スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2014年1月実施の WebAIM 調査より
Web アクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体「WebAIM (Web Accessibility in Mind)」による、恒例のスクリーンリーダー利用者調査 (第5回) の結果が発表されました。英語のレポートになりますが、WebAIM サイトの「Screen Reader User Survey #5 Results」で詳細をご覧いただくことができます。
この記事では、WebAIM 発表の調査結果から、私自身が興味深く感じた事項を中心に、スクリーンリーダー利用に関するトレンドについてまとめたいと思います。
調査方法の概略
調査は2014年1月に Web アンケート形式で行なわれ、有効回答数は1,465人でした。回答者の地域属性は、北米が61.4%、欧州が20.6%、アジアが10.4%、豪州/オセアニアが3.2%、となっています (前回に比べ北米の比率が低下し、欧州やアジアの回答者が増えています)。
スクリーンリーダーの習熟度については、上級者が58%、中級者が39%、初心者が3%、という内訳です (中級者以上が合わせて97%)。また、インターネットの習熟度については、上級者が64%、中級者が34%、初心者が2%、という内訳です (中級者以上が合わせて98%)。これら習熟度の内訳は前回調査とほぼ同様で、今回の調査でも、視覚障害者のうち、それなりにインターネットを使いこなしている人が、中心的回答者像であると言えます。
以下、今回の調査からうかがえる傾向について、気になったものをピックアップします。
PC において無料スクリーンリーダーのユーザーが増えている
「普段よく使うデスクトップ/ラップトップ用スクリーンリーダー?(Which of the following desktop/laptop screen readers do you commonly use?)」という設問があります。もっとも多いのは JAWS ですが (前回調査とほぼ同じ、全回答者のうち63.9%の人が普段使っていると回答)、次に多いのが無料のスクリーンリーダー NVDA で、驚いたことに全回答者の半数以上 (51.2%) が普段から使っていると回答しています (前回調査では43.0%)。次いで、これも無料の VoiceOver (Mac) が続きますが、全回答者のうち36.8%の人が使っていて、前回調査の結果 (30.4%) に比べこちらも着実に増えています。
また、「無料のスクリーンリーダーは、有料スクリーンリーダーの代用になるか?(Do you see free or low-cost screen readers (such as NVDA or VoiceOver) as currently being viable alternatives to commercial screen readers?)」という設問に対して「はい」と回答した人が73.5%に上っており (前回調査では66.5%)、無料スクリーンリーダーに対する満足度も、引き続き高まってきていると言えます。
モバイル機器を使用する人が増えている
「スクリーンリーダーを使用しているデバイスは?(On which of the following devices do you use a screen reader?)」という設問があり、全回答者の72%の人がモバイル機器を使っていると答えています。デスクトップ PC (78%) やラップトップ PC (81%) ほどではないにせよ、かなりの割合の人が、モバイル機器を使っていることがうかがえます。
使われているモバイルのプラットフォームの内訳は iOS が圧倒的で (65.2%)、次いで Android (16.0%) となっています。これに連動する形で「普段よく使うモバイル機器用のスクリーンリーダーは?(Which of the following mobile screen readers do you commonly use?)」については、VoiceOver が大半で (60.5%)、次に多いのが TalkBack (21.6%) となっています。
なお、「モバイル機器のスクリーンリーダーを、PC よりも多く使用しているか?(Do you use a mobile/tablet screen reader more than a desktop/laptop screen reader?)」という設問に対しては、「はい」と答えた人は12%、「だいたい同じ」と答えた人は32%で、合わせると全回答者の半数近く (44%) になります。今後、この比率がさらに増えることになるのか、気になるところです。
ランドマーク (WAI-ARIA Landmark) の利用が進んでいる
「スクリーンリーダーで、ランドマークを辿って情報を探す頻度はどのくらいか? (How often do you navigate by landmarks/regions in your screen reader?)」という設問があり、以下のような回答が得られています。
- ランドマークがあれば、いつでも使う : 25.5% (前回調査では24.6%)
- しばしば使う : 18.3% (前回調査では15.8%)
- ときどき使う : 28.0% (前回調査では25.5%)
- あまり使わない : 15.1% (前回調査では 18.5%)
- 使ったことがない : 13.1% (前回調査では15.6%)
「いつでも使う」「しばしば」「ときどき」を合わせると、7割以上の人がランドマークを使うと回答しています。多くの人にランドマーク (WAI-ARIA Landmark) が認知され、利用されるようになってきたと言えそうです。
情報探索において見出し要素に頼る人が増えている
「長いページの中で情報を探す場合、まずは何をするか?(When trying to find information on a lengthy web page, which of the following are you most likely to do first?)」という設問があり、以下のような回答が得られています。
- ページ内の見出し要素を辿って情報を探す : 65.6% (前回調査では60.8%)
- (ブラウザの) ページ内検索機能を使う : 15.2% (前回調査では16.6%)
- ページ内のリンク箇所を辿って情報を探す : 9.8% (前回調査では13.2%)
- ページ内のランドマークを辿って情報を探す : 2.8% (前回調査では2.3%)
- ページ全体を通して読む : 6.7% (前回調査では7.0%)
ページ内に配置された見出し要素 (<h1>、<h2>、<h3> など) に頼る人の割合はますます増加傾向にあり、ランドマーク (WAI-ARIA Landmark) を辿って情報を探す人も若干増えている様子です。
おまけ : 支援技術の検出の是非について
今回の調査では、「Web サイト側がスクリーンリーダーを介したアクセスである旨を検出することについて、どう感じるか?」という設問があり、多くの人が「Very comfortable (とても安心/快適)」または「Somewhat comfortable (やや安心/快適)」と回答しています。
この設問に対し、異議を唱えるアクセシビリティ専門家もいます。
- "Should we detect screen readers?" is the wrong question (Karl Groves)
- Detecting Screen Readers ? No (Web Axe)
Web アクセシビリティとは、ある特定の支援技術 (スクリーンリーダー) に限定的に対処するものではない、というのがその主な理由で、私自身も、そう思います。
いかがでしたでしょうか?今後も引き続き、この WebAIM の調査はウォッチしてゆきたいと思います。