WCAG 2.1 (First Public Working Draft)
W3C が勧告している WCAG (Web Content Accessibility Guidelines) 2.0 の次期バージョンとされている、WCAG 2.1 の First Public Working Draft が、2017年2月28日に開示されました (ドラフト原文 : WCAG 2.1 - W3C Working Draft)。3月末までコメントを受付中とのことです。
気になる WCAG 2.0 との差分ですが :
In this draft the WCAG 2.0 Success Criteria remain unchanged. This does create some redundancy but the Working Group seeks review of the new Success Criteria at this time and will evaluate where to modify existing WCAG 2.0 Success Criteria later in the process.
...とのことで、今回の Working Draft においては、既存の WCAG 2.0 の達成基準は変更されていません。取り敢えず差分をわかりやすくするために改訂内容はすべて新規の達成基準として記述し、コメントを受けて検討のうえ、最終的には既存の WCAG 2.0 達成基準との統合も含めまとめてゆくようです。
ドラフト原文を見たところ、4つの原則 (Perceivable、Operable、Understandable、Robust) は変わらずで、原則2 (Operable) の下にガイドラインが2つ追加されています。
- 2.5 Pointer Accessible
- 2.6 Additional Sensor Inputs
また、各ガイドライン (上記2つに限らず) の下に、28もの達成基準が追加されています。うち3つは WAI Accessibility Guidelines Working Group の承認済みで、ドラフト原文では「New」とマーキングされています。残りの25は同 Working Group 未承認でドラフト原文では「Proposed」とマーキングされています。以下、今回の Working Draft で追加された達成基準の一覧ですが、New の3件については「承認済」欄に○を付けています。なお「概要」はかなり意訳のうえ短くまとめているので、詳しくはドラフト原文をご参照ください。(ただ、原文の英語自体、ラフに書かれていて熟れていな印象です。)
達成基準番号 | レベル | 承認済 | 達成基準名 | 概要 |
---|---|---|---|---|
1.3.4 | A | Support Personalization (Minimum) | 機能や情報の要素や属性、重要度などがプログラム的に定められていて、UI のパーソナライズにも対応していること。 | |
1.4.10 | A | Linearization | コンテンツを線形化した形 (1カラム) で提示できること。 | |
1.4.11 | A | ○ | Resize content | コンテンツを400%まで拡大表示 (横スクロールなしで) できること。ただし二次元的な配置が表現上必須なコンテンツはこの限りではない。 |
1.4.12 | AA | ○ | Graphics Contrast | 情報や機能の理解において重要なグラフィックオブジェクトは、周囲との間に 4.5:1 以上のコントラスト比が必要。 |
1.4.13 | AA | Printing | コンテンツが印刷可能な場合、リサイズや各種変更 (文字間隔、行間、フォント、配色など) ができること。 | |
1.4.14 | AA | User Interface Component Contrast (Minimum) | UI コンポーネントのグラフィックオブジェクトは、周囲との間に 4.5:1 以上のコントラスト比が必要。フォーカス/選択時も含めて。 | |
1.4.15 | AA | Adapting Text | ユーザーが独自のスタイルシートを用いるなどして CSS をオーバーライド (特定のフォントの使用、白黒反転、行間/文字間隔などの変更、など) しても情報や機能が欠落せず伝わること。 | |
1.4.16 | AA | Popup Interference | マウスオーバー (hover) やフォーカスによって情報をポップアップ表示させる場合、元の背景側のコンテンツへのアクセスを妨げないこと。 | |
2.1.4 | A | Speech Input | コンテンツに実装された機能が、ユーザーの音声入力を妨げないこと。 | |
2.2.6 | A | Timeouts | コンテンツ利用がタイムアウトを伴う場合、データを消失することなく元の状態に戻すことができ、タイムアウトの時間調整ができ、事前にタイムアウトする旨が認知できること。 | |
2.2.7 | A | Animation from interactions | ユーザーの行為に伴って生じる (本質的でない) アニメーションは、一時停止、停止、まては非表示できること。 | |
2.2.8 | AA | ○ | Interruptions (minimum) | ユーザーの任意操作による場合または緊急の表示の場合を除き、コンテンツの割り込みや変更を、延期したり抑制したりできる簡単に利用可能なメカニズムがあること。 |
2.4.11 | A | Single-key Shortcuts | 単一のキーだけでショートカットを構成しないこと。 | |
