Lainey Feingold さん特別講演 (A11y Tokyo Meetup)

2025年4月17日に開催された A11y Tokyo Meetup で、Lainey Feingold (レイニー・ファインゴールド) さんによる特別講演「The Digital Accessibility Legal Landscape in U.S.」がありました。

Lainey さんはデジタルアクセシビリティ分野の弁護士の第一人者で、ご自身のウェブサイト「Law Office of Lainey Feingold」 (lflegal.com) でもアクセシビリティと法律に関する情報を精力的に発信されています (私自身、RSS でいつも記事を拝読しています)。ところでこの Lainey さんのウェブサイト、ヘッダーのイメージにイルカがあしらわれているのが目につきます。やり手の弁護士はサメにたとえられるそうですが、Lainey さんの弁護士としてのスタンスは、訴訟で勝ちを得ることよりも、訴訟に至る前に互いに協調して紛争を解決しようというもので (Lainey さんはこれを「structured negotiation」と呼んでいます)、その象徴としてのイルカのようです。

この記事は、Lainey さんの講演に関するノートです。私的な備忘録で、プレゼンテーション内容を網羅したものではないことをおことわりしておきます。

デジタルアクセシビリティに取り組む意義

米国におけるデジタルアクセシビリティ関連の法規制をめぐる動き

総じて言うと、連邦政府による反 DEIA の介入はあるものの、州やグローバルの規制など連邦政府の影響が及ばない領域があったり、また連邦政府の動きに対抗するする力学も芽生えていることなどを引き合いに、あきらめないことの重要性を Lainey さんは訴えていました。講演の中で「Don't obey in advance.」という言葉を引いていたのが特に印象的です。これは歴史学者ティモシー・スナイダー (Timothy Snyder) 氏の著書『On Tyranny』からの引用で、「権威主義的な圧力に対して、抗う前に屈服するな」というメッセージです。ちなみに同書の日本語訳『暴政:20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン』では、「忖度による服従はするな」と訳されています。

法的リスクを回避するには

Lainey さんは講演の中で、訴訟を回避して協調的に紛争を解決する「構造的な」交渉手法 (structured negotiation) についても言及されていました (参考 : Structured Negotiation 2nd Edition – Law Office of Lainey Feingold)。スポーツ、金融、医療など様々な分野で成功例があるそうです。

希望を胸に前進する

Lainey さんは講演の冒頭、(特に米国内における) アクセシビリティ関係者のムードとして、 恐怖、不安、苦痛、苛立ち、希望の欠如、無力感 ... があるとした一方で、アクセシビリティコミュニティがもたらす希望も確かにある ("Our biggest source of hope is our community")、と述べられていました。

そして次の言葉を講演の結びとされていたのが印象的でした。

Being in accessibility can be soul-crushing.
It's positive things and success stories of our work that keep us going.

(アクセシビリティに取り組んでいると心が折れそうになることもあるかもしれない。
それでも、ポジティブなことや成功体験を重ねることによって、私達は前進し続けることができる。)

Lucy Greco, Web accessibility evangelist

質疑応答

今回の講演では、事前に参加者からの質問を受け付けていただき、プレゼンテーションの後に Lainey さんにお答えをいただくという機会がありました。

私からもいくつか質問をさせていだだきましたが、特に下記の質問に対して ;

法律で要求されていると、組織は「法律で求められているから、やっているだけだ」と考えるようになり、アクセシビリティをチェックリスト作業にしてしまうことがあります。
このような傾向は、アメリカや欧州でも見られますか?
法や人権の観点から、この傾向を改めるアドバイスは?

Lainey さんからは「残念ながらそういうマインドは多くの企業側にあるのは事実。安易な解決 (アクセシビリティオーバーレイなど) に飛びつかないこと。」ということと、「人権の観点では、障害当事者をインクルードすることがやはり重要である。」というアドバイスをいただけたのが有益でした。

講演に先立って

今回の講演に先立ち、Lainey さんと個人的にお話をさせていただく機会に恵まれました (たまたま会場入りするタイミングでご一緒できました)。興味深い話を色々できたのですが、そのときの話題をいくつか、共有します。


以上です。今回、Lainey さんの講演を直に聴けるという貴重な機会を作ってくださった A11y Tokyo Meetup 事務局の皆さん、またプライベートなご旅行であるにもかかわらず日本のアクセシビリティコミュニティのためにお時間を割いてくださった Lainey さんに、心から感謝です。