日本における支援技術の利用状況 (2022年4月〜5月実施の JBICT.Net 調査)

日本国内の視覚障害者の ICT 利用環境向上を目的に活動している日本視覚障害者 ICT ネットワーク (JBICT.Net) が、このたび第2回目となる「支援技術利用状況調査」を実施し、その調査結果の報告書を公開しました。

本調査は、2022年4月から5月にかけて実施されたアンケート調査 (ウェブフォームおよび電子メールで回答を収集) で、視覚障害を持つインターネット利用者が、実際にどのようなデバイス、OS、ブラウザ、メーラーを普段用いていて、それらがどのような支援技術 (スクリーンリーダー、点字ディスプレイ、画面拡大ツール、配色変更) と組み合わされて活用されているかを、定量的にまとめたものです。

グローバルな類似の調査としては WebAIM の「Screen Reader User Survey」がよく知られていますが、本調査は日本の状況に焦点を当てた定量調査であり、日本国内向けウェブサイトのアクセシビリティ向上に取り組むにあたっての、ユーザー理解のための貴重な基礎資料として見ることができるでしょう。

詳細はぜひ、本調査の報告書を精読いただきたいですが、さしあたりここでは、本調査報告の中で私自身が特に興味深く感じたことについて、ピックアップしたいと思います。

パソコンにおける支援技術の利用

パソコンの利用者 (有効回答数255名中247名) に対して、パソコンで使用する支援技術を聞いた結果として、やはり日本ならではの特徴として、PC-Talker が圧倒的に多いことが今回も確認できました。主なスクリーンリーダーと比較した数値は、以下の通りです。

スクリーンリーダーの種類パソコンで「使うことがある」と回答 (設問 D-2)パソコンで「主に利用している」と回答 (設問 D-3)
PC-Talker203 (82.19%)159 (64.37%)
NVDA137 (55.47%)49 (19.84%)
ナレーター103 (41.70%)3 (1.21%)
JAWS43 (17.41%)17 (6.88%)
macOS VoiceOver18 (7.29%)4 (1.62%)
ChromeVox13 (5.26%)0 (0.00%)

ちなみに、同じ回答者 (パソコンの利用者 247名) に対して、パソコンでウェブ閲覧をする際にもっともよく利用するブラウザを聞いた結果としては、NetReader よりも Chrome がわずかに多い、という結果でした (前回調査では NetReader がトップ)。

ブラウザの種類パソコンでウェブ閲覧するときに「もっともよく使う」と回答 (設問 D-6)
Google Chrome102 (41.30%)
NetReader98 (39.68%)
Microsoft Edge23 (9.31%)
Mozilla Firefox11 (4.45%)
Internet Explorer7 (2.83%)
macOS Safari5 (2.02%)

本調査中の分析として、PC-Talker ユーザーの大半 (59.38%) は NetReader を併用しており、NVDA ユーザーの大半 (62.22%) は Chrome を併用している、という結果が出ていることを踏まえると、今後、もし Chrome の伸長がさらに顕著になった場合、はたして PC-Talker と NVDA の比率が拮抗してゆく形になるのか、気になるところです。

スマートフォンにおける支援技術の利用

スマートフォンの利用者 (有効回答数255名中230名) に対して、スマートフォンで使用する支援技術を聞いた結果として、Android よりも iOS のユーザーが圧倒的に多いことが今回も確認できました。海外の調査 (WebAIM の「Screen Reader User Survey」) でも iOS の優位性は突出しており、支援技術としての成熟度や使いやすさという点で、iOS は視覚障害者に強く支持されていると見ることができそうです。

支援技術の種類スマートフォンで「利用することがある」と回答 (設問 M-2)スマートフォンで「主に利用している」と回答 (設問 M-3)
iOS VoiceOver211 (91.74%)195 (84.78%)
iOSのズーム機能や配色の変更設定25 (10.87%)9 (3.91%)
TalkBackなど、Androidのスクリーン・リーダー44 (19.13%)12 (5.22%)
Androidの拡大機能や配色の変更設定7 (3.04%)3 (1.30%)

なお、スクリーンリーダー (VoiceOver や TalkBack など) と比較して「ズーム (拡大) 機能や配色の変更設定」の数値が著しく低いのは、本調査の有効回答数の8割強が全盲だから、という背景もあるかと思われます。

ウェブ閲覧に関する設問 (スキップリンク、音声読み上げボタン、文字サイズ変更ボタン、アクセシビリティオーバーレイ)

今回調査より、スマートウォッチの利用に関する設問と、ウェブ閲覧に関する設問が追加されました。ウェブ閲覧に関する設問としては、ウェブコンテンツ側に付加されることが多いアクセシビリティ関連機能 (スキップリンク、音声読み上げ機能、文字サイズ変更機能、アクセシビリティオーバーレイ) について、それらがどの程度使われているかを問うものとなっています。

スキップリンク

「使わない」と回答した人が約2割、「よく使う」「ときどき使う」を合わせると約8割、という結果でした。意外と「使う」人が多数いる印象ですが、スキップリンク機能が「あれば使う」程度なのか、あるいはスキップリンク機能が「ないと困る」のか、さらに深掘りして見てみたいところです。

音声読み上げボタン

7割強の人が「使わない」という結果でした。スクリーンリーダーを利用していれば、ウェブコンテンツ上の音声読み上げボタンを使わずに、スクリーンリーダーで音声読み上げをするでしょうから、この結果は妥当かなという気がします。

文字サイズ変更ボタン

9割の人が「使わない」という結果ですが、(本調査の有効回答数の8割強が全盲であることを差し引いて) ロービジョンの人だけを対象にして見ると、「使う」「使わない」が半々に分かれる結果でした。基本的には OS やブラウザに標準装備されているズーム (拡大表示) 機能でカバーできるかと思いますが、敢えてウェブコンテンツ側に実装された文字サイズ変更ボタンを使う理由があるのか、さらに深掘りして見てみたいところです。

アクセシビリティーオーバーレイ

大半がアクセシビリティオーバーレイについて「今まで聞いたことがない」と回答していますが、逆に半数近くが、少なくとも「どんなものか知っている」「名前は聞いたことはある」と回答しており、ユーザーに対するアクセシビリティーオーバーレイの露出機会は着実に増えているのかな、という印象です。

ちなみに、アクセシビリティーオーバーレイを実際に使っているという回答はごくわずか (全盲で1.47%、ロービジョンで6.82%) という結果でした。アクセシビリティーオーバーレイが実装されているサイト以外のウェブコンテンツやアプリケーションを利用する際に、既にユーザー個々人が任意でチョイスした支援技術を用いていることを考えると、この結果は妥当かなという気がします。


以上です。

以前、当サイトで第1回目の調査について記事にしましたが、今回そのちょうど1年後に第2回目が実施されたということで、来年度以降の継続的な調査も楽しみにしたいと思います。

なお、本調査を実施した日本視覚障害者 ICT ネットワーク (JBICT.Net) の主催で、本調査に関する報告会が2022年10月27日に開催されます。ご興味ある方は、ぜひ、ご参加いただければと思います。