WCAG 3.0 (W3C Working Draft 2024年12月12日版)

W3C にて策定作業が行われている WCAG 3.0 (W3C Accessibility Guidelines) の Working Draft が、2024年12月12日付で更新されました。前回の Working Draft が2024年5月28日付なので、約半年ぶりの更新になります。

前回の Working Draft との差分 (diff) を見ると、「2. Guidelines (ガイドライン)」の章が大幅に修正されていたり、「3. Conformance (適合)」の章がだいぶ削られていたりします。今回の更新と同日付で「Explainer for W3C Accessibility Guidelines (WCAG) 3.0」という説明文書も Group Draft Note として3年ぶりに大改訂されており、WCAG 3.0 (Working Draft) に蓄積されていた説明的な記述 (適合に関する説明など) が、この「Explainer for WCAG 3.0」に切り出される形で、整理されているようです。

この記事では、まずは「Explainer for WCAG 3.0」を参考に WCAG 3.0 の概略を押さえ、次いで今回の WCAG 3.0 Working Draft で改めて列挙し直されたガイドライン項目 (まだ暫定ですが) を俯瞰してみたいと思います。

WCAG 3.0 の概略

「Explainer for WCAG 3.0」を見ると、WCAG 3.0 の構造や、適合についての考えかたが解説されています。ここでは簡単にサマリーします。

WCAG 3.0 の構造

今回の更新で、WCAG 3.0 の構造は以下のようになっています (参考 : 「Explainer for WCAG 3.0」の 5. WCAG 3.0 Structure)。

以前の WCAG 3.0 Working Draft では、各 Guideline (ガイドライン) の下に Outcomes (成果) がある、という建付けでしたが、今回の Working Draft では Outcomes という用語がなくなり、代わりに Requirements (要件) がある、という形になっています。Requirements には、Foundational (基礎的) のものと Supplemental (追加的) のものがあります。

各 Guideline の下には、Requirements (Foundational / Supplemental) に加えて、Assertions がある場合もあります。この Assertions というのは、プロダクトの運用主体に帰属する文書化された表明 (documented statement) で、アクセシビリティを担保 / 強化するための特定の手順 (ユーザビリティテスト、ヒューリスティック評価、支援技術を用いたウォークスルー、など) を適切に踏んだ旨を表明するものです。Assertions の作りかたについては、別途、ドキュメンテーション要件が定義されるようです (参考 : 「Explainer for WCAG 3.0」の 6.5 Testing Assertions)。

そして WCAG 3.0 には、参考情報 (関連文書) として、How to Documents (解説文書) と Methods (方法) が予定されています。それぞれ、従来の Understanding (WCAG 2.x 解説書) と Techniques (WCAG 2.x 達成方法集) に相当するものと思われますが、WCAG 3.0 ではそれぞれ個別の文書として存在するのではなく、ひとつの文書としてまとめる検討がなされているようです (参考 : How to meet WCAG 3 ドラフト)。上述のツリーだと、これらは Requirements (Foundational / Supplemental) および Assertions を補足するもの、というふうに見えますが、今回の WCAG 3.0 Working Draft を見たところ、各 Guideline を How to が補足し、Requirements (Foundational / Supplemental) や Assertions を Methods が補足する、という建付けにようにも見えます (例 : WCAG 3.0 Worlking Draft の Guideline 2.1 Image and media alternatives)。

Requirements や Assertions の試験に際しては、それぞれに対しておそらく試験範囲が定義されると思われます。「Explainer for WCAG 3.0」の「6. Testing」の章の 6.3 Scope) を見ると、試験範囲の想定として、items (個々のインタラクティブなコンポーネント、ラベル、エラーメッセージ、アイコン、画像、など)、views (ウェブページやアプリの各画面)、task flow (特定のユーザー行動のための一連の views のつながり)、product (ウェブサイトやアプリの全体) が検討されています。

適合についての考えかた

WCAG 3.0 の適合についての考えかたですが、上述の Foundational Requirements (基礎要件)、Supplemental Requirements (追加要件)、および Assertions (表明) に基づく適合モデルが検討されています (参考 : 「Explainer for WCAG 3.0」の 7. Conformance Approach)。Guidelines の中で規定された Foundational Requirements (基礎要件) をすべて満たすことが、概ね、従来の WCAG 2.x のレベル AA への適合に相当するようです。より高いレベルへの適合には、Supplemental Requirements (追加要件) や Assertions (表明) を満たすことが求められます。

