (別の、もっと面白い解決ができないか) 問うてみる。
- クリエイティビティは、エキサイティングでない物事 (堅苦しく、一見退屈で、華やかでないもの) にこそ発揮できることが多い。
8. Be as curious about your clients as you are about your users (ユーザーに対するのと同じようにクライアントに対しても強い関心を持つ)
- クライアント (ビジネス側の人、あるいは技術者) のニーズを理解することで、デザインをより強化することができる。
- (クライアントを含む) 組織全体によって製品やサービスが具現化される。
- デザイナーは、デザイナーでない人と争いを起こさないこと。お互い理解するよう務めること。
9. Hang with different crowds (自分と違う人たちと付き合う)
- デザイナーだけでつるむのではなく。
- 色々な立場の人と関わることで、新しい気づきを得られる。
- Ajax の概念を提唱し確立する中で、技術者との間でやりとりする機会があったが、彼らの視点や問題解決方法を学ぶことで、自分のアイデアに自信を持つことができた。
10. Cultivate allies (味方を育む)
- デザイナーのいちばんの味方はデザイナーとは限らない。
- ビジネス側の人やコンテンツ制作者など、デザイナーでない人であっても、ユーザーの体験 (UX) の重要性を語ることで味方にすることができる。
- 最終的には、自分がクライアントワークから離れても、そのクライアントが自律的に UX を重視して事業を回せるようにすることが大事。
11. Pick your battles (戦いを選ぶ)
- デザインのプロセスは戦いの連続。すべての戦いに挑むのではなく、戦うに相応しい事項を選別する。
- 本質的なこと、デザインの「要」として譲れないこと、に焦点を当てる。
- 本質さえ保てれば、自分のアイデアを手放すこともある。
12. Good work doesn’t speak for itself (よい仕事は自己PRしてくれない)
- 自分の仕事について、自分自身で語れて、アピールできることが大事。
- なぜこのデザインがよいのか。なぜこのようにデザインするのか。
- 言語化することによって、自分がクライアントワークから離れても、そのクライアントが自律的に事業を回すことができる。
13. Changing a design is easy. Changing mind is hard (デザインを変えることは簡単だがマインドを変えることは難しい)
- 人々の持つ偏見 (「仕事のプロセスかくあるべし」という思い込みや、「自社のデザインかくあるべし」という先入観など) を変えるのは難しい。
- イノベーションを生むには、デザインに関する先入観を取り除き、組織のありかたや、慣れ親しんだワークフローを変えなければならない。
14. Pay attention to your failures (失敗から目を逸らさない)
- 失敗した場合は、その失敗を注視し、学びを得ることが大事。
- なぜ失敗したのかを分析する。失敗には、今後の自分に対するメッセージが潜んでいるはず。それを見出す。
- 技術的な観点でスマートな UI でもユーザーが不安を感じることがある (たとえば自動保存機能)。それが UX を損なうのであれば、スマートでなくても敢えてユーザーの安心感を優先するデザインを採用する (たとえば保存ボタンを配置する)、という判断もあり得る。
15. Everything is always changing (すべてのものは常に変化する)
- テクノロジー、ビジネス、デザイン…様々な側面で、常に小さな変化が起きている。
- 小さな変化の積み重ね (組み合わせ) が大きな変化をもたらすことがある。たとえば Ajax は技術的なイノベーションではないが、少しずつ進化した (熟してきた) 技術を組み合わせて新しいインタラクションのありかたを概念化したことが大きなインパクトとなったと言える。
- 変化を受け入れ、変化の波に乗ることを楽しんでみよう。
16. We are all in this together (みんなで一緒に取り組む)
- 私たちはみんなで UX に取り組んでいる。世界中に同志がいる。
- 米国が UX 先進国である、ということはない。ユーザーやクライアントが抱える問題や課題は、どの国でも一緒。
- だからこそ世界中でコミュニティーができていて、私たちはお互い学び合うことができる。