別ウィンドウを開くことの是非 (その2)

2007年5月に「別ウィンドウを開くことの是非」という記事を書きました。リンクを別ウィンドウで開くべきではない...という主旨の記事ですが、その理由として、以下の問題を挙げました。

  • 初心者ユーザーやシニアユーザーは、別ウィンドウで開いたことに気づかないことが多い。特にブラウザを最大化表示している場合、ウィンドウが完全に重なった状態 (元ページが完全に隠れた状態) になってしまい、かつ、前面に出ている (別ウィンドウとして表示された) ブラウザ画面では [戻る] ボタンがグレーアウトしているので、ユーザーは「前のページに戻れない」と戸惑ってしまう。
  • 視覚などの障害や手指の怪我などでマウスが使えない (キーボードを使って操作する) 場合、別ウィンドウとして開いたページから元ページに戻ろうとすると、結構面倒である ([Alt] + [Tab] キーを必要な回数だけ押して、アクティブにするウィンドウを順番に切り替えるが、ブラウザ以外のアプリケーションが開いている場合はそれらもアクティブにする順番として含まれるので、スムーズにウィンドウが切り替えられなかったり、ユーザーに余計な記憶負荷/認知負荷をかけることにつながる)。

その後のユーザー環境の変化

上記の記事を書いた当時は、PC の画面解像度が低く、ブラウザを最大化表示するケースがよく見られました。このため、リンク先ページが別ウィンドウとして開くと、リンク元ページの上に完全に重なることがしばしばでした。

その後、PC の画面解像度は飛躍的に高くなりました。また、いわゆるタブブラウザが「当たり前」になってきました (<a target="_blank"> が指定されている場合、新規ウィンドウではなく新規タブで開くことがほとんどです)。これにより、リンク元ページが (別ウィンドウとして開いた) リンク先ページの下に完全に隠れて認識できない...といったケースはだいぶ減ってきたと言えます。

タブブラウザはアクセシビリティの面でも便利になっています。アクティブなタブを切り替えるキーボード操作 ([Ctrl] + [Tab]) は、ブラウザ内で開いているタブだけが対象となるので、[Alt] + [Tab] キーでアクティブなウィンドウ (ブラウザ以外の起動中アプリも含む) を切り替えるよりも、だいぶ楽になっています。

そして私自身、一個人としてタブブラウザを日常的に使用するようになってからは、むしろ複数ページを並列的に開く使いかたが増えたように思います。

こうした変化を鑑みると、「リンクを別ウィンドウで開かない」ことに固執する必要は、あまり無いのでは...?という意見が聞こえてきそうです。ちなみに HTML5 では、<a> 要素の target 属性は valid であると認められています。

それでも基本は別ウィンドウで開かない

上記のようなユーザー環境の変化はありますが、リンク先ページは別ウィンドウ (別タブ) で開かないことが、やはり基本だと思っています。少なくとも、リンク先が同一サイト内である場合は、原則として同じウィンドウ内で表示を切り替えるべきだと思います。

そのもっとも基本的な理由は、「開くウィンドウ (タブ) が多くなると、それなりにユーザーに認知負荷がかかる」からです。ユーザー自らの任意で別タブを開くのであればまだしも、自分の意思と関係なくタブが開いてしまうと、ユーザーは (本来の目的達成とは別の心理的エネルギーを割いて) 別タブが開いていること (あるいは開くかもしれないこと) を認識せざるを得なくなります。「今クリックしたリンクは別ウィンドウで開いたけど何か意図があるのか?」「ここにあるリンクはクリックすると、別ウィンドウで開くのかな?あるいは同じウィンドウで開くのかな?」といった具合です。

また、意外にありがちなのは、「まわりまわって同じページが別タブで開く」ことです。たとえば「ページ A」からリンク (<a target="_blank">) で「ページ B」を開いたとします。その後のページ遷移を経て再び「ページ A」にリンクすることがあると思いますが、そうなると「ページ A」が2つのタブで同時に開いている状態になります。同一ページが複数のタブで開いているというのは不自然な状況ですし、混乱の元にもなりかねません。

さらに、サイトをモバイル (スマートフォン) で閲覧している場合は、別タブではなく別ウィンドウで開きます (リンク元ページがディスプレイの表示範囲外に押しやられる形です)。PC のタブブラウザがワンクリックでページを切り替えられるのと異なり、モバイル環境ではユーザーに、より「モーダルな状態」を強いることになることも念頭に置いておくとよいでしょう。

個人的にはリンク先を別タブで開くこと (スマートフォンの場合は別ウィンドウで開くこと) に対する抵抗感は無く、むしろ便利だと思うこともあります。Web の利用に長けている皆さんも同様だと思いますが、ただそれは、個々人の使いかたのクセに過ぎないことを理解しておきましょう。別ウィンドウ (別タブ) で開くかどうかは、あくまでも個々人のユーザーごとに任せるべきです。PC の場合はリンク箇所を右クリックすることで、iOS や Android であればリンク箇所を長押しすることで、オプションを選択できます。数回学習すれば簡単に取得できる操作ですから、必要な人が必要に応じてやればよいだけの話です。

別ウィンドウで開くならルールを決める

どうしてもリンクを別ウィンドウで開くのであれば、自身が運営するサイトの中で、どういった類のリンクであれば別ウィンドウで開くのか/同一ウィンドウで開くのか、というルールを明確に決めておくことが求められます。特に複数のスタッフでコンテンツを更新している場合、スタッフの独自判断に委ねてしまうと、なし崩し的に、同一サイトでウィンドウが無秩序に開くという状況を招く恐れがあるからです。

ルールを決める際には、そのルールがユーザーのメンタルモデルに合致していることが重要です。メンタルモデルとの乖離があると、つまりユーザーの想定外にウィンドウが開くと、認知負荷の増大やフラストレーションにつながります。基本的にユーザーは「単にリンクしたいだけ」「目的の情報に辿り着きたいだけ」であることを意識し、本当に別ウィンドウで開かなければならないリンクなのか、慎重に判断したいものです。

許容されるケース

基本原則は (少なくとも同一サイト内へのリンクは) 別ウィンドウで開かないことですが、上述したユーザー環境の変化に伴って、リンクを別ウィンドウを開くことが許容されるケースも現実的にはあると思います。

ひとつは、PDF ファイルや画像ファイルがリンク先になっている場合です。サイト共通のナビゲーションシステム (グローバルナビゲーションやローカルナビゲーションなど) を適用できないから、という理由もありますし、特に PDF の場合、別途アプリケーション (Acrobat Reader) の起動に時間がかかるので、リンク処理中の「空白 (ユーザーが何もできない状態)」を作らないために別ウィンドウで開く、という判断はアリだと思います。

また、サードパーティが公式にリリースしているウィジェットを自身の Web ページに埋め込む場合、そのデフォルトの挙動として、リンク先が別ウィンドウで開いてしまう場合があります (たとえばソーシャルメディアのシェアボタンなど)。提供されるウィジェットのソースコードを改変できず妥協するという現実的な側面もありますが、そのウィジェットが多くのユーザーにとってポピュラーなもので、その挙動がデファクトスタンダードとしてユーザーのメンタルモデルに照らし合わせて問題なければ、許容範囲かな...と思います。

上記以外にも、ユーザー行動の観点から、リンクを別ウィンドウで開くのが妥当と言える場合があるかもしれません。いずれにしても、これらの許容については、できれば実際にユーザビリティテストを実施してみて、問題無いことを確認するのがよいでしょう。