スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2012年5月実施の WebAIM 調査より
Web アクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体「WebAIM (Web Accessibility in Mind)」による、スクリーンリーダー (音声読み上げ支援技術) の利用に関する調査結果が発表されました。英語のレポートになりますが、WebAIM サイトの「Screen Reader User Survey #4 Results」で詳しい調査分析ご覧いただくことができます。
もはや恒例と言ってもよいこの調査ですが、今回はその第4回目ということで、2012年5月に実施されたものです (ご興味のある方は、2009年1月および10月実施の調査、2010年12月実施の調査も併せてご覧ください)。
今回 WebAIM から発表された調査分析を見ると、前回までの調査で見えた傾向が、より一層進んでいる、という印象です。以下は、WebAIM のレポート内容を二次利用する形ではありますが、私自身が興味深く感じた事項を中心に、スクリーンリーダー利用に関するトレンドについてまとめたいと思います。
調査方法の概略
調査は Web アンケート形式で行なわれ、有効回答数は前回よりも多い 1,782人でした。回答者の地域属性は、北米が73.1パーセント、欧州が15.4パーセント、アジアが4.8パーセント、豪州/オセアニアが3.4パーセント、となっています。全回答者に占める障害者 (生活の必要上スクリーンリーダーを使用している人) の割合は、93パーセント、となっています。
スクリーンリーダーの習熟度については、上級者が58パーセント、中級者が37パーセントで、初心者が5パーセント、という内訳です (中級者以上が合わせて95パーセント)。また、インターネットの習熟度については、上級者が64.2パーセント、中級者が33.6パーセント、初心者が2.2パーセント、という内訳です (中級者以上が合わせて98パーセント)。これら習熟度の内訳は前回とほぼ同様で、今回の調査でも、視覚障害者のうち、それなりにインターネットを使いこなしている人が、中心的回答者像であると言えます。
以下、今回の調査で見えてきた主な傾向について、ピックアップしてみましょう。
無料またはローコストのスクリーンリーダーのユーザーが増加している
メインのスクリーンリーダー (調査票では「Primary Screen Reader」と表現されています) は何を使っているかを調べたところ、依然として JAWS がもっとも多い (49.1パーセント) という結果になっていますが、減少傾向が続いています (前回の調査では59.2パーセント)。対照的に、無料のスクリーンリーダーである NVDA (13.7パーセント) が引き続いて増加傾向を示しています (前回の調査では8.6パーセント)。
また、普段よく使うスクリーンリーダー (調査票では「Screen Reader Commonly Used」と表現されています) は、これも JAWS がもっとも多いですが (63.7パーセント)、前回調査の70パーセントに比べると減少しています。その一方で、VoiceOver (前回調査では20.2パーセント → 今回調査では30.7パーセント) と NVDA (前回調査では34.8パーセント → 今回調査では43.0パーセント) が増えています。
なお、回答者の58パーセントは、複数のスクリーンリーダーを使っていると答えており、この傾向は回を重ねるごとに増えています (前回調査は47パーセント)。メインのスクリーンリーダーとしては高機能な有料ツールを PC に入れつつ、無料の (あるいはローコストな) スクリーンリーダーを使用している人が一層増えている、と言えそうです。
「無料またはローコストのスクリーンリーダーは、有料スクリーンリーダーの代用になるか?」という質問に対しては、66.5パーセントの人が「はい」と回答しており、引き続き増加傾向です (前回「はい」と回答した人は60.4パーセント)。特に、NVDA ユーザーとVoiceOver ユーザーのほとんど (それぞれ、95パーセントと98パーセント) は、この問いに対して「はい」と答えており、実際にこれらの無料スクリーンリーダーを使用しているユーザーの満足度はかなり高いと言えます。
JavaScript はほとんどすべてのユーザーが有効にしている
JavaScript の使用状況を質問したところ、98.6パーセントの人が JavaScript を有効にしている、という回答結果が得られました。前回調査とほぼ同様 (98.4パーセント) ですが、ほとんどの視覚障害者ユーザーが JavaScript を有効にしていると改めて言えるでしょう。
モバイル機器で音声読み上げをする人が増加している
「モバイル機器 (mobile phone または mobile handheld device) でスクリーンリーダーを使っているか?」という質問に対しては、71.8パーセント (前回調査では66.7パーセント) が「はい」と回答しており、モバイル機器による音声読み上げは、着実に増えていると言えます。
