日本における支援技術の利用状況 (2024年6月〜7月実施の JBICT.Net 調査)
日本国内の視覚障害者の ICT 利用環境向上を目的に活動している日本視覚障害者 ICT ネットワーク (JBICT.Net) が、恒例の「支援技術利用状況調査」(第4回) を実施し、その調査結果の報告書を公開しています。
本調査は、2024年6月から7月にかけて実施されたアンケート調査 (ウェブフォームおよび電子メールで回答を収集) で、視覚障害を持つインターネット利用者が、実際にどのようなデバイス、OS、ブラウザなどを普段用いていて、それらがどのような支援技術 (スクリーンリーダー、点字ディスプレイ、画面拡大ツール、配色変更) と組み合わされて活用されているかを、定量的にまとめたものです。
グローバルな類似の調査としては WebAIM の「Screen Reader User Survey」がよく知られていますが、本調査は日本の状況に焦点を当てた定量調査であり、日本国内向けウェブサイトのアクセシビリティ向上に取り組むにあたっての、ユーザー理解のための貴重な基礎資料として見ることができるでしょう。
詳細はぜひ、本調査の報告書を読んでいただきたいと思います。全体的な傾向としては前回調査から大きく変わっている印象はありませんが、ここでは改めて、本調査報告の中で私自身が特に押さえておきたいと思ったことについて、以下、メモしておきます。
視覚障害者が利用するユーザーエージェントの概況
本調査をもとに、日本の視覚障害者が利用するデバイス、プラットフォーム、ブラウザ、支援技術の概況 (利用する人の割合) をごく大雑把に捉えるならば、たとえば以下のように言えるでしょう。
- 全盲、ロービジョンともに、ほとんどの人 (いずれも9割強) がパソコンとスマートフォンを併用している。また、全盲、ロービジョンともに大半の人 (いずれも6割強) は「パソコンとスマートフォンを同じ程度よく使う」と回答している。
- パソコンで利用しているプラットフォーム (複数選択可) としては、Windows が圧倒的に多い (全盲で99%、ロービジョンで94%)。macOS は平均で1割ほど (全盲で8%、ロービジョンで15%)、ChromeOS は全盲、ロービジョンともに2%ほどである。
- パソコンで使うことがある支援技術 (複数選択可) としては、PC-Talker がもっとも多い (74.64%) が、NVDA とナレーターの割合も増加している (それぞれ、57.89%、49.76%)。
- 全盲、ロービジョンともに、大半の人が Windows で複数のスクリーンリーダーを利用している。「パソコンで主に利用している支援技術」という設問も併せて見ると、PC-Talker をメインに、NVDA やナレーターをサブにしている人が多い印象を受ける。
- パソコンで利用しているウェブブラウザ (複数選択可) としては、Google Chrome がもっとも多く (68.42%)、次いで Edge (53.59%) と NetReader (49.28%) が拮抗している。前回調査と比べて、Edge と NetReader の順位が入れ替わっている。
- スマートフォンおよびタブレットの利用 (複数選択可) は、 iPhone が圧倒的に多く (91.90%)、次いで iPad (28.57%)、Android がタブレットも合わせても26.67%にとどまる。なお、iPad はロービジョンの6割が利用していると回答している。これに伴い、スマートフォンおよびタブレットで用いられている支援技術の利用者数の割合は、次のようになっている。
- iOS VoiceOver ... 90.95%
- iOS のズーム機能 (いわゆる3本指ズーム) や配色の変更設定 ... 16.67%
- TalkBack など、Android のスクリーンリーダー ... 18.57%
- Android の拡大機能や配色の変更設定 ... 5.24%
文字認識および画像認識の利用
今回の調査では新たに「文字認識、画像認識機能の利用」という設問が加わっています。印刷物や写真、画像ファイルなどの内容を確認するために、認識機能を使うことがあるかどうかを尋ねるものですが、ほとんどの人 (回答者の9割) が少なくとも月に1回は利用する (うち、ほぼ毎日利用する人、週に数回程度利用する人がそれぞれ3割強)、という結果になっています。
認識対象としては、ウェブや SNS 上の画像、食品などの製品パッケージの記載、書籍、新聞、郵便物、看板や掲示物、飲食店のメニュー、自分または他人が撮影した写真、服や雑貨の状態、薬、信号機、など生活上の様々な場面にわたりますが、それだけに認識に用いるデバイス (複数選択可) としては、携帯が容易なスマートフォンやタブレットがほとんどの人に選ばれています (パソコンが47.12%ナノに対して、マートフォンやタブレットは91.83%)。めがね型などのウェアラブル機器も1割近くの人に選べれており、今後の動向が気になります。
なお、文字認識や画像認識に現在利用しているツール (複数選択可) としては、Seeing AI、Envision AI、Be My Eyes がメジャーである印象です (それぞれ63.87%、55.50%、51.31%)。
以上です。本調査は日本における視覚障害者のウェブ利用の概況を知ることができる貴重なソースであり、今後も引き続き注目してゆきたいと思います。