スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2017年10月実施の WebAIM 調査より
ウェブアクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体 WebAIM (Web Accessibility in Mind) による、恒例のスクリーンリーダー利用者調査 (第7回) の結果が発表されました。英語のレポートになりますが、WebAIM サイトの「Screen Reader User Survey #7 Results」で詳細をご覧いただくことができます。
この記事では WebAIM 発表の調査結果の中から、私自身が興味深く感じた事項を中心に、スクリーンリーダー利用に関するトレンドについてまとめたいと思います。
調査の概略
本調査は2017年10月にウェブアンケート形式で行なわれました (前回は2015年7月)。有効回答数は1,792人で、回答者の地域属性は、北米が60.0%、欧州が23.0%、アジアが8.5%、豪州/オセアニアが3.7%、アフリカ/中東が2.4%、南米が2.1%、中米/カリブ海地域が0.3%、となっています。北米の割合が前回調査 (7割) から大きく低下しており (6割)、よりワールドワイドな調査になってきた印象があります。
スクリーンリーダーの習熟度については、上級者が59.5%、中級者が34.6%、初心者が6.0%、という内訳です。また、インターネットの習熟度については、上級者が72.9%、中級者が25.3%、初心者が1.7%、という内訳です。いずれも前回調査に比べて上級者の割合が高くなっていて (その分、中級者の割合が低くなっている)、視覚障害者のスクリーンリーダーを用いたウェブ利用の習熟度が、より一層高まってきたと言えそうです。
なお、回答者のうち障害者 (生活の必要上スクリーンリーダーを使用している人) の占める割合は9割ほどですが、その内訳は、全盲が75.8%、ロービジョンが20.4%、となっていて、前回調査 (全盲が64%、ロービジョンが39%) に比べロービジョンの割合が大きく減った調査となっています。
以下、今回の調査からうかがえる傾向について、気になったものをピックアップします。
PC 用スクリーンリーダーは JAWS、NVDA、VoiceOver (Mac) が「三強」に
PC 用スクリーンリーダーは、JAWS、NVDA、VoiceOver (Mac) が「三強」と言える状況です。「メインのスクリーンリーダー」(Primary Screen Reader) としても、また「普段よく使うスクリーンリーダー」(Screen Readers Commonly Used) としても、これらのスクリーンリーダーのスコアは前回調査を上回っており、特に「メインのスクリーンリーダー」としては、これらのスクリーンリーダーのスコア (それぞれ46.6%、31.9%、11.7%) を合わせると全体の9割を超えています。
前回調査で注目された ZoomText と Window-Eyes は今回大きくスコアを落としていますが、ZoomText は本調査の回答者内訳としてロービジョンの割合が大きく減っていることが、また Window-Eyes は JAWS へのマイグレーションが、影響しているのかもしれません。
なお、Windows 10 に標準搭載されている Narrator ですが、「メインのスクリーンリーダー」として挙げている人はごくわずか (0.3%) ですが、「普段よく使うスクリーンリーダー」として挙げている人はそれなりにいる (21.4%) ので、JAWS や NVDA のサブとして使われるようになりつつある状況なのかな、と言えそうです。
ちなみに、「無料のスクリーンリーダーは有料スクリーンリーダーの代用になるか? / Do you see free or low-cost screen readers (such as NVDA or VoiceOver) as currently being viable alternatives to commercial screen readers?」という設問に対して「はい」と回答した人が着実に増えており (前回調査の73.5%から77.8%に伸長)、無料スクリーンリーダーに対する満足度も、引き続き高まってきていると言えます。
PC 用ブラウザは Firefox が伸長
「メインのスクリーンリーダー」と組み合わせてもっともよく使うブラウザは、今回 Firefox がトップになり (41.0%)、2位の IE11 (23.3%) を大きく引き離したのが印象的です。スクリーンリーダーとブラウザの組み合わせ単位で見ると JAWS + IE がなんとか首位 (24.7%) を保っているものの、それに迫る勢いで NVDA + Firefox (23.6%)、JAWS + Firefox (15.1%) が続いているという状況です。
ちなみに Chrome は、「メインのスクリーンリーダー」と組み合わせて使う人の割合が前回調査に比べ倍増していて (6.3%から11.5%に伸長)、Firefox、IE11 に次いで今回3位に付けています。Edge はまだまだという印象で、わずか0.5%に留まっています。
OS はモバイル系が伸長
前回調査に比べ、Windows は首位を保っているものの、割合としては大きく下がっています (85.3%から72.8%に低下)。その一方で、モバイル系の OS が (全体に占める比率はまだ少ないものの) 大きく割合を伸ばしていて、iOS (前回調査の5.3%から14.2%に伸長)、Android (前回調査の1.3%から3.1%に伸長)、いずれも倍以上の伸びを見せています。
点字出力はモバイルでの使用が増えつつある?
