WCAG 3.0 (W3C Working Draft 2024年5月16日版)
W3C にて策定作業が行われている WCAG 3.0 (W3C Accessibility Guidelines) の Working Draft が、2024年5月16日付で更新されました。先のドラフトが2023年7月24日付なので、10か月ぶりの更新になります。
註 : その後、5月28日付けで微修正 (Editor's Note の追加) が加えられており、5月16日版のドラフトは既に古いバージョンとなっています。ここでは、本記事執筆時点の最新バージョンである5月28日版を参照します。先の記事でご紹介した2023年7月24日版のドラフトとの差分は、実質的に「2. Guidelines」の章のみです。従来の WCAG 2.x が Principles (原則)、Guidelines (ガイドライン)、Success Criteria (達成基準) という3段構成なのに対し、WCAG 3.0 は Guidelines と Outcomes という2段構成になり、それらがこの章に記述されます。Outcomes は WCAG 2.x で言うところの達成基準に代わる、検証可能なステートメントです。
なお、先のドラフトでは23項目の Guidelines 案が列挙され、その下に紐づく Outcomes については空白という状態でした。今回のドラフトでは、Guidelines 案が12項目に整理され 、その下に紐づく Outcomes 案が合わせて174項目、列挙されています。WCAG 2.2 の達成基準が86あるのに比べると2倍の分量ですが、今後これらの Outcomes 案は、レビューを経て編集、追加、結合、削除される予定です。
なお今回の Outcomes 案には一文程度の記述があるだけで具体的な内容がなく、まずは網羅的に Outcomes になりそうな項目を洗い出してみて、Guidelines の括りでグルーピングし、取り敢えずアルファベット順に並べた、といったところだと思います。まだまだ熟れていないものの、それなりに網羅的ではあるので、俯瞰してみることで WCAG 3.0 が目指そうとしていることをなんとなく感じることはできそうです。
以下、各 Guidelines にどんな Outcomes があるのかについて、概略をまとめてみました。Guidelines の項目名はリンクになっていて、WCAG 3.0 のドラフト原文の該当箇所を参照することができます。
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視覚的な動きや閃光に関する Outcomes があります。Audio shifting という Outcome 案もあり、動きに伴う音場の変化についても併せて検討がなされているようです。
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フォームへの自動入力のサポート、入力要素に対するラベルや指示説明、エラーの提示、といった Outcomes があります。
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コンテンツ利用のための十分な時間の提供、必須アクションの明示、「戻る」操作での入力済データの保持、認知機能テストや暗記の不強要、プロセスにおける不必要な情報ノイズの回避、選択済内容の可視化、作業途中の状態の保存、手順の明示、といった Outcomes があります。
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キャプション (字幕)、音声解説、トランスクリプト、画像の代替テキストなど、情報保障となる代替コンテンツに関する Outcomes があります。
キャプションやトランスクリプトの言語選択 (Audio alternative in preferred language)、メディアの代替コンテンツの見つけやすさ (Finding media alternatives)、非言語的な手がかり (声のトーン、顔の表情、身振りなど) の代替コンテツへの包含 (Non-verbal cues) など、より突っ込んだ Outcomes 案もあります。また、AI が自動生成した代替テキストを編集できること (AI editable) や、代替テキストが自動生成である旨の識別ができること (Identify autogenerated text) といった Outcomes 案も検討されています。
なお今回のドラフトでは、感覚的な特性 (色、視覚的な奥行き、音、空間オーディオ) のみに依存した情報伝達を避ける旨の Outcomes が、この「Image and media alternatives」の中に記述されています。
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インタラクティブなコンポーネントに関する、ラベル、重要度の明示、ターゲットのサイズ、配色 (コントラスト)、セマンティクス (名前、役割、値、状態)、フォーカス管理、状況変化の通知、といった Outcomes があります。
コントロールの一貫性 (挙動、ラベル、外見) を保つこと (Behavior of controls、Consistent labels、Visual design of controls)、慣習に従うこと (Conventions)、欺瞞的なコントロールや説明の禁止 (Deceptive controls)、といった Outcomes 案も検討されています。
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キーボード操作、キーボードトラップの回避、タッチジェスチャ、ポインター操作、に関する Outcomes があります。
身体やデバイスの動きに依存しない操作手段の提供 (Use without body movement、Use without device movement)、多様な入力モダリティの担保 (Varied inputs)、といった Outcomes 案もあります。
フォーカス表示に関する Outcomes もいくつかありますが、この「Input / operation」だけでなく上述の「Interactive components」の中にも点在しており、整理が必要かなという印象です。
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ナビゲーションの配置、セクションの配置、コンテンツの順序、余白によるチャンキング、といったページレイアウトに関する Outcomes があります。
関係性、一貫性、識別性、慣習 (馴染み)、文脈、といったあたりが全体的に重視されている印象です。
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ナビゲーションをサイト全体にわたって一貫性を保った形で提示すること、画面サイズや表示倍率が変わってもナビゲーションを利用できること、といった Outcomes があります。
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AI アルゴリズムによる障害への偏見の排除、契約やデータ送信などにおける明確な合意、障害に関するプライバシーの保護、システムの搾取的な行為の禁止、機密情報の保護、といった Outcomes があります。
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WCAG 2.x では扱われていない、テキストライティングに関する Outcomes が検討されています。テクニカルライティングの定石がいくつか採り上げられている (たとえば Single idea、Topic sentence、Double negatives、Numbered steps、Uncommon words、Unnecessary words or phrases など) のをはじめ、認知や学習負荷を軽減するためのライティング術が広く挙げられている印象です。
タイポグラフィに関する Outcomes もこの「Text and Wording」の中に含まれており、WCAG 2.x でおなじみのテキストのコントラストはもちろんのこと、最小のフォントサイズおよびウェイト (Text minimum)、フォントの種類の選定 (Text style) といった基準も新たに検討されています。
また、テキストのスタイリングとセマンティクスを一致させること (Semantic text appearance) もここで言及されています。
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ヘルプの提示の一貫性 (ラベルや位置など) (Consistent help)、文脈に即したヘルプの提示 (Contextual help)、インストラクションが感覚的な特性に依存しないこと (Sensory characteristics) など、ヘルプやサポートに関する Outcomes があります。
会話形式のサポート (チャットボットなど) をテキストと音声のどちらでも利用可能にすること (Conversational support)、視覚的なデータ表示に対する非視覚のヘルプの提示 (Data visualization help)、テキストによる複雑な情報に対する視覚的なイラストレーションなどの支援 (Supplements to text) など、ユーザーの多様な認知特性に応じたきめ細かい Outcomes 案が検討されています。
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ユーザーの使いやすさに合わせた設定変更などに関する Outcomes があります。たとえば、文字色と背景色、動画再生時の情報保障の調整 (キャプションや音声解説など)、割り込み表示の調整 (通知など)、テキストの表示のしかた (フォント、サイズ、間隔) などのカスタマイズができることが要件として挙げられています。
複雑な情報に対する代替的な伝達手段の提供 (Alternative presentation)、チャンクの分割 (Chunk content)、刺激の軽減 (Disturbing content、Haptic stimulation) といった Outcomes 案も検討されています。
以上です。WCAG 3.0 はまだ内容的に煮詰まっていないところが多く、今後もいろいろと変更が加えられ、少しずつブラッシュアップされてゆくものと思われます。引き続き、動向をウォッチしつつ、当サイトでも情報をアップデートしてゆきたいと思います。