JIS X834-3:2010 を理解する (その2) : ドキュメント体系と読み込むうえでのポイント
2010年8月に改正公示された Web アクセシビリティの JIS 規格「JIS-X8341-3:2010 (高齢者・障害者等配慮設計指針 - 情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス - 第3部:ウェブコンテンツ)」について、前回「その1」では、JIS X8341-3:2004 が改正された経緯や、改正された JIS X8341-3:2010 の特長、さらに JIS X8341-3:2010 が抱えている課題について、ご紹介しました。
今回は「その2」として、JIS X8341-3:2010 を実際に読み込むにあたって知っておいていただきたい、ドキュメント体系や規格票の概要、読み込むうえでのポイントについて、ご紹介します。
JIS X8341-3:2010 のドキュメント体系
JIS X8341-3:2010 は、その規格票だけでは「具体的にどうすればよいのか」まで理解することはできないので、関連文書と一緒に読み込む必要があります。関連文書を含めたドキュメント体系は、以下のようになっています。
- JIS X8341-3:2010 本文 (規格票)
- WCAG 2.0 解説書 (Understanding WCAG 2.0)
- WCAG 2.0 実装方法集 (Techniques for WCAG 2.0)
上記を見ると、JIS X8341-3:2010 の関連文書が、WCAG 2.0 (W3C が勧告している Web Content Accessibility Guidelines) のドキュメントの流用であることにお気づきかと思います (このうち、「WCAG 2.0 解説書」の日本語版と、「WCAG 2.0 実装方法集」の日本語版は、WAIC (ウェブアクセシビリティ基盤委員会) によって和訳されています)。これは、JIS X8341-3:2010 規格票で規定されているアクセシビリティ達成基準の内容が、WCAG 2.0 と同じだからです。
JIS X8341-3:2010 規格票の目次構成
では次に、実際に、JIS X8341-3:2010 規格票がどういう内容になっているのかを、簡単に見ていこうと思います (詳しくは、実際に熟読していただくしかありませんので、ぜひ、財団法人 日本規格協会のサイトにて、規格票をご購入いただければと思います)。
下記は、JIS-X8341-3:2010 規格票の目次構成です。
- 1. 適用範囲
- 2. 引用規格
- 3. 用語及び定義
- 4. ウェブコンテンツのアクセシビリティ達成等級
- 5. 一般的原則
- 6. ウェブアクセシビリティの確保・向上に関する要件
- 7. ウェブコンテンツに関する要件
- 8. 試験方法
- 付属書A (参考) この規格を満たすウェブコンテンツ技術及びその実装方法の選び方
- 付属書B (参考) WCAG 2.0 との整合性
- 付属書C (参考) JIS X8341-3:2004 と JIS X8341-3:2010 との比較
- 付属書D (参考) 参考文献
このうち、特に目を通しておきたいのは、箇条7 (ウェブコンテンツに関する要件) と、箇条8 (試験方法) になります。
「7. ウェブコンテンツに関する要件」を読むうえでのポイント
具体的なアクセシビリティ規定 (原則、ガイドライン、達成基準) が記述されている、JIS X8341-3:2010 におけるメインのセクションです。
内容的には、WCAG 2.0 と一致しています。JIS X8341-3:2010 の各箇条番号の先頭にある「7」を除けば、WCAG 2.0 の規定する「原則」「ガイドライン」「達成基準」の番号と一致します。
WCAG 2.0 の関連文書 (「WCAG 2.0 解説書」および「WCAG 2.0 実装方法集」) と併せて読む必要がありますが、その際は「WCAG 2.0 解説書」に記されているセクション番号の冒頭に「7」をつけた番号が、すなわち JIS X8341-3:2010 の箇条番号になりますので、それを手がかりに、読み解いてみましょう。達成基準の意図、ユーザーのメリット、達成事例、実装方法、不適合事例、といった点に着目して読むとよいと思います。
「8. 試験方法」を読むうえでのポイント
試験方法に関する記述は WCAG 2.0 には無いものですが、JIS 規格と照らし合わせてどの程度準拠しているかを明確にするためには、必要不可欠なルールとなります。
WAIC (ウェブアクセシビリティ基盤委員会) のサイトに「試験実施ガイドライン」が公開されているので併せて参照するとよいでしょう。
試験方法について理解し、実施するポイントとしては、以下の通りです。
- 試験する単位の決定 (特定の「ウェブページ単位」で試験を実施するのか?「ウェブページ一式 (すなわち、ウェブサイト全体) 単位」で試験を実施するのか?)
- 「ウェブページ一式単位」で試験する場合の、対象の決定 (サイトを構成するすべてのページで試験を実施するのか?試験するページをランダムで選定するのか?ランダムでない任意の方法で試験するページを選定するのか?)
- 実装チェックリストの作成
- 達成基準チェックリストの作成
なお、試験の結果、「合格の度合い」をどう表現するかについては、JIS の規定によって以下のように定められています。
- 適合
- 準拠
- 配慮
「適合」を宣言するには、JIS Q 1000 に則った厳密な試験プロセスを経る必要があり、非現実的と言えます。その意味では、「準拠」を目指すのが現実的と言えるでしょう (JIS X8341-3:2010 の箇条8に記載された方法で達成基準を満たしていることが言えれば、「準拠」となります)。表現としては「当サイトは、達成基準 A に準拠しています」といった具合に宣言することができます。
達成基準の考えかた
箇条7 (ウェブコンテンツの要件) を見ると、各達成基準に対して「A (シングルA)」「AA (ダブルA)」「AAA (トリプルA)」という3つのレベルが設けられています。実現の難易度が高い (その分、より幅広いユーザーにとってアクセシブルなサイトにすることができる) 「AAA」を目指すことが良いことだ、と思って頑張ってしまうかもしれませんが、実際には、達成基準「AAA」を完全に満たすことは推奨されていません (規格票の「4. ウェブコンテンツのアクセシビリティ達成等級」でもその旨、明記されています)。すべての「AAA」を実現するのは非現実的ですし、仮にすべての「AAA」を実現しようとすると矛盾が出たりするからです。 現実的な対応としては、下記のようなスタンスを取るのがよいのではないかと思います。
- 少なくとも達成基準「A」はすべて満たす。
- サイトをリニューアルする際には、「AA」を満たすことを目指す。
- アクセシビリティ重視の姿勢を示すなら、「AA」を満たすことを目指す。
- 一部、可能であれば、「AAA」を満たす事項があるとよい。
以上、2回にわたって、JIS X8341-3:2010 を理解するためのポイントについてご紹介して参りました。
内容的には難しく感じるかもしれませんが、一貫性のある、よく練られた規格だと思いますし、関連文書と併せて読むことで具体的な実装に関する理解も深まりますので、ぜひこの JIS X8341-3:2010 を、Web アクセシビリティ向上のための基礎として位置づけ、サイト制作に活用していただければ...と思います。