回答者のうち障害者を対象に調査したところ、3人に1人 (33.3%) が、スクリーンリーダー使用時に点字出力を併用しているという結果になりました。前々回調査 (2012年) 以来の設問ですが、そのときの 27.7%から増えているように見受けられます。
WebAIM のコメントによると、より詳細なブレークダウンとして、VoiceOver 利用者の半数近く (48.7%) が点字出力を併用していて、JAWS や NVDA で点字出力を併用している人 (それぞれ35.1%、29.9%) よりも多いという結果のようです。モバイル向けの、ハンディで扱いやすい点字デバイスが増えてきているからでしょうか、興味深いです。
モバイルデバイスでのスクリーンリーダー併用も盛んに
スマートフォンやタブレットといったモバイルデバイスで、スクリーンリーダーを併用している人は約9割 (88%) にのぼります。プラットフォームの内訳としては iOS が75.6%、Android が22%、という結果になっていて、これと連動する形で VoiceOver 利用者が69.0%、TalkBack 利用者が29.5% (両者を合わせると98.5%) を占めています。
「モバイルデバイスと PC のどちらをよく使うか? / Which do you use most often with a screen reader?」という設問に対しては、半数 (54.0%) が「どちらも同じ頻度」と回答しています。「モバイル機器のほうをよく使う」という回答 (11.4%) と合わせると、7割弱の人がスマートフォン/タブレットを普段使いしている様子がうかがえます。
また、モバイルデバイスで入力手段としてキーボードを併用している人は、Always (3.9%)、Often (11.8%)、Sometimes (25.7%) を足すと4割にのぼります。タッチ (ジェスチャ) 操作を前提とした UI であっても、キーボード操作をしっかりサポートする必要があると言えるでしょう。
ソーシャルメディアのアクセシビリティも着実に向上
Very Accessible (14.9%) と Somewhat Accessible (54.3%) を合わせると7割にのぼり、前回調査の6割という結果と比較すると、ソーシャルメディアのアクセシビリティは着実に向上していると言えそうです。一連のユーザーエクスペリエンス (UX) において、ソーシャルメディアがウェブ利用の起点になることが多い現在、この結果はウェブのエコシステム全体にとって、よい傾向だと思います。
WAI-ARIA ランドマークは意外と使われていない?
スクリーンリーダー利用者の WAI-ARIA ランドマークの使用について、Whenever they’re available (18.0%)、Often (12.5%)、のいずれもが前回調査よりスコアを落としています。Sometimes (28.8%) と合わせると6割近くになるものの、伸び悩んでいる印象です。WebAIM の考察でも、理由を計りかねているようですが、ウェブコンテンツ側でランドマークがあまり実装されていない、実装されていても不適切な実装になっていることが多い、というのはあるかもしれません。
別の設問 (When trying to find information on a lengthy web page, which of the following are you most likely to do first?) で、情報探索の方法として「見出しの飛ばし読み」をする人が圧倒的に多い (67.5%) という結果もあり、案外これで満足している (わざわざランドマークを頼りにせずとも済んでいる) 人も少なくないのかもしれません。
アクセシビリティ問題を引き起こしやすい事項
最後に、本調査では、ウェブのアクセシビリティ問題を引き起こしやすい事項 (problematic items) について、選択肢の中から3つ (順位付けした形で) 回答者に選ばせていますが、その結果 :
- CAPTCHA
- 予期せず画面の状況が変わってしまうこと (Unexpected screen changes)
- 曖昧なリンクやボタン (Ambiguous links/buttons)
- Flash コンテンツ
- キーボード操作性の不備 (Lack of keyboard accessibility)
…が上位に挙がっています。「曖昧なリンクやボタン」は (本調査の回答者像に鑑みると) 主にラベルの具体性を指し示しているものと思われますが、昨今のフラットデザインを継承したビジュアルデザインにおいては、リンクやボタンはそれらしく認知できるように見せることも併せて配慮したいところです。また、「キーボード操作性の不備」についても、JavaScript によるインタラクションが多用されている現在、フォーカスの視覚表現も含めて、忘れずに配慮したいものです。
また、ランキングとしては比較的順位を下げていますが :
- 複雑で難解なフォーム (Complex/difficult forms)
- 代替テキストの不備 (Missing/improper alt text)
- 見出しの不備 (Missing/improper headings)
- 複雑なデータテーブル (Complex data tables)
…といったあたりも、ウェブアクセシビリティの基本として、しっかり押さえておきたいところです。
当サイトでは 2009年の第1回目からこの調査に注目していますが、海外のスクリーンリーダー利用者事情を俯瞰できるよい機会になっています。今後も引き続き、ウォッチしてゆきたいと思います。