WCAG 3.0 First Public Working Draft
W3C が勧告している WCAG (Web Content Accessibility Guidelines) 2.x シリーズの次期バージョンである、WCAG 3.0 の First Public Working Draft が、2021年1月21日に開示されました。
今回の First Public Working Draft では、具体的なガイドラインの策定内容についてはまだ全体像が見えませんが、現行の WCAG 2.x シリーズから大きく構造が変化する予定であることは読み取ることができます。
この記事では、WCAG 3.0 について現時点で見えていることを、WCAG 2.x シリーズとの関係や違いの観点から、簡単にまとめてみたいと思います。実際に WCAG 3.0 を読み解く際の参考にしていただければ幸いです。
WCAG 3.0 の位置づけ
- WCAG 3.0 の正式名称は、従来の「Web Content Accessibility Guidelines」に代わり、「W3C Accessibility Guidelines」になる。
- ウェブコンテンツを対象としている WCAG 2.x だけでなく、ユーザーエージェントに対するガイドライン (UAAG) や オーサリングツールに対するガイドライン (ATAG) の内容も包含される (ただし、すべての内容が含まれるとは限らない)。
- また適用対象もより広くなり、デジタルプロダクト全般 (ウェブだけでなく、ePub、PDF、各種アプリケーション、モバイルアプリ、その他の新技術、を含む) にわたる。
- WCAG 3.0 は、WCAG 2.x シリーズとの後方互換性はない。WCAG 2.x シリーズの後継ガイドラインではあるが、WCAG 2.x シリーズを廃止するものではない。
WCAG 3.0 の建て付け
- WCAG 2.x は「Principles (原則)」「Guidelines (ガイドライン)」「Success Criteria (達成基準)」という3段階の構成になっているが、WCAG 3.0 は「Guideline(s)」「Outcome(s)」という2段階の構成になる。
- 4つの原則、「Perceivable (知覚可能)」「Operable (操作可能)」「Understandable (理解可能)」「Robust (堅牢)」がなくなる。
- 従来の「Success Criteria (達成基準)」に代わり、「Outcome(s)」が設定される。
- WCAG 3.0 の各「Guideline」は、平易な言葉 (plain language) で記述される基本的な指針で、技術的な詳細には言及しない。
- 組織のマネージャー、ポリシー立案者、あるいはアクセシビリティに不慣れた人でも理解できるような記述になる。
- WCAG 2.x の13個ある「Guideline(s)」よりも粒度が細かくなる見込み。
- WCAG 3.0 では、各々の「Guideline」を解説するドキュメントとして、「How To」が用意される。WCAG 2.x の「解説書 (Understanding WCAG 2.x)」に相当する。
- WCAG 3.0 では、各々の「Outcome」に対して、「Methods」が提供される。WCAG 2.x の「達成方法集 (Techniques for WCAG 2.x)」に相当する。
- WCAG 2.x の「Success Criteria (達成基準)」が合否 (pass または fail) 判定なのに対し、WCAG 3.0 の「Outcome(s)」は、段階的な評価 (Very Poor [0]、Poor [1]、Fair [2]、Good [3]、Excellent [4]) になる。また、各「Outcome」には「Critical error(s)」が定義され、これに抵触すると Very Poor [0] の判定になる。
- WCAG 2.x で定義されている「非干渉 (Non-Interference)」の内容は、この「Critical error(s)」に盛り込まれる?
- WCAG 3.0 ではあらかじめ、「Functional categories」(障害などのカテゴリー) および、そのカテゴリーごとに想定されるギャップやミスマッチとして「Functional needs」が定義される。 この「Functional needs」をもとに、「Outcome(s)」が策定される。
WCAG 3.0 の適合レベルとテスト
- WCAG 3.0 では、適合レベルとして (従来の「A」「AA」「AAA」に代わり) 「Bronze」「Silver」「Gold」というレベル分けが採用される。
- 「Bronze」レベルは、WCAG 2.x のレベル「AA」に概ね相当する。
- 各「Outcome」のスコア (0-4) に、「Functional categories」(障害などのカテゴリー) によるスコアが加味されて「Overall score」が算出され、それによって適合レベルを満たすか否かが決定される?
- 「Bronze」レベルへの適合は、 「Atomic tests」(WCAG 2.x におけるテスト方法と同様の、コードやオブジェクトなどに対するテスト) によって検証される。
- 「Silver」および「Gold」レベルへの適合は、「Holistic tests」(ユーザビリティテスト、支援技術を用いたウォークスルー、など) によって検証される。
- WCAG 3.0 のテストは、「View (ユーザーに提示されるコンテンツ)」だけでなく、「Process (ユーザー体験の一連の流れ)」も対象となる。
- 「Atomic tests」が主に「View」に対して行われ、「Holistic tests」が主に「Process」に対して行われる?
一部、「?」で示した箇所があるように、現時点で咀嚼しきれていない部分もありますが、引き続き、情報をアップデートしてゆきたいと思います。
なお、本記事の執筆にあたっては、First Public Working Draft の原文に加えて、以下の記事を参考にさせていただきました。
- WCAG 3 Introduction | Web Accessibility Initiative (WAI) | W3C
- What to Expect From The First Public Working Draft of WCAG 3.0 | Deque
- W3C Accessibility Guidelines (WCAG) 3.0の初期公開作業草案が発行されました | アクセシビリティBlog | ミツエーリンクス