YouTube における「低く評価 (dislike)」ボタンのカウント数の非表示

YouTube の各動画には、サムズアップ (親指を立てて肯定の意味を示す) アイコンによる「高く評価 (like)」ボタンと、サムズダウン (立てた親指を下に向けて否定の意味を示す) アイコンによる「低く評価 (dislike)」ボタンが備えられています。以前は、両方のボタンに対して、それぞれが押されたカウント数が明示されていましたが、今年11月以降、片方の「低く評価 (dislike)」ボタンにおいて、カウント数が非表示になりました。

YouTube の動画表示。「高く評価 (like)」ボタンには押されたカウント数が明示されているが、「低く評価 (dislike)」ボタンには表示されていない。
YouTube の動画表示

YouTube 公式ブログに、この UI 変更に関する公式説明が載っています (参考 : An update to dislikes on YouTube - YouTube Official Blog)。動画クリエーターに対するハラスメント (「低く評価 (dislike)」のカウント数を嫌がらせとして増やそうとする攻撃行為) を軽減し、視聴者と動画クリエーターとの間でリスペクトのある健全な関係が促進されることを意図した施策ということです。今年の初めから行われてきた事前の実験で、一部のクリエイターの動画を対象に「低く評価 (dislike)」ボタンのカウント数を非表示にするテストを実施した結果、カウント数の非表示化が、こうしたハラスメントの減少につながることが認められたそうです。なお、「低く評価 (dislike)」のカウント数は視聴者に対しては隠されますが、動画クリエーターは、自身の YouTube Studio (管理画面) で確認することができます。

この施策に対しては、賛否を含めて、いろいろな考えかたがあると思います。たとえば、Jorge Arango 氏 (情報アーキテクトで、いわゆる「シロクマ本」と呼ばれる「情報アーキテクチャ — 見つけやすく理解しやすい情報設計」(第4版) の共著者) は自身のブログ記事「YouTube Hiding Dislike Counts - Jorge Arango」の中で以下のように述べており、今回の UI 変更に対して一定の評価をしています。

I like this approach. It removes an important incentive for trolling while preserving the ability to provide feedback to creators and hone the system’s recommendations.

(私はこのアプローチはよいと思います。クリエーターへのフィードバックや、システムによる推奨の向上を保ちつつ、荒らし行為への動機を取り除くからです。)

一方で、Nick Babich 氏 (UX デザイナーで、Adobe XD IdeasSmashing Magazine などへの寄稿も多数) は自身のブログ記事「YouTube Removed Dislike Count - Nick Babich」の中で以下のように述べており、「低く評価 (dislike)」のカウント数を非表示にすることによって、視聴者側のユーザー体験が損なわれる懸念を示しています。

When people evaluate YouTube videos, they typically consider the following information:

  • The ratio of likes vs. dislikes;
  • Total number of views;

This informations work together to give me insights about the video.

(人々が YouTube 動画を評価する際は、like と dislike の数の比率、およびトータルの視聴回数を考慮に入れています。こうした情報は、掛け合わせによって、動画に対する良し悪しの洞察を与えてくれるものです。)

心無いごく一部の視聴者による誹謗中傷や荒らし行為から、クリエーターのウェルビーイングをしっかりと守ることは、重要かつ当然であると言えるでしょう。それを踏まえたうえで、今回の UI 変更を見てみると、悪い改善ではないものの、「押せるボタンが2つあるのに、片方だけ押されたカウント数が見えて、もう片方は押されたカウント数が隠されている」という非対称性が残ることに、個人的にはやや違和感を感じてしまいます。あらゆる視聴者が過去の経緯 (昔は「低く評価 (dislike)」のカウント数も表示されていたが、それが一部の視聴者による荒らし行為を誘引する結果になったので、今では「低く評価 (dislike)」のカウント数は非表示になっている) を熟知しているのであればまだしも、そうした背景事情を知らないユーザーにとっては、以下のような「もやもや」につながってしまう可能性があるからです。

今回の YouTube のケースは、対処療法的な解決と言えますが、もし同様のインタラクションをデザインするとした場合、よりよいソリューションがあるかもしれない、と考えてみるのもよいと思います。たとえば :

「コンテンツを利用する側にとって迷わず理解できて役に立つ情報提示」と「コンテンツを作る側にとってウェルビーイングが損なわれない情報提示」を両立するにはどうするのがよいのかを思考するネタとして、今回の YouTube の UI 変更は興味深いなと思います。