日本における支援技術の利用状況 (2023年5月〜6月実施の JBICT.Net 調査)
日本国内の視覚障害者の ICT 利用環境向上を目的に活動している日本視覚障害者 ICT ネットワーク (JBICT.Net) が、このたび第3回目となる「支援技術利用状況調査」を実施し、その調査結果の報告書を公開しました。
本調査は、2023年5月から6月にかけて実施されたアンケート調査 (ウェブフォームおよび電子メールで回答を収集) で、視覚障害を持つインターネット利用者が、実際にどのようなデバイス、OS、ブラウザ、メーラーを普段用いていて、それらがどのような支援技術 (スクリーンリーダー、点字ディスプレイ、画面拡大ツール、配色変更) と組み合わされて活用されているかを、定量的にまとめたものです。
グローバルな類似の調査としては WebAIM の「Screen Reader User Survey」がよく知られていますが、本調査は日本の状況に焦点を当てた定量調査であり、日本国内向けウェブサイトのアクセシビリティ向上に取り組むにあたっての、ユーザー理解のための貴重な基礎資料として見ることができるでしょう。
詳細はぜひ、本調査の報告書を精読いただきたいと思います。全体的な傾向としては前回調査から大きく変わっている印象はありませんが、ここでは改めて、本調査報告の中で私自身が特に押さえておきたいと思ったことについて、以下、メモしておきます。
視覚障害者が利用するユーザーエージェントの概況
本調査をもとに、日本の視覚障害者が利用するデバイス、プラットフォーム、ブラウザ、支援技術の概況 (利用する人の割合) をごく大雑把に捉えるならば、たとえば以下のように言えるでしょう。
- 全盲、ロービジョンともに、パソコンを利用している人とスマートフォンを利用している人はほぼ同数。また、全盲、ロービジョンともに大半 (6割ほど) の人は「パソコンとスマートフォンを同じ程度使う」と回答している。
- パソコンで利用しているプラットフォーム (複数選択可) としては、Windows が圧倒的に多く、ほぼすべての人 (99.5%) が利用している。これに対して macOS や ChromeOS など他のプラットフォームを利用する人はわずかで、合わせても1割程度にとどまる。
- パソコンで使うことがある支援技術 (複数選択可) としては、PC-Talker が圧倒的に多く (83.33%)、NVDA (52.31%)、ナレーター (42.59%) と続く。JAWS を使う人は1割程度にとどまる。
- パソコンで利用しているウェブブラウザ (複数選択可) としては、Google Chrome がもっとも多い (64.81%) ものの、NetReader (58.80%)、Edge (54.17%) が拮抗している印象。なお、ブラウザを1種類だけ利用している人 (回答者の3割ほど) の中では、NetReader の利用が大半を占めている (51.47%)。
- スマートフォンの利用 (複数選択可) は、 iPhone が圧倒的に多い (91%)。Android はタブレットも合わせて2割ほど。これに伴い、スマートフォンで用いられている支援技術の利用者数の割合は、次のようになっている。
- iOS VoiceOver ... 89.57%
- iOS のズーム機能 (いわゆる3本指ズーム) や配色の変更設定 ... 14.22%
- TalkBack など、Android のスクリーンリーダー ... 15.17%
- Android の拡大機能や配色の変更設定 ... 4.27%
- 点字ディスプレイは、パソコンにおいては1/4の人 (25.93%) が利用しており、全盲に限って見ると1/3の人 (32.28%) が利用している。なおスマートフォンにおいては1割程度にとどまり、点字ディスプレイは PC と併用するシーンが比較的多そうであることがうかがえる。
視覚障害者のパソコンおよびスマートフォンの用途
今回の調査では新たに「パソコン、スマートフォンの用途」という設問が加わっています。データとしてはとても細かいものになっていますが、下記に引用したサマリーを見ると、視覚障害者のパソコンとスマートフォンの使い分けが垣間見ることができて、興味深いです。
パソコンの用途としてもスマートフォンの用途としても50パーセント以上の人が選択した項目は、以下の通りです。
- メールの送受信
- Googleやヤフーなど、検索サービスを用いたWeb検索
- ニュース、新聞の閲覧
- ブログ・SNSの閲覧
- 乗り換え検索
- ショッピング
- Zoom、ClubHouseなどを用いた、オンラインのコミュニケーション、会議やセミナーへの参加
- 動画視聴
- 音楽再生
パソコンの用途として選択した人が50パーセント以上だった一方、スマートフォンの用途として選択した人が50パーセント未満だった項目は以下の通りです。
- 文書の作成、編集
- 辞書検索
パソコンの用途として選択した人が50パーセント未満だった一方、スマートフォンの用途として選択した人が50パーセント以上だった項目は以下の通りです。
- 外出時のナビゲーション(Google Map、BlindSquare、マイルートなど)
- 金融サービスの口座の状況などの確認
- キャッシュレス決済、管理
- スケジュール管理
- 時刻や日付の確認
- アラーム、ストップウォッチ、タイマーの利用
- 写真の撮影と管理
- 印刷物などを対象とした文字認識
- 文字によるコミュニケーション(LINE、Facebook Messenger、Slackなど)
- ラジオ番組の聴取(Radikoなどのサービスを利用する場合も含む)
視覚障害者にとって便利になった/不便になったもの
今回の調査ではまた、「ここ数年で特に便利になったと感じるもの」「ここ数年で特に不便になったと感じるもの」という設問 (自由記述) も追加されています。
便利になったものとしては「文字認識」「歩行者ナビゲーションなどの歩行支援」を挙げる人が多く、「キャッシュレス決済、金融サービス利用」「音声やビデオ通話を用いたコミュニケーション」が続く格好になっています。割合としては比較的少ないものの視覚障害者ならではの視点で「信号機の色の判別」「Be My Eyes などによる視覚支援」も挙げられており、なるほどと思います。
一方、不便になったものとしては「CAPTCHA の増加」「視覚障害者が操作することが難しい方式の eKYC の増加」が目立つほか、基本的なアクセシビリティが低いアプリケーションやウェブサイトがまだまだ多くある様子がうかがえる結果となっています。
以上です。当サイトではかねてから本調査についての記事を書かせていただいていますが (下記「関連記事」参照)、日本における視覚障害者のウェブ利用の概況を知る貴重な情報源となっており、今後も引き続き注目してゆきたいと思います。