XR Accessibility User Requirements (W3C Working Group Note)
W3C が、XR のアクセシビリティについて、ユーザー要求 (user requirements) をまとめ、ドキュメントを公開しています。
- XR Accessibility User Requirements - W3C Working Group Note
- この記事で扱う2021年8月25日付の Working Group Note のアーカイブ URL は www.w3.org/TR/2021/NOTE-xaur-20210825/ です。
XR とは、VR (virtual reality : 仮想現実)、AR (augmented reality : 拡張現実)、MR (mixed reality : 複合現実) の総称です。本ドキュメントは、こうした没入型環境のインタラクションにおいて、アクセシビリティを担保するにはどうすればよいかを、ユーザー調査をもとに整理したものです。
およそ1年半前、本ドキュメントの First Public Working Draft を紹介する記事を書きましたが、それがこのたび、最終的に Working Group Note としてリリースされた形になります。XR のアクセシビリティを担保するためには、多くの検討すべき課題があります。たとえば、特定の入力モダリティ (音声、キーボード、スイッチ、ジェスチャ、アイトラッキング ... による情報インプット) や出力モダリティ (触覚的、視覚的、聴覚的 ... な情報アウトプット) の使用が困難なユーザーの支援、モーション (体の動きの大きさや精緻さ) および位置取り (立ったり座ったり) に制約があるユーザーの支援、没入型環境におけるコンテキスト把握や認知上の困難に対する支援、などです。
本ドキュメントでは「4. XR User Needs and Requirements」のセクションにて、こうした課題をあまねくカバーする形で、以下のように19の具体的なケースが提示されています。各ケースは、ユーザーニーズ (User Need) と、そのニーズを満たすための要件 (REQ)、という構成でまとめられています。
- Immersive semantics and customization (没入型環境における適切なセマンティクス。堅牢なアフォーダンスを備え、支援技術でも同等な体験を得ることができ、使いやすくカスタマイズ可能であること。)
- Motion agnostic interactions (特定の身体動作に依存しないインタラクション。)
- Immersive personalisation (認知/学習障害を持つユーザーの負荷を軽減するための、没入型環境のパーソナライズ。)
- Interaction and target customization (身体動作が困難やユーザーや視野に制約のあるユーザーのための、インタラクションにおけるターゲットのサイズや操作手順のカスタマイズ。)
- Voice commands (身体動作が困難なユーザーのための、音声コマンドの利用。)
- Color changes (色覚特性を持つユーザーのための、表示色の変更。)
- Magnification context and resetting (画面拡大表示を利用するユーザーによる、コンテキスト把握と必要に応じてのリセット。)
- Critical messaging and alerts (画面拡大表示を利用するユーザーによる、フォーカスを維持したままでの重要メッセージや警告の把握。)
- Gestural interfaces and interactions (視覚障害者のための、支援技術と併用できるジェスチャーによるインターフェース利用。)
- Signing videos and text description transformation (聴覚障害者で、書き言葉よりも手話を好むユーザーのための、手話動画の提供。)
- Safe harbour controls (認知障害などで、情報に圧倒されたユーザーのための、「安全地帯」へのナビゲート。)
- Immersive time limits (没入型環境の、ウェルビーイングを損なうほど過度な長時間利用の防止。)
- Orientation and navigation (画面拡大表示を利用するユーザー、認知/学習障害を持つユーザー、空間認識障害を持つユーザーが、フォーカスを見失ったり道に迷ったりするのを防ぐための、表示の調整、パーソナライズ、ランドマークの提供。)
- Second screen devices (視聴覚障害を持つユーザーのための、点字ディスプレイなど他の情報入出力デバイスとの連携。)
- Interaction speed (運動障害や認知/学習障害を持つユーザーのための、インタラクションの速度やタイミングの調整、停止メカニズムの提供。)
- Avoiding sickness triggers (前庭障害、てんかん、光過敏症を持つユーザーの、発作の防止。)
- Spatial audio tracks and alternatives (聴覚障害を持つユーザーの音場把握を支援するための、音声コンテンツおよびテキストによる説明の提供。)
- Spatial orientation: Mono audio option (空間認識障害、認知障害、片耳難聴を持つユーザーのための、モノラル音声オプションの提供。)
- Captioning, Subtitling and Text: Support and customization (カスタマイズ可能な形での、コンテキストに合わせてリフローされるキャプション、字幕、その他テキストの提供。)
上に挙げた各ケースは、今後ますます XR のユーザー体験 (UX) に関する知見が成熟する中でアップデートされてゆく可能性がありますが、本ドキュメントは、現時点における VR、AR、MR に求められるアクセシビリティ要件を理解するのに、コンパクトで俯瞰しやすく参考になるでしょう。XR のコンテンツ開発に関わる方には、ぜひ一度、本ドキュメントの原文をお読みいただき、インクルーシブな XR の具現化に向けて模索いただけたらと思います。