WCAG 2.1 Recommendation (勧告)
W3C の WCAG (Web Content Accessibility Guidelines) の新バージョンである WCAG 2.1 が、2018年6月5日に正式な Recommendation (勧告) になりました。旧バージョン (2.0) で十分にカバーできていなかったとされる領域 (ロービジョン、モバイル、認知/学習障害への配慮) が強化されています。
この勧告のひとつ前の段階として、先に「WCAG 2.1 Proposed Recommendation (勧告案)」という記事を書きましたが、そこで挙がっていた達成基準と内容的には同じです。(細かいところでは、新達成基準 2.5.3 で若干の言い回しの変更がありますが、文意には影響ありません。)
なお、旧バージョン (2.0) との差分は W3C ウェブサイトの「What's New in WCAG 2.1」にまとめられていますので、一次情報としてご参照いただければと思います。
この記事では、WCAG 2.1 で正式に追加された新達成基準を、改めて一覧としてまとめてみましたので、共有したいと思います。
- 達成基準のラベルおよびその詳細については、W3C の原文 (英語) ママです。日本語訳についてはいずれ、私も参加しているウェブアクセシビリティ基盤委員会 (WAIC) 翻訳ワーキンググループ (WG4) にてまとめられる形になるかと思います。
- 備考欄には、各達成基準の理解の助けとして、ユーザーが抱える問題と望ましい解決について記述しています。「What's New in WCAG 2.1」に、達成基準ごとのペルソナ引用 (W3C が作成した Stories of Web Users からの抜粋) が添えられていますが、それを参考にしつつ、一般化して記述しています。
ガイドライン 1.3 Adaptable (適応可能)
# | 達成基準 | レベル | 詳細 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1.3.4 | Orientation | AA | Content does not restrict its view and operation to a single display orientation, such as portrait or landscape, unless a specific display orientation is essential. |
[モバイル] 車椅子にタブレットを固定設置する場合など、ユーザーがデバイスの向き (ポートレート/ランドスケープ) を自由に変えられないことがある。デバイスの向きに関わらず、アプリケーションが使えるのが望ましい。 |
1.3.5 | Identify Input Purpose | AA | The purpose of each input field collecting information about the user can be programmatically determined when:
|
[認知/学習] フォームへの入力において、間違いなく入力する (確認する) ことが難しいユーザーがいる。フォームの各項目の目的が、プログラムによる解釈が可能で、それによって適切なオートフィルが利用可能であれば、ユーザーの認知負荷を軽減することができる。 |
1.3.6 | Identify Purpose | AAA | In content implemented using markup languages, the purpose of User Interface Components, icons, and regions can be programmatically determined. |
[認知/学習] ユーザーの中には、UI コンポーネント内の言葉などをシンボルに変換するツールを利用している人がいる。適切なシンボルに変換されるように、UI コンポーネント内の言葉やアイコンなどの目的は、プログラムによる解釈が可能な形であることが望ましい。 |
ガイドライン 1.4 Distinguishable (判別可能)
# | 達成基準 | レベル | 詳細 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1.4.10 | Reflow | AA | Content can be presented without loss of information or functionality, and without requiring scrolling in two dimensions for:
|
[ロービジョン] 文章を読むのに、行ごとに左右スクロールをしなければ読めない場合、どこを読んでいるのかがわかりにくくなり、理解の妨げになる。画面表示を拡大しても (400%)、テキストが画面幅の中でリフローする (左右スクロールをせずに読める) のが望ましい。 |
1.4.11 | Non-text Contrast | AA | The visual presentation of the following have a contrast ratio of at least 3:1 against adjacent color(s):
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[ロービジョン] テキスト以外の視覚的表現も、配色において十分なコントラスト比があることが望ましい。 |
1.4.12 | Text Spacing | AA | In content implemented using markup languages that support the following text style properties, no loss of content or functionality occurs by setting all of the following and by changing no other style property:
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[ロービジョン] ユーザーによっては、行間、段落の間隔、文字間隔などを (独自のスタイルシートで) 調整しないと読みにくい場合がある。ユーザーが独自のスタイルシートを適用しても、コンテンツや機能が欠損せずに利用できることが望ましい。 |
1.4.13 | Content on Hover or Focus | AA | Where receiving and then removing pointer hover or keyboard focus triggers additional content to become visible and then hidden, the following are true:
|
[ロービジョン] ロービジョン (弱視) ユーザーは、画面拡大 (画面からはみ出した部分を見るにはスクロール) のうえ、マウスポインターで読みたい対象箇所を指し示しながら、コンテンツを読むことがある。その場合、ユーザーの意図に反したマウスオーバー効果 (見ていたコンテンツが別のコンテンツに覆い隠される) やマウスアウト効果 (見ていたコンテンツが消える) が生じないのが望ましい。 |
ガイドライン 2.1 Keyboard Accessible (キーボード操作可能)
# | 達成基準 | レベル | 詳細 | 備考 |
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2.1.4 | Character Key Shortcuts | A | If a keyboard shortcut is implemented in content using only letter (including upper- and lower-case letters), punctuation, number, or symbol characters, then at least one of the following is true:
|