WCAG 3.0 における適合レベルは、(従来の A、AA、AAA に代わり) BronzeSilverGold という格付けが検討されています。

上述の適合レベルに具体的にどのように影響するかは明記されていませんが、WCAG 3.0 では、Issue severity (問題の深刻度) という尺度を用いたスコアリングや、Adjectival ratings (形容詞的評価)、つまり単純な Pass / Fail ではなく、Fail (失敗した)、Progress (合格手前の途上である)、Pass (合格した)、Better (より優れている)、Exceptional (卓越した) のような段階的評価の導入も検討されています。

WCAG 3.0 のガイドライン項目の暫定リスト

以上を踏まえたうえで、今回の WCAG 3.0 Working Draft でリストアップされている Guidelines の項目を見てみると、以下の通りになります。前回の Working Draft から大幅に変わっており、今後も変更が入ると思いますが、さしあたり現時点での Guidelines の全体像を俯瞰することができます。

Guidelines の項目名には参考までに仮訳を付けていますが、実際にリンクを辿って Working Draft の原文にアクセスしてみて、列挙されている Foundational Requirements (基礎要件)、Supplemental Requirements (追加要件)、Assertions (表明) をざっと併せ見ることで、各 Guideline の意図をより解像度高く汲み取ることができるかと思います。機械翻訳でも雰囲気はつかめるので、ご興味あれば一度眺めてみるとよいでしょう。

  1. Image and media alternatives (画像およびメディアの代替)
    1. Image alternatives (画像の代替)
    2. Media alternatives (メディアの代替)
    3. Nontext alternatives (非テキストの代替)
    4. Figure captions (図などのキャプション)
    5. Single sense (単一の感覚)
  2. Text and wording (テキストおよびワーディング)
    1. Text appearance (テキストの外観)
    2. Text-to-speech (テキストの読み上げ)
    3. Clear meaning (明確な意味)
    4. Simplified written content (簡潔な文章表現)
  3. Interactive components (インタラクティブなコンポーネント)
    1. Keyboard focus appearance (キーボードによるフォーカスの外観)
    2. Pointer focus appearance (ポインタによるフォーカスの外観)
    3. Navigating content (コンテンツのナビゲーション)
    4. Expected behavior (期待される振る舞い)
    5. Control information (コントロールの情報)
  4. Input / operation (入力 / 操作)
    1. Input operation (入力操作)
    2. Content changes (コンテンツの変更)
    3. Target size (ターゲットのサイズ)
    4. Keyboard operation (キーボード操作)
    5. Gestures (ジェスチャ)
    6. Motion input (動きによる入力)
  5. Error handling (エラーの処理)
    1. Correct mistakes (間違いの修正)
  6. Animation and movement (アニメーションおよび動き)
    1. Avoid physical harm (身体的危害の防止)
  7. Layout (レイアウト)
    1. Relationships (関係性)
    2. Recognizable layouts (わかりやすいレイアウト)
    3. Orientation (利用の方向づけ)
    4. Structure (構造)
  8. Consistency across views (ビュー横断的な一貫性)
    1. Consistency (一貫性)
  9. Process and task completion (プロセスおよびタスクの完遂)
    1. Avoid cognitive tasks (認知負荷がかかるタスクの防止)
    2. Adequate time (十分な時間)
    3. Unnecessary steps (不要な手順)
    4. Avoid deception (欺瞞の防止)
    5. Retain information (情報の保持)
    6. Complete tasks (タスクの完遂)
  10. Policy and protection (ポリシーおよび保護)
    1. Content source (コンテンツの提供元)
    2. Security and privacy (セキュリティおよびプライバシー)
    3. Algorithms (アルゴリズム)
  11. Help and feedback (ヘルプおよびフィードバック)
    1. Help available (ヘルプが利用可能)
    2. Supplemental content (補足的なコンテンツ)
    3. Feedback (フィードバック)
  12. User control (ユーザーによる制御)
    1. Control text (テキストの制御)
    2. Adjustable viewport (調整可能なビューポート)
    3. Transform content (コンテンツの変換)
    4. Media control (メディアの制御)
    5. Control interruptions (割り込みの制御)
    6. Control possible harm (起こり得る危害の制御)
    7. User agent support (ユーザーエージェントのサポート)

以上です。Accessible & Usable では引き続き、WCAG 3.0 の動向をウォッチしつつ、情報をアップデートしてゆきたいと思います。