スクリーンリーダー利用に関するトレンド : 2021年5月~6月実施の WebAIM 調査より

ウェブアクセシビリティ向上のために活動している米国の非営利団体 WebAIM (Web Accessibility in Mind) による、恒例のスクリーンリーダー利用者調査 (第9回) の結果が発表されました。英語のレポートになりますが、WebAIM サイトの「Screen Reader User Survey #9 Results」で詳細をご覧いただくことができます。

この記事では WebAIM 発表の調査結果の中から、私自身が興味深く感じた事項を中心に、スクリーンリーダー利用に関するトレンドについてまとめたいと思います。

調査の概略

本調査は2021年5月~6月にウェブアンケート形式で行なわれました。有効回答数は1,568人 (前回調査より344人増加) で、回答者の地域属性は、北米が57.7%、欧州が23.5%、アジアが8.2%、豪州/オセアニアが3.8%、アフリカ/中東が3.4%、南米が2.7%、中米/カリブ海地域が0.8%、となっています。

スクリーンリーダーの習熟度については、上級者が57.5%、中級者が37.4%、初心者が5.1%、という内訳です。また、インターネットの習熟度については、上級者が67.5%、中級者が30.8%、初心者が1.7%、という内訳です。いずれも、前回調査までは上級者の割合が少しずつ増加する傾向にありましたが、今回調査では、上級者の割合が減って、中級者の割合が増えています。上述の通り調査回答者 (有効回答) 数が前回調査より3割近く増えていますが、それが中級者の割合を高めているのかもしれません。

なお、前回調査では、スクリーンリーダー利用におけるモダリティの内訳についての設問があって興味深かったのですが (参考 : Screen Reader User Survey #8 Results の「Screen Reader Usage」セクション)、今回調査ではこの設問は省かれてしまったようです。

PC 用スクリーンリーダーは再び JAWS がトップに

PC 用スクリーンリーダーは、本調査が行われているこの10年ほどの間で、NVDA ユーザーが着実に増えており、前回調査ではついに NVDA が JAWS を抜きトップになりましたが、今回調査では再び JAWS がトップに返り咲いています。「メインで利用するスクリーンリーダー (primary screen reader)」として JAWS は53.7%、NVDA は30.7%となっています。また、「普段よく使うスクリーンリーダー (screen readers commonly used)」として JAWS は70.0%、NVDA は58.8%となっています。

ただこれは地域差もあるようで、「メインで利用するスクリーンリーダー」として、豪州と北米では JAWS の利用率が NVDA に対して高く (それぞれ、71.4% vs 21.4%、63.1% vs 19.4%)、欧州、アフリカ/中東、アジアでは JAWS の利用率が NVDA に対して低く (それぞれ、40.2% vs 41.6%、38.5% vs 61.5%、31.5% vs 39.7%) なっています。

PC 用ブラウザは引き続き Chrome がトップ

スクリーンリーダーと併用する PC 用ブラウザは、前回調査に続いて Chrome がトップで、半数以上が Chrome をメインに使用しています (53.6%)。また、今回調査では Microsoft Edge が2位に上昇し (18.4%)、 Firefox が3位に落ちています (16.5%)。Edge の Chromium 化によって、JAWS や NVDA といったスクリーンリーダーと併用しやすくなっているから、かもしれません。

スクリーンリーダーとブラウザの組み合わせで見ると JAWS + Chrome がトップ (32.5%)、次いで、NVDA + Chrome (16.0%)、JAWS + Edge (12.6%)、NVDA + Firefox (9.7%) ... となっています。

回答者のほとんどがモバイルデバイスのスクリーンリーダーを利用

「モバイルデバイスでスクリーンリーダーを使っているか? (Do you use a screen reader on a mobile device?)」という設問に対しては、90%の回答者が Yes と答えています。

「メインで利用するモバイルプラットフォーム (primary mobile/tablet platform)」としては、Apple (iPhone や iPad) が71.9%と突出していて、次いで Android (25.8%)、Chrome OS (0.3%) ... と続きます。「普段よく使うモバイル用スクリーンリーダー (mobile/tablet screen readers commonly used)」も、VoiceOverがもっとも多く (71.5%)、次いで TalkBack (29.1%) となっています。

ただこれも、地域差があるようで、iOS (Apple) デバイスの利用率は、北米、豪州、欧州で高く (それぞれ、82%、75%、71%)、アフリカ/中東、南米、アジアでは低い (それぞれ、54%、33%、27%) という結果になっています。グローバルなウェブサイトでは特に、Android (TalkBack) でのアクセシビリティもしっかり担保したいところです。

情報探索の手がかりとしての見出しの重要性

「長いウェブページで情報を探そうとするとき、次のうちどれを最初に行う可能性が高いか? (When trying to find information on a lengthy web page, which of the following are you most likely to do first?)」という設問に対しては、「ページ内の見出しをナビゲートする」人が突出して多く (67.7%)、関連して「見出しでページをナビゲートするとき、見出しレベルはどのくらい有用か? (When navigating a web page by headings, how useful are the heading levels to you?)」という設問に対しては、「とても有用 (Very useful)」と答えた人が52.8%、「ある程度有用 (Somewhat useful)」と答えた人が32.9%で、合わせて85%を超えています。基本的なことですが、やはり見出しのマークアップを適切に行うことは、アクセシビリティを担保するうえで不可欠と言えるでしょう。

また、WAI-ARIA ランドマークの利用についても、「あればいつでも使う (Whenever they're available)」と答えた人が11.7%、「よく使う (Often)」と答えた人が13.9%、「時々使う (Sometimes)」と答えた人が27.8%、となっており、合わせて半数を超えています。見出しと併せて、ランドマークも適切に実装したいところです。


当サイトでは 2009年の第1回目からこの調査に注目していますが、グローバルにスクリーンリーダー利用者事情を俯瞰できるよい機会になっています。今後も引き続き、ウォッチしてゆきたいと思います。