ザ・ダークパターン

ザ・ダークパターン — ユーザーの心や行動をあざむくデザイン」を読みました。

ザ・ダークパターン — ユーザーの心や行動をあざむくデザイン

ダークパターン (dark patterns) とは、「ユーザーをだまして何かを購入させたり、登録させたりするなど、意図しないことを実行させる、ウェブサイトやアプリで使われているトリック」のことを言います。最近では、「欺瞞的なデザイン (deceptive design)」と称されることもあります。

Deceptive design patterns (also known as "dark patterns") are tricks used in websites and apps that make you do things that you didn't mean to, like buying or signing up for something.

出典 : Deceptive Design (旧 darkpatterns.org)

ダークパターンが用いられるようになった源流としては、2020年に ACM (Association for Computing Machinery) のウェブサイトに掲載された Arvind Narayanan らによる記事「Dark Patterns: Past, Present, and Future」によると、以下の3つがあるとされています。

本書は、こうした源流を踏まえつつ、前提知識として行動経済学など人々が意思決定に至るメカニズムを客観的なデータも交え解説したうえで、どんな組織でもダークパターンを用いたい誘惑に負けてしまう可能性があるという認識に立って、丁寧に個々のダークパターンの解説を展開しています。ダークパターンの予防についても、たとえば KGI から KPI への落とし込みの手前にノーススターメトリック (North Star Metric) を定義する、KPI が独り歩きしないようにカウンターメトリックを設定する、といった具体的な施策を紹介しつつ、あくまで組織の仕組みとして取り組むことの重要性を説いており、実践的と言えるでしょう。また、改善の勘所はユーザーを疑心暗鬼や不安から解放することであるとし、特にライティングの重要性、言い換えるならば、ユーザーに対して誠実に言葉を尽くすことの大切さを一貫して唱えているのも、「UX ライター」を標榜されている著者ならではであり、個人的にキャリアの出自がテクニカルライターだった私自身にとっても、大いに共感できるところです。

なお、本書におけるダークパターンの種類の定義は、以下の通りです。

上記は、Deceptive Design (旧 darkpatterns.org) におけるパターン定義とはだいぶ異なっています。Deceptive Design のサイトでは、上記の * 印で示した9項目 (Sneak into Basket、Hidden Costs、Bait and Switch、Misdirection、Confirmshaming、Disgused Ads、Trick Questions、Roach motel、Forced Continuity) に、Privacy Zuckering、Price Comparison Prevention、Friend Spam という3パターンを加えた、計12パターンが定義されています。Deceptive Design という名称にリニューアルされる前の darkpatterns.org の時代は、上述の箇条書きのようなパターン定義だったのかと思い、Internet Archive で遡って調べてみたりしたのですがどうやらそうではなく、本書におけるダークパターンの種類の定義は、Arunesh Mathur らによる2019年の論文「Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites」をベースにしているようです。7つの大分類は同じで、下位のパターン名が若干アレンジされている (Deceptive Design におけるパターン定義の用語に一部差し替えられている) という具合で、上述の箇条書きのパターン定義は、本書オリジナルのものと言えます。Deceptive Design のサイトよりも網羅性のあるパターン定義でよいと思いますが、このあたり、具体的な解説があるとよかったかな、と思いました。