デジタル庁「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」
デジタル庁が、「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」という小冊子 (PDF) を公開しました。下記のデジタル庁サイトより入手することができます。2022年12月5日にベータ版として一般公開され、本記事の執筆時点では、2022年12月12日版が最新版です。
「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」をミッションに掲げるデジタル庁が、ウェブアクセシビリティに初めて取り組む行政官や事業者向けに、ウェブアクセシビリティの考えかたや取り組みかたについてゼロから学べるように刊行した、初心者向けのガイドブックです。
政府など公共機関のウェブサイトに関わる方を主たる読者として想定していますが、民間事業者にも参考にしてもらえたら、という意図もあるようで、デジタル庁ウェブサイトで公開することにしたそうです。
今後は民間セクターにおいても、法改正によって法的な根拠を伴ってウェブアクセシビリティを向上できるようになります。今までは自助努力でウェブアクセシビリティの向上や改善を行っていた方々も、より強力に推進できます。そのため、多くの方に読んでもらえるようにデジタル庁のウェブサイトで公開することにしました。
出典 「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」P.5「1.1 背景と課題」
内容的には、技術者でない方 (デザイナーや行政人材) も理解できるように、専門用語をなるべく排した平易なテキストでまとめられていること、また理解の助けとして図解が多く盛り込まれていること、が特長と言えます。本ガイドブックの目次構成は、以下の通りです。
- 1章 : ガイドブックの目的
- 2章 : ウェブアクセシビリティの基礎 (ウェブアクセシビリティとは何か、障害者のウェブ利用の概略、WCAG と JIS X8341-3 の概略、など。)
- 3章 : ウェブアクセシビリティで達成すべきこと (具体的に求められるアクセシビリティ要件について、WCAG 2.0 / JIS X8341-3:2016 との関連も含めて解説。)
- 4章 : ウェブアクセシビリティの実践プロセス (サイト開発、情報発信、それぞれにおけるプロセスや留意事項の解説。)
- 5章 : こんな時は (FAQ、問い合わせ先)
- 6章 : 付録 (改訂履歴、参考リンク集)
肝となるのは3章かと思いますが、具体的なアクセシビリティ要件 (例 : 「自動再生はさせない」「画像が指し示している情報を代替テキストとして付与する」「キーボード操作だけで、サービスのすべての機能にアクセスすることができるようにする」... など) がピックアップされている中、WCAG 2.0 (JIS X8341-3:2016) のレベル A および AA の達成基準が概ねひととおり関連づけられていて、平易かつコンパクトながら、うまくまとまっているなという印象です。一部の達成基準 (下記) は、ピックアップされているアクセシビリティ要件との関連付けがありませんが、これは本ガイドブック自体が達成基準の網羅性の担保を意図していないから、と言えそうです。
- 1.2.1 音声のみ及び映像のみ
- 1.4.5 文字画像
- 2.4.1 ブロックスキップ
- 2.4.5 複数の手段
- 3.1.1 ページの言語
- 3.1.2 一部分の言語
ひととおり通読してみた感想としては、全体的にとてもわかりやすく、優れた入門書となっているものの、表記が熟れていないところが散見されるな、というのが正直な印象です。本ガイドブックの対象読者 (アクセシビリティの初心者) が、ガイドブックを文字通りに読んだ場合に誤解をしてしまいそうな箇所や、ガイドブック内で用語の一貫性が崩れているがためにスムーズに理解しにくい箇所などが、少なからず見受けられたため、別途、デジタル庁にはフィードバックをさせていただきました。他の方々からも諸々フィードバックが届いているようなので、それらも含め、今後、本ガイドブックのアップデートがなされるかと思います。います。
2023年4月17日追記 : 別途、デジタル庁に具体的な改善提案をフィードバックさせていただき、改訂版がリリースされました。詳しくは、記事『デジタル庁「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」改訂版』をご参照ください。
デジタル庁が、公共機関 (および民間事業者) のウェブサイト運用者に向けて、このような入門的な位置づけのガイドブックを公開する意義はとても大きいと言えるでしょう。本ガイドブックが広く読まれ、理解され、公共機関の組織カルチャーとしてアクセシビリティの改善が当然となってゆくことを、期待したいと思います。