ウェブアクセシビリティへの取り組みを公開する (JIS X8341-3:2016 を基に)
この記事は、Web Accessibility Advent Calendar 2016 の17日目の記事です。
ご自身が運営するウェブサイトにおいて、アクセシビリティの向上に取り組んでいるのであれば、その取り組みについて情報公開したいものです。社外に対するよいアピール (ひいては自社に対する信頼感やブランドイメージの向上) になり得ますし、内部的にもウェブサイトの品質基準を宣言し共有することにつながるからです。
具体的にどう情報を公開したらよいか、スタンダードがあれば参考にしたいところですが、幸い JIS X8341-3:2016 で「附属書 (参考)」という形で提示されています。
- 附属書 JA ウェブアクセシビリティの確保・維持・向上のプロセスに関する推奨事項
- 附属書 JB 試験方法
「付属書 JA」では、ウェブアクセシビリティを確保し高めるために推奨されることが「企画」「設計」「制作・開発」「確認」「保守・運用」の観点でまとめられています。そしてその中の「確認」(PDCA で言うところの C )、すなわち試験の方法について「附属書 JB」を参照する、という建て付けになっています。
また、これらの附属書を補足するためのウェブドキュメント (ガイドライン) が、ウェブアクセシビリティ基盤委員会 (WAIC) のサイトで提供されています。
- ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン
- ウェブコンテンツの JIS X 8341-3:2016 対応度表記ガイドライン
- JIS X 8341-3:2016 対応発注ガイドライン
- JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン
これら附属書およびガイドラインを熟読すれば、ウェブアクセシビリティへの取り組みをどう文書化して公開すればよいかがわかりますが、一読しただけでは、情報公開に向けてのタスクを組み立てるのはやや難しいかもしれません。個人的に JIS X8341-3:2016 対応案件があったので、その経験も踏まえチートシート的に、何をしたらよいかのアウトラインを提示してみたいと思います。
公開する成果物
まずは大まかに、何をすればよいかを理解しましょう。わかりやすくまとめると、以下のような感じになるかと思います。
- 方針を決める。対象範囲 (サイトのドメインやディレクトリ) と、適合レベル (A、AA)、対応度 (準拠、一部準拠、配慮) を決める。サイトの新規開発やリニューアルであれば、上流 (設計の前段階) で決めて、それが設計仕様に反映されるようにする。
- 試験する。上記1で決めた対象範囲に対して、目標とする適合レベルの達成基準が満たせているかどうかを確認し、まとめる。
上記 1と2の取り組みの成果をそれぞれ、ドキュメントとして公開する、という感じで捉えるとよいでしょう。「ウェブアクセシビリティ方針」と「試験結果」のページを用意する、という具合です。
成果物の内容
ここでは、ウェブアクセシビリティへの取り組みを情報公開するためのページとして「ウェブアクセシビリティ方針」と「試験結果」のページを用意する想定で、それぞれの内容について、詳しく見てゆきたいと思います。
なお、このふたつのページの関係は並列でもよいですし、「ウェブアクセシビリティ方針」の下位に「試験結果」ページがある、という構成でもよいでしょう。サイト共通フッターなどからどう導線を設計するか、という観点も併せて検討しましょう。たとえば、フッターに配置できるリンクに限りがあって、アクセシビリティに関しては1つだけ「アクセシビリティ」というリンクしか置けない、ということであれば、まずはそこをクリック/タップすると「ウェブアクセシビリティ方針」が提示され、その文脈の中で「試験結果」ページへの導線が提示される、という形が現実的かと思います。
ウェブアクセシビリティ方針
JIS X8341-3:2016「付属書 JA」の「JA.1 企画」を見ると、ウェブアクセシビリティ方針の策定にあたっては、「対象」と「目標とする適合レベル」を明記するとされていますが、WAIC のウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン ではより具体的に、明記すべき事項として以下が挙げられています。(各項目のコロン以下は、筆者による追記です。)
- 対象範囲 : サイト名、ドメイン、ディレクトリなどで具体的にスコープを記述します。
- 目標とする適合レベルおよび対応度 : 適合レベルは「A、AA、AAA」で表現し、対応度は「準拠、一部準拠、配慮」で表現します。
- 目標を達成する期限 (オプション) : 現時点では未対応だがこれから対応する場合、記載します。
- 例外事項 (オプション) : 第三者コンテンツを盛り込んでいるなどの事情でアクセシビリティが担保できない場合や、現実的に実現不可能な達成基準がある (アクセシビリティ担保を求める法令などでも免除事項とされている) 場合などに、記載します。
- 追加する達成基準 (オプション) : 目標とする適合レベルよりも上のレベルで、達成基準を満たしているものがあれば、記載します。
- 担当部署名 (オプション) : 「付属書 JA」の「JA.5 保守・運用」を具現化する (「b) フィードバックによる意見の収集」および「c) アクセシブルな問い合わせ手段の提供」) ために、窓口を明記します。特定の部署がない場合は、「お問い合わせ先」という見出しでもよいでしょう。
- 現時点で把握している問題点およびその対応に関する考えかた (オプション) : 上記の「例外事項」には該当しないものの、今後リソースをかければ対応可能な達成基準については、ここに列挙したうえで改善の目途を明示するとよいでしょう。
- 試験結果へのリンク (オプション) : ウェブアクセシビリティ方針に基づいた試験結果の開示として、リンクを設けます。
ご参考として、当サイトのウェブアクセシビリティ方針については、こちらをご覧ください。このウェブアクセシビリティ方針のページでは、導入文で「なぜ自分たちはウェブアクセシビリティに取り組むのか」を自社の理念などに照らし合わせて独自の言葉で宣言できると、なおよいかなと思います。
試験結果
JIS X8341-3:2016「付属書 JB」の「JB.3.1 表示事項」を見ると、ウェブアクセシビリティの試験結果を表示するにあたっては、以下の内容を含むことが望ましいとされています。(各項目のコロン以下は、筆者による追記です。)
- 表明日
- 規格の規格番号及び改正年 : つまりは「JIS X 8341-3:2016」のことです。
- 満たしている適合レベル (対応度) : 「A、AA、AAA」で表現します。
- 対象となるウェブページに関する簡潔な説明 : サイト名、ドメイン、ディレクトリなどで具体的にスコープを記述します。
- 依存したウェブコンテンツ技術
- 試験対象のウェブページを選択した方法 : 「ウェブページ一式を代表するウェブページとしてxxページ、ランダムサンプリングによってxxページを選択。」といった具合に記述します。合わせて40~50ページくらいを目安にします。
- 試験を実施したウェブページのURI : リストが長くなることで試験結果ページ全体の見通しが悪くなるようであれば、別ページでまとめても構いません。個人的には、リストの小見出しとして、「ウェブページ一式を代表するウェブページ」と「ランダムに選択されたウェブページ」を明示してもよいかと思います。
- 達成基準チェックリスト : リストが長くなることで試験結果ページ全体の見通しが悪くなるようであれば、別ページでまとめても構いません。
- 試験実施期間
また必要に応じて、「JB.3.2 追加の表示事項」にあるように、たとえば試験に使用したチェックツールなどの名称を明記してもよいでしょう。
ご参考として、当サイトの試験結果については、こちらをご覧ください。
実装チェックリストについて
なお、JIS X8341-3:2010 の箇条8「試験方法」で規定されていた実装チェックリストについては、JIS X8341-3:2016「付属書 JB」の「JB.3.1 表示事項」を見る限り、試験結果の表示において必須ではなさそうです。ただ、「JB.3.2 追加の表示事項」に「a) 達成基準を満たすことを示すための技術的根拠」とありますので、その一環として実装チェックリストを開示するのも一考かと思います。
私個人の考えとしては、試験結果として公開するかどうかはともかく、少なくとも内部的な資料として、実装チェックリストは上流工程でまとめておきたいところです。設計、制作、QAの各工程でベースとなる具体的な仕様書として機能するからです。このあたりの考えかたは「JIS X8341-3 の実装チェックリストを上流工程から使う」でも述べていますし、また WAIC の JIS X 8341-3:2016 対応発注ガイドライン や JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン でも、実装チェックリストについての言及があります。
以上です。詳しくは、JIS X8341-3:2016 の附属書および WAIC のガイドラインを熟読していただければと思いますが、事前に上述のアウトラインを知っておくと、取り組みやすいのかなと思いまとめてみました。ご参考になれば幸いです。