[モバイル] 文字キーのみで構成されるショートカットキー機能がある場合、ユーザーの音声入力 (発話) がそのショートカットキー機能のトリガーとなり、ユーザーの意図しない挙動を引き起こしてしまう恐れがある。これを回避できることが望ましい。 |
ガイドライン 2.2 Enough Time (十分な時間)
# | 達成基準 | レベル | 詳細 | 備考 |
---|---|---|---|---|
2.2.6 | Timeouts | AAA | Users are warned of the duration of any user inactivity that could cause data loss, unless the data is preserved for more than 20 hours when the user does not take any actions. |
[認知/学習] 複数サイト間でサービスを比較検討する場合など、あるページでデータの入力をしたまま、別のページを見ることがある。特に認知/学習の障害があるユーザーの場合、この比較検討に時間がかかるため、せっかく入力したデータがタイムアウトで消失してしまう恐れがある。あらかじめ、データ消失までの残り時間が明示されているのが望ましい。 |
ガイドライン 2.3 Seizures and Physical Reaction (発作および身体反応の防止)
WCAG のバージョンアップ (2.0 → 2.1) を機に、ガイドライン 2.3 のラベルが「Seizures (発作の防止)」から「Seizures and Physical Reaction」に変更されています。なお、上記和訳 (発作および身体反応の防止) は私案です。# | 達成基準 | レベル | 詳細 | 備考 |
---|---|---|---|---|
2.3.3 | Animation from Interactions | AAA | Motion animation triggered by interaction can be disabled, unless the animation is essential to the functionality or the information being conveyed. |
[認知/学習] マウス操作やキーボード操作 ([Tab] キーなど) に追従したアニメーション (視差効果) がある場合、それによって眩暈などを引き起こす恐れがある。ユーザーの任意でアニメーションを無効にできるのが望ましい。 |
[新規] ガイドライン 2.5 Input Modalities (入力モダリティ)
WCAG のバージョンアップ (2.0 → 2.1) を機に、ガイドライン 2.5「Input Modalities」が新設されています。なお、上記和訳 (入力モダリティ) は私案です。# | 達成基準 | レベル | 詳細 | 備考 |
---|---|---|---|---|
2.5.1 | Pointer Gestures | A | All functionality that uses multipoint or path-based gestures for operation can be operated with a single pointer without a path-based gesture, unless a multipoint or path-based gesture is essential. |
[モバイル] ユーザーの中には、マルチタッチまたは (スワイプのような) 線を描くジェスチャーができない人がいる。ボタンを用意するなどして、1本指のタップでも操作可能であることが望ましい。 |
2.5.2 | Pointer Cancellation | A | For functionality that can be operated using a single pointer, at least one of the following is true:
|
[モバイル] ユーザーがある行為をしようとして、うっかり間違ったボタンをタップしてしまうことがある。ボタンの押下 (down イベント) で即その機能を有効にするのではなく、(押下したまま指をボタン領域から外す、アンドゥする、など) 何らかの無効化策があるのが望ましい。 |
2.5.3 | Label in Name | A | For user interface components with labels that include text or images of text, the name contains the text that is presented visually. |
[モバイル] UI コンポーネントで視覚的に表示されているラベルと、ソースコード内の name の記述 (テキスト) が一致していないと、音声コマンドで当該 UI コンポーネントを操作しようとしても、反応しない恐れがある。 |
2.5.4 | Motion Actuation | A | Functionality that can be operated by device motion or user motion can also be operated by user interface components and responding to the motion can be disabled to prevent accidental actuation, except when:
|
[モバイル] デバイスのモーションセンサーを活用するアプリケーションの場合、デバイスを傾けたり振ったりすることができないユーザーが、利用できない恐れがある。代替手段として UI コンポーネント (ボタンなど) から使えること、かつ誤動作防止のためにモーションセンサーをオフにできること、が望ましい。 |
2.5.5 | Target Size | AAA | The size of the target for pointer inputs is at least 44 by 44 CSS pixels except when:
|
[モバイル] ボタンなどタップ対象となる UI コンポーネントが小さいと、隣接する違うボタンを誤タップする恐れがある。交通機関での移動中など不安定な状況でも誤タップしない程度の、十分な大きさが確保されていることが望ましい。 |
2.5.6 | Concurrent Input Mechanisms | AAA | Web content does not restrict use of input modalities available on a platform except where the restriction is essential, required to ensure the security of the content, or required to respect user settings. |
[モバイル] 入力のためのモダリティがアプリケーション側で一部制限されている場合、ユーザーによっては入力ができなくなる恐れがある。プラットフォームが提供している入力モダリティはすべて利用可能であることが望ましい。 |
ガイドライン 4.1 Compatible (互換性)
# | 達成基準 | レベル | 詳細 | 備考 |
---|---|---|---|---|
4.1.3 | Status Messages | AA | In content implemented using markup languages, status messages can be programmatically determined through role or properties such that they can be presented to the user by assistive technologies without receiving focus. |
[認知/学習] ある操作に対するフィードバックで、状況を伝えるメッセージが出る場合、それを見ることができないユーザーにも支援技術 (スクリーンリーダーなど) を介して伝達されることが望ましい。 |