ちなみに、モバイル環境で使用されているスクリーンリーダーの順位は以下のとおりです。以前は、Nokia の携帯電話がポピュラーだったことから Nuance Talks がもっとも多かったのですが、ここへ来て VoiceOver が大躍進しており、iPhone の普及の勢いを感じます。また、少しずつですが、Android 用のスクリーンリーダーも増えています。
- VoiceOver : 48.7パーセント
- Nuance Talks (Nokia端末を中心に使える) : 17.9パーセント
- Mobile Speak (Symbian OS や Windows Mobileで使える) : 8.5パーセント
- TalkBack for Android : 5.4パーセント
- Mobile Accessibility for Android : 3.8パーセント
- IDEAL : 1.1パーセント
- Orator/Oratio for BlackBerry : 0.7パーセント
- その他 : 5.1パーセント
ナビゲーション (情報探索) においては見出し要素に頼る人が多い
「長いページの中で情報を探す場合、まずはどの機能を使いますか?」という設問に対して、以下のような回答が得られています。
- ページ内の見出し要素を辿って情報を探す : 60.8パーセント
- ページ内を検索する機能を使う : 16.6パーセント
- ページ内のリンク箇所を辿って情報を探す : 13.2パーセント
- ページ内のランドマークを辿って情報を探す : 2.3パーセント
- まずはページを全部、通して読む : 7.0パーセント
ページ内に配置された見出し要素 (<h1>、<h2>、<h3> など) に頼る人の割合は依然として増加傾向にあり、前回の57.2パーセントに比べて、今回は60.8パーセントまで増えています。これと並行して「Web ページで見出し要素を辿って情報を探す場合、見出しレベルはどのくらい便利か?」という設問もありますが、8割以上が便利であると回答しています (「Very useful」が47.4パーセント、「Somewhat useful」が34.7パーセント)。
ちなみに、ランドマーク (WAI-ARIA Landmark) を辿って情報を探す人は、上記では2.3パーセントと、まだまだ少ないですが、別の設問「スクリーンリーダーで、ランドマークを辿って情報を探す頻度はどのくらいか?」に対しては、以下のような回答が得られています。
- ランドマークがあれば、いつでも使う : 24.6パーセント
- しばしば使う : 15.8パーセント
- ときどき使う : 25.5パーセント
- あまり使わない : 18.5パーセント
- 使ったことがない : 15.6パーセント
25パーセントの人が「いつでも使う」と答えており、「しばしば」「ときどき」も加えると、約65パーセントの人が、ランドマークを使うと回答しています。前回調査の 39.5パーセントと比べると、ランドマークはだいぶ認知され使われるようになってきたと言えそうです。
ソーシャルメディアは「それなりにアクセシブル」といったところか?
今回の調査から、ソーシャルメディアのアクセシビリティに関する設問が追加されています。「概して言うと (In general)、あなたにとってソーシャルメディアはどの程度アクセシブルか?」に対して、以下のような回答が得られています。
- とてもアクセシブルである : 7.4パーセント
- ややアクセシブルである : 46.8パーセント
- ややアクセシブルでない : 25パーセント
- とてもアクセシブルでない : 8.7パーセント
- わからない : 12パーセント
「概して言うと (In general)」ということで、「Facebook なのか Twitter なのか (あるいはその他なのか)?」「サイトなのかアプリなのか?」といった区別なく一緒くたにひっくるめての印象ということになるかと思うので、この結果をどう読むかは難しいところですが、「とてもアクセシブル」と「ややアクセシブル」を合わせて50パーセントを超えているというのは、悪くない傾向だと思いました。
アクセシブルでない Flash コンテンツと CAPTCHA には特に困っている
この調査では、「もっとも困っていること」「二番目に困っていること」「三番目に困っていること」をそれぞれ、選択肢 (一般的にアクセシビリティの観点で問題となることが多い事項) の中から選んでもらうという設問があります。得られた回答を、重み付け処理を含めて分析したところ、目立ったのは「アクセシブルでない Flash コンテンツ」と「CAPTCHA」でした。
CAPTCHA に関しては別の設問として「CAPTHCA はどの程度、使いづらいか?」がありますが、これに対して 90パーセント以上の人が「難しい」と回答しているのも印象的です (「Very difficult」が69.1パーセント、「Somewhat difficult」が21.5パーセント)。
いかがでしたでしょうか?今後も、この WebAIM の調査は続くと思われますので (願わくば...)、引き続き、次回以降もウォッチしてゆきたいと思います。