2.5.1 | A | Target Size | ポインティングのターゲットサイズは、タッチインターフェース向け UI では44×44 px 以上、マウス/トラックパッド向けまたはスタイラス向け UI では22×22 px 以上あること。 | |
2.5.2 | A | Pointer inputs with additional sensors | あらゆるポインター機能は、画面座標情報 (XおよびY方向) でのみ操作できること。(Z方向の情報、たとえばタッチの圧力などをポインター操作の必須要件としないこと。) | |
2.5.3 | A | Touch with Assistive Technology | タッチインターフェースの各機能は、プラットフォームの支援技術が有効になっても問題なくタッチ操作できること。 | |
2.5.4 | A | Pointer Gestures | 複雑な (ダブルクリック/ダブルタップなど)/時間を伴う (長押しなど)/複数の (押した状態のままドラッグなど) ポインティングジェスチャが必要な機能は、シンプルなジェスチャ (タップ) でも使える術があること。 | |
2.6.1 | A | Device Sensors | あらゆる機能は、特定の機器センサー情報 (傾けたり振ったりなど) に依存せずに使えること。 | |
2.6.2 | AA | Orientation | コンテンツの利用が、機器の特定の向き (ポートレート/ランドスケープ) によって阻害されないこと。 | |
3.1.7 | A | Plain Language (Minimum) | 各種インストラクション、ラベル、ナビゲーション、エラーメッセージなどにおいて、明快で簡潔な言語表現を用いること。 | |
3.1.8 | AA | Manageable Blocks | ユーザーが選択したりアクションを実行したりするための説明文は、1文あたり1インストラクション、15単語以内とし、複数の代名詞を含まないこと。 | |
3.1.9 | AA | Extra Symbols | 重要な関連情報がある場合は、それを起動する箇所に視覚的なシンボルを置くこと。 | |
3.2.6 | A | Accidental Activation | 1本指で操作する機能 (タップなど) においては、誤操作防止のために、指やマウスボタンの「ダウン」時点ではなく「アップ」時点で機能を実行すること。 | |
3.2.7 | A | Familiar Design (Minimum) | ヘルプ機能や検索窓などを、ユーザーの慣習に合わせて容易に見つけられるようにすること。(プラットフォーム標準の UI デザインの採用、ユーザー任意のパーソナライズ機能の採用、前バージョンからの踏襲、といった形で。) | |
3.2.8 | AA | Change of Content | ユーザーのアクションのフィードバックとしてコンテンツが変更される場合は、プログラムによる通知を提示すること。 | |
3.3.7 | A | Minimize user errors | よくある間違いは (機械的に正しく直せるのであれば) 自動的に訂正すること。 | |
3.3.8 | A | Undo | アンドゥ機能によって、誤ったアクションを取り消して、やり直せること。 | |
3.3.9 | AA | Provide Support | 複雑な情報や長い文書、数値情報、相対的な方向情報、形の情報、標準的でないコントロールに対して、ユーザーの理解を助けるコンテンツを提示すること。 |
ひととおりドラフト原文を読んでみた所感としては、以下、特筆すべきかな、と感じます。
- モバイル機器利用時のアクセシビリティが強く意識されている。線形化表示、ポインティングのターゲットサイズ、ジェスチャに関する制限、特定のセンサーへの非依存、特定の「向き」への非依存、など。(達成基準 1.4.10、2.5.1、2.5.2、2.5.3、2.5.4、2.6.1、2.6.2、3.2.6)
- コンテンツの拡大表示の基準値が (現行達成基準の200%から) 400%に拡大し、かつ「横スクロールなしで」という条件が加わっている。(達成基準 1.4.11)
- テキストや文字画像に加えて、グラフィックなオブジェクト (グラフ、アイコン、ボタンなど) に対しても、適切なコントラスト比の確保が求められている。(達成基準 1.4.12、1.4.14)
- 音声入力に関して言及がある。(達成基準 2.1.4)
また、ユーザーの認知負荷を軽減することの重要性も、以下のようにかなり意識されているように見受けられ、興味深いです。
- パララックス効果を視野に入れた達成基準が検討されている。(達成基準 2.2.7)
- Plain Language を基本とした平易な文章表現術が求められている。(達成基準 3.1.7、3.1.8)
- 情報伝達に際して視覚的なシンボルの活用が求められている。(達成基準 3.1.9)
- 機械的に正しく直せる類の誤入力は、システム側が吸収して自動的に訂正することが求められている。(達成基準 3.3.7)
- アンドゥ機能の実装が求められている。 (達成基準 3.3.8)
今後も WCAG 2.1 は最終的な勧告に向けてさらにブラッシュアップされてゆくと思いますが、引き続き、ウォッチしてゆきたいと思います。
(2017年4月13日追記)
この First Public Working Draft に対するコメント受付は終了しましたが、米国の非営利団体「WebAIM (Web Accessibility in Mind)」によるコメントが開示されています。より深く論点を理解するうえで参考になると思います。(参照 : WebAIM: Feedback on WCAG 2.1 